本稿では、製薬企業の国内研究開発部門の技術者を対象に、リーダーシップ行動が技術者個人のプロジェクトへの貢献および技術成果に与える影響を定量的に調査する。質問票調査を実施し、技術者の6つのリーダーシップ行動特性を見出し、それらのプロジェクトへの貢献および技術成果への影響を分析した。その結果、技術者は、研究開発組織内での役割分担および期待される技術成果あるいは貢献に応じて、リーダーシップ行動を最適化する必要があることが示唆された。特に、部下管理型のリーダーシップ行動は、技術者のアカデミアにおける成果にマイナスの影響を与える場合があり、逆に、部下育成型のリーダーシップ行動についてはプラスの影響を与える場合があるということが明らかとなった。
This study quantitatively investigates the individual level direct impact of the leadership behaviors on their contributions to projects and technical achievements in the domestic research and development (R&D) departments of a pharmaceutical company. A questionnaire survey was conducted. Six behavioral characteristics of R&D staff were found and their impact on the contribution to projects and technical achievements were analyzed. The results suggest that R&D staff must optimize their leadership behaviors according to their role assignment and expected achievements or contributions within the R&D organizations. In particular, subordinate managerial leadership behaviors may have a negative impact on the academic achievements of R&D staff, while subordinate developmental leadership behaviors may have a positive impact.
リーダーシップは、リーダーとフォロワーという関係性のもとに議論されることが一般的である。しかしながら、活動プロセスにおける不確実性が高く、1人のリーダーがチームに与える影響に限界があるような場合には、シェアード・リーダーシップ、分散型リーダーシップなどの柔軟性が高いリーダーシップスタイルが有効であるとみられている(Day et al., 2004)。例えば、新薬の研究開発の過程には、技術的な多様性が高く、成功確率は極端に低いという特徴が存在し、効率が重要視される生産管理などの現場と比較すると、柔軟なマネジメントが求められることから、とりわけ、このようなタイプのリーダーシップが有効である可能性が高い。
すなわち、機能組織の上司あるいはプロジェクトのリーダーのみならず、他のメンバーも必要とされる場面において、リーダーシップを発揮できるようなチーム状態を作っていくことが望ましい(石川, 2013)。
さらに、近年では、研究開発組織のグローバル化に伴い、米国型のタレントマネジメントが、日本企業の研究開発組織においても行われている。タレントと目された人物は、常に新たなチャレンジとその結果に基づく能力や資質の判定というサイクルの中におかれる。そして、与えられたミッションやゴールをクリアしているのか、自社がリーダーに求める行動規範(リーダーシップ・バリューまたはリーダーシップ・コンピテンシー)に則って行動しているのか、という2点を恒常的に評価されている(石原, 2014)。
このような状況下では、部下を持つ管理職のみならず、多くのフォロワーにおいても、自身のキャリアアップを目的として、リーダーシップを発揮しようというモチベーションが高まる。その一方で、リーダーシップ行動を発揮すること自体が目的化してしまうリスクがあり、リーダーシップ行動が、技術的な成果に直接的に結びついているのか否かという視点で検証してみることの意義は大きい。
そこで、本稿では研究開発部門に所属する技術者が発揮するリーダーシップ行動全般に注目し、「製薬企業の研究開発部門の技術者のリーダーシップ行動が、プロジェクトへの貢献および技術成果に与える影響」を、実証的に明らかにする。
調査対象には、国内大手製薬企業A社の研究開発部門の日本人技術者を選択した。A社では、米国型のタレントマネジメントが国内においても行われているため、本稿の事例として、適切な研究対象であるといえる。
技術者のリーダーシップ行動に関する先行研究についてみてゆくと、Farris(1988)は、有効なリーダーシップとして、戦略的リーダー、組織的リーダー、テクニカルエキスパート、情報組織におけるリーダー、人材開発リーダー、環境創造リーダー、反応型リーダーという7項目の特性を指摘している。また、Thamhain(1992)は、研究開発管理という観点で、18項目の特性を指摘しているが、それらには、Farris(1988)の7項目と多くの共通点が認められている。国内の技術者を対象とする開本(1996)の研究では、研究開発部門における上司の果たすリーダーシップ行動全般を、テクニカルリーダーシップと呼び、リーダーシップ行動の次元として見出した14因子には、Farrisの7項目の特性と多くの類似点が認められている。さらに、リーダーシップ行動とその効果との関係について検討し、研究開発部門でのリーダーシップ行動で最も重要であるのは、創造的な研究開発環境を作り上げることであるとしている。開本(2006)によれば、研究開発部門では、他の部門よりもリーダーの技術的スキルの重要性が高く、人間関係スキルや管理スキルは、相対的に重要性が低いとされている。
技術者のリーダーシップ行動が、技術者の成果に常にプラスの影響を与えるというわけではない。例えば、蔡(2002)は、配慮的リーダーシップが部下の態度面での成果変数には正の影響を与えるのに対して、行動面での成果変数には負の影響を与えるという事例を報告している。配慮的リーダーシップが、部下の社内研究成果と総合的な研究成果に負の影響を与えるのである。つまり、配慮的リーダーシップによってもたらされる部下の満足や組織コミットメントが、必ずしも部下の高い研究成果につながるとは限らないことを示している。また、金井(1991)においても、中間管理職が部下の動機づけに成功しても、目標達成に必要な情報や資源、外部からの支援を得ることができなければ、部下の研究意欲を低下させてしまうことが報告されている。
技術者に求められるリーダーシップに関するPearce(2004)の研究によると、ナレッジワークにおける、相互依存性(interdependence)、創造性(creativity)および複雑性(complexity)の3点からみて、シェアードリーダーシップを発揮することが必要であり、加えて、機能組織の上司に相当する直属のリーダー(vertical leader)のサポートの継続・維持も求められるとみている。さらに、製薬産業に目を向けると、新薬の研究開発プロセスにおけるリーダーシップについて、Schneider et al.(2012)は、集権化されたリーダーシップ(centralized leadership)よりも、分散型のリーダーシップ(distributed leadership)が有効であることを示している。例えば、新薬の創出のように、高度な専門的知識が求められる課題に取り組む場合、プロジェクトや機能組織のメンバーのうち、その課題に適したメンバーがリーダーシップを発揮するスタイルが有効であるとみている。
技術者のリーダーシップが、成果に影響を及ぼす過程を分析する際には、媒介変数としての組織コミットメント、チームに対するアイデンティティ、モチベーション、エンパワーメントなど(石川, 2015)を設定することが一般的である。一方で、組織のメンバーが、因果関係の不明確な組織内の出来事に関して、リーダーシップに原因帰属させてしまう傾向があり、リーダーシップの幻想(romance of leadership)と呼ばれている(Meindl et al., 1985;小野, 2012)。このような認知バイアスを軽減するためには、フォロワーの視点を取り入れることなく、リーダー自身の行動特性と成果とを、ともに定量的な指標を用いて測定し、その関係性を分析することで、より客観的に評価できる可能性がある。また、Cunningham et al.(2024)は、研究開発部門におけるリーダーシップのスタイルと行動に関するレビュー論文において、リーダーシップスタイルの影響、リーダーの行動、人的資本としてのリーダーという3つの視点で先行研究を調査した結果、研究開発部門のリーダーの行動に関する実証研究の数が相対的に少ないと述べている。
以上みてきたように、リーダーシップについては、フォロワーとの関係性から論じられることが一般的であるが、新薬の研究開発プロセスにおいて、技術者には、機能組織の上司のように固定化したリーダーのみならず、各技術者にも自身の専門性に応じて、必要な場面において、リーダーシップを発揮することが求められている。このような現状に鑑み、リーダーシップ行動が、技術者自身の技術的な成果に与える影響を明らかにすることには意義があると考えられる。
一方、企業に所属する技術者を取り巻く環境に目を向けると、終身雇用制度の衰退、転職の活発化など、近年の雇用環境の変化に伴って、リーダーシップのあり方も変化してゆくことが予想される。すなわち、終身雇用制度のもとで行われてきたように、機能組織のリーダーにとって、自身の後継者となる技術者を社内で長期的に育成することの重要性は低下し、機能組織のリーダー(上司)にとっては、自身のチームの直近の技術的な成果にプラスの影響を与えることができるフォロワー(部下)の管理・育成に有効なリーダーシップ行動こそが、意義あるものとなる可能性が高い。
本稿では、研究対象として、製薬産業を選択する。その理由としては、研究開発のプロセスにおいて高度な専門的知識が必要となるため、リーダーの専門性がフォロワーより高い場合と、フォロワーの専門性がリーダーよりも高い場合とが存在し、さらに、リーダーの成果とフォロワーの成果とは、独立したものではなく相互に依存する。リーダーの成果は、フォロワーの貢献(成果)を内包する形をとることが多いため、研究開発部門に所属するリーダー個人の成果を測定することの意義が大きい産業であると言える。
新薬の研究開発期間は長く、多様な技術の融合が必要となるため、プロジェクトチームが結成されることが一般的である。高度な専門的技術が求められるため、プロジェクトのメンバーは機能組織の上司からの影響を受けるが、製品開発プロジェクトのリーダーからも影響を強く受ける。機能組織の上司と部下という単純な関係性ではなく、マトリックス組織内で、リーダーとフォロワーが複雑に入り組んだ関係性を構築しているため、プロジェクトにおける貢献と技術成果の両方を測定することの意義は大きい。
調査対象として、国内製薬企業1社を選択したことについては、単一企業の国内研究開発部門を対象に調査することにより、研究開発プロジェクトのチーム構成、組織文化、企業理念、産業構造の変化など、技術者を取り巻く環境要因が、ある程度、統制できるとみなすことにより、リーダーシップ行動が技術的な成果に直接的に与える影響を評価できる可能性が高まるからである。
2.2 仮説の導出新薬の研究開発は、表1に示すように段階的に進捗することが一般的である。A社の場合、研究開発組織は、研究部門と臨床開発部門に分かれており、研究部門は主に基礎研究から非臨床研究、臨床開発部門は臨床試験以降を主導するものの、臨床開発部門には臨床試験の準備段階からの関与が求められ、研究部門は臨床試験開始後も継続的にプロジェクトに参画する。
| 段階 | 基礎研究 | 非臨床研究 | 臨床試験 | 承認申請と審査 | 承認と発売 |
| 期間 | 2–3年 | 3–5年 | 3–7年 | 約1年 | |
| 活動 | くすりのモトとなる新規物質の発見と創製 | 新規物質の 有効性と安全性の研究 |
ヒトを対象とする有効性と 安全性のテスト |
厚生労働省への承認申請と 専門家による審査 |
厚生労働省による承認と薬価収載 |
(出所)製薬協(2025)創薬と育薬 | くすりについて | 日本製薬工業協会 を参考に筆者作成。
URL: https://www.jpma.or.jp/about_medicine/guide/medicine/discovery.html
リーダーシップと各種の技術成果に関する先行研究についてみてゆくと、Steele and Watts(2022)は、過去50年間の機能的リーダーシップ(functional leadership)と技術領域におけるイノベーション成果に関する文献をレビューし、11項目のリーダーの機能を見出した。作業の計画、調整および監視機能が、イノベーションおよびグループのプロセスを促進することにより、技術的イノベーションが促進されるとしている。リーダーの機能と革新的な成果が得られるまでの間のプロセスに関連する要素が明らかとなり、多くの研究において、リーダーの機能が、様々なプロセスを介して成果にプラスの影響を与えており、さらに、近位(プロジェクトパフォーマンスとプロダクトイノベーション)と遠位(イノベーションインパクト)の2段階の成果が存在し、例えば、論文数などの一般に広く用いられる技術成果の指標は、近位の成果であるプロダクトイノベーションに分類されている。次に、技術者のリーダーシップ行動が成果に与える直接的な影響に関する、インドの11の研究開発機関における研究(Gupta and Singh, 2014)によると、ポジティブリーダーシップ(positive leadership)は、心理的資本(psychological capital)を媒介して、創造的パフォーマンス行動(creative performance behavior)にプラスの影響を与えるものの、直接的な相関はないとしている。また、Gupta et al.(2017)によれば、インド最大の1民間研究開発機関において、リーダーの行動は、創造的な職務行動(innovative work behavior)にはポジティブな影響を与えるものの、論文数、特許数などには直接的には影響を与えないとしている。さらに、国内の研究に目を向けると、例えば、開本(2006)は、研究開発志向の強い大手素材メーカー1社に所属する研究開発技術者を対象に、リーダーシップ行動と成果の関係を分析した結果、プロジェクトの完成度という成果には、プロジェクトリーダーが課題達成行動とチーム構築行動という両次元のリーダーシップを発揮することが必要であるとしている。
このように、研究開発部門におけるリーダーシップ行動が成果に直接的にポジティブな影響を与えるのか否かを評価する際には、機能組織主体の成果だけでなく、プロジェクト主体の成果についても着目する必要がある。
さらに、技術者のリーダーシップ行動が様々な成果指標に与える影響について見てゆくと、金井(1991)は、研究開発マネジャーを対象とする調査において、部下をモチベートし、コントロールするための部下に対する働きかけである対内的活動と、ネットワークを創出・維持する対外的活動との両方が、非客観的指標を用いた自己評定の成果に対してプラスの影響を与えることを明らかにしている。また、石川(2000)は、国内の製薬企業5社の基礎研究者と開発研究者とを対象に、業績向上要因を分析した結果、職務特性によって業績向上要因が異なるだけでなく、学界での業績(学会発表、論文掲載、招待講演)あるいは業務上の業績(特許申請、製品化、社内表彰など)という業績のタイプ、さらに研究者の年齢層によっても特徴が認められることを示している。
研究開発部門におけるリーダーシップのスタイルについてみてゆくと、中堅の産業用部品メーカー7社を対象とする研究で、論文数、特許取得数などの客観的な指標ではなく、管理職が評価した創造的成果(Tierney et al., 1999)を成果変数とした場合、変革型およびゲートキーパー(GK)型リーダーシップが、創造的成果にプラスの影響を与えることが示されている(石川, 2007)。海外では、韓国の公的および民間の研究開発組織を対象とする調査において、リーダーのテクニカルエキスパート、チームビルダー、GK、戦略プランナー行動が、チームのパフォーマンスにプラスの影響を与えるという結果が得られている(Kim et al., 1999)。
以上みてきたように、プロジェクト主体のイノベーション、あるいは特許数、論文数などの技術者個人に紐づけることができる技術的な成果に対して、リーダーシップ行動は、さまざまなプロセスを介して、あるいは、直接的に技術者個人や組織の成果にプラスの影響を与えていることがわかる。
実務的な観点でも、技術者は、技術的なゴールやミッションを達成するという目的に合致する方向性で、リーダーシップ行動を発揮しようとしていると推察できる。
そこで本稿では、プロジェクト主体では、技術者個人のA社のプロジェクトへの貢献度を進捗、参画数および役割の指標を用いて多角的に評価し、機能組織主体では、社内業務およびアカデミアでの技術成果の指標を用いて評価する。このため、プロジェクト主体と機能組織主体の技術的な成果に対応する以下の2つの仮説を設定する。
仮説1:技術者がリーダーシップ行動を発揮することによって、プロジェクトへの貢献にプラスの影響を与える。
仮説2:技術者がリーダーシップ行動を発揮することによって、技術成果にプラスの影響を与える。
国内大手製薬企業A社の研究開発組織に所属する日本人技術者を調査対象とし、2019年10~11月にwebの質問票調査を実施した。有効回答数120件(回収率 約80%)を解析対象とした。研究部門と臨床開発部門の回答者の属性の分布を表2に示す。
3.2 変数の定義本稿では、医療用医薬品の研究開発に際して、技術者に求められるリーダーシップ行動を定量的に評価した。
製薬企業の研究開発部門に所属する技術者のリーダーシップ行動を把握するために、説明変数については、開本(1996)における調査項目(リーダーシップ行動)52項目のうち42項目を選択し、「当てはまらない」、「どちらかといえば当てはまらない」、「どちらともいえない」、「どちらかといえば当てはまる」、「当てはまる」という1~5点の5段階リッカート尺度で評価した。
各説明変数はリーダーシップ行動の尺度構成のためのアプリオリ次元(開本, 1996)を参考に、「職場にイノベーションを導入し、それを推進する」、「良い意味での緊張感ある職場風土を醸成する」、「長期的な視点にたって部下あるいはメンバーの能力開発を支援する」、「異能集団との協働を図り、共創を促進する」、「組織の常識や枠組みから自律したスタンス、視点をもって活動する」、「コア(機軸)となる能力を有している」、以上の6項目に分類した。
さらに、コントロール変数として、年齢、A社での在籍期間、現在の職位、A社への入社以前を含めた医薬品の研究開発業務の担当期間、博士号の有無および所属部門を調査した。
Cunningham et al.(2024)は、研究開発技術者のリーダーシップのスタイルと行動に関するレビュー論文において、研究開発マネジャー、研究開発プロジェクトリーダー、研究開発チームリーダーなどの定義が明確に区別されていない研究があるとしている。例えば、マトリックス型の研究開発組織においては、実務上、機能組織、プロジェクト、チームなどの明確な線引きが難しいということも影響しているとみられる。このような現状に対応するため、本稿では、今井(2018)を参考に、プロジェクト主体ではプロジェクトへの貢献度、機能組織主体では特許数、論文数などの技術成果を測定する。
成果変数である技術者のA社の社内のプロジェクトへの貢献度を測定する場合、プロジェクトの進捗を表すステージアップ数は、最も重要な成果指標であるが、技術者個人のプロジェクトへの貢献を定量的に分析することには、困難が伴う。そこで、本稿では進捗の指標であるステージアップ数(0、1~4、5~9、10~14、15件以上)に加えて、プロジェクトへの参画数の指標として、最大兼任数(0、1、2、3、4件以上)および総経験数(0、1~4、5~9、10~14、15件以上)、プロジェクトにおける役割の指標として、リーダー経験数、部門代表経験数および事務局経験数(各0、1、2、3、4件以上)を設定し、1~5点の5段階で測定した。これらの指標を用いて、技術者のA社プロジェクトへの貢献を多角的に評価した。
技術成果を個人レベルで測定する際には、原田(1998)などを参考に、アカデミアでの活動については、A社に在籍中の論文数、学会発表数および社外表彰数(各0、1、2、3、4件以上)、社内業務については、A社に在籍中の特許出願数および社内研究報告数(各0、1~4、5~9、10~14、15件以上)、社内表彰数(0、1、2、3、4件以上)、を1~5点の5段階で測定した。成果変数は技術者の自己評価であるため、主観的な要素を排除した指標を用いた。
リーダーシップ行動を表すと考えられる42項目の質問に対する回答結果を因子分析することによって、リーダーシップ行動の次元を検討した。
因子数に制限を設けず、固有値が1.00以上の7因子を抽出した(主因子法、プロマックス回転)。なお、因子負荷量が0.4以上の項目を選択した。また、複数因子に高い負荷量を持つ項目は認められなかった。これら因子の累積寄与率は、95.8%であった。さらに、因子7については、すべての項目の因子負荷量が0.4未満であったため、以後の分析からは除外した。また、因子6のみα係数が、0.70をわずかに下回った。以後の分析には、各因子に含まれる項目の合計点を用いた。
第1因子は、「既成概念にとらわれず、より高い視点から物事を見ている」、「会社の枠やルールに縛られず、自主的に行動している」、「職場に革新・改革を起こすためにイニシアチブを取ろうとする」、「他人の指示を待つことなく、自分から進んで行動する」が高い因子負荷量を示しており、変革促進因子と命名した。第2因子は、「社内外の有益なネットワークをもち、情報収集や信頼形成に活かしている」、「新しい発想や情報を社内外から取り込み、チームの創造性を高めている」、「部門や職位を超えて社内の様々な層の人々との信頼作りを心がけている」が高い因子負荷量を示しており、連携促進因子と命名した。第3因子は、「上司のニーズや立場を理解し、上司の仕事がうまく運ぶようにサポートしている」、「一人よがりにならず、関係者を巻き込んで仕事を進める」、「仕事に必要な他部門の関係者の協力をうまく得ている」が高い因子負荷量を示しており、円滑化促進因子と命名した。第4因子は、「部下の成長を促すようなさまざまな体験や仕事の機会を与える」、「部下には、より早くより多くの仕事をさせようとする」、「部下の仕事がうまくいっているかどうかを適宜確認する」、「部下の弱みを克服させるために指導する(学習の機会を与える)」、「部下には、リーダーの方針・命令系統に従うように要求する」が高い因子負荷量を示しており部下管理因子と命名した、第5因子は、「仕事を任せたいときには円滑に進むように気を配るが、余計な口出しはしない」、「部下にリーダーシップを発揮させるため脇役にまわって側面から支援する」が高い因子負荷量を示しており、部下育成因子と命名した。第6因子は、「決めたことは、困難に直面しても粘り強くやり抜いている」、「どんな困難があろうとゆるがない自己の哲学や仕事上の価値観を貫いている」が高い因子負荷量を示しており、職務完遂因子と命名した。
因子負荷量を表3に示す。
変数の基本統計量およびの順位相関係数(Kendallのtau-B)を表4に示す。研究部門の場合、主に管理職を対象に調査を実施したが、臨床開発部門ではワークショップ参加者が対象であったため、両部門の内訳を示し、中央値の差の検定も実施した。
| 全体 | 研究(n=85) | 臨床開発(n=35) | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 変数 | 平均 | 標準偏差 | 最小値 | 最大値 | α係数 | 平均 | 標準偏差 | 平均 | 標準偏差 | p値 |
| 現在の年齢 | 3.150 | 0.774 | 1 | 4 | 3.247 | 0.653 | 2.914 | 0.981 | .096 | |
| A社における在籍期間 | 3.292 | 1.080 | 1 | 5 | 3.435 | 0.892 | 2.943 | 1.392 | .070 | |
| 現在の職位 | 3.083 | 0.705 | 1 | 4 | 3.212 | 0.514 | 2.771 | 0.973 | .012* | |
| 研究開発業務担当期間(通算) | 3.375 | 1.038 | 1 | 5 | 3.447 | 0.994 | 3.200 | 1.132 | .200 | |
| 博士号の取得 | 1.558 | 0.499 | 1 | 2 | 1.706 | 0.458 | 1.200 | 0.406 | .000*** | |
| 本社地区勤務(臨床開発部門) | 1.292 | 0.456 | 1 | 2 | — | — | — | — | — | |
| 変革促進因子 | 16.267 | 2.496 | 10 | 20 | 0.810 | 15.882 | 2.485 | 17.200 | 2.298 | .005** |
| 連携促進因子 | 19.992 | 2.929 | 10 | 25 | 0.772 | 19.753 | 2.931 | 20.571 | 2.883 | .153 |
| 円滑化促進因子 | 21.108 | 2.822 | 8 | 25 | 0.817 | 21.024 | 2.673 | 21.314 | 3.188 | .340 |
| 部下管理因子 | 25.867 | 4.179 | 13 | 34 | 0.800 | 26.035 | 3.941 | 25.457 | 4.742 | .853 |
| 部下育成因子 | 16.583 | 2.389 | 11 | 20 | 0.720 | 16.659 | 2.201 | 16.400 | 2.820 | .882 |
| 職務完遂因子 | 12.083 | 2.044 | 5 | 15 | 0.698 | 11.976 | 2.116 | 12.343 | 1.862 | .394 |
| プロジェクトの総経験数 | 3.942 | 1.232 | 1 | 5 | 3.871 | 1.213 | 4.114 | 1.278 | .188 | |
| プロジェクトのステージアップ数 | 3.125 | 1.345 | 1 | 5 | 2.953 | 1.299 | 3.543 | 1.379 | .033* | |
| プロジェクトの最大兼任数 | 4.242 | 1.138 | 1 | 5 | 4.106 | 1.165 | 4.571 | 1.008 | .013* | |
| プロジェクト事務局の経験数 | 2.375 | 1.759 | 1 | 5 | 2.071 | 1.631 | 3.114 | 1.859 | .007** | |
| プロジェクト部門代表の経験数 | 3.600 | 1.642 | 1 | 5 | 3.376 | 1.640 | 4.143 | 1.537 | .014* | |
| プロジェクトリーダーの経験数 | 3.175 | 1.653 | 1 | 5 | 3.165 | 1.595 | 3.200 | 1.812 | .885 | |
| 特許出願数 | 2.183 | 1.252 | 1 | 4 | 2.506 | 1.250 | 1.400 | 0.881 | .000*** | |
| 社内研究報告数 | 2.383 | 1.266 | 1 | 5 | 2.588 | 1.158 | 1.886 | 1.409 | .000*** | |
| 論文数 | 3.575 | 1.716 | 1 | 5 | 3.952 | 1.550 | 2.657 | 1.798 | .000*** | |
| 学会発表数 | 2.842 | 1.722 | 1 | 5 | 3.141 | 1.670 | 2.114 | 1.676 | .003** | |
| 社内表彰数 | 3.133 | 1.581 | 1 | 5 | 3.365 | 1.511 | 2.571 | 1.650 | .014* | |
| 社外表彰数 | 1.342 | 0.689 | 1 | 3 | 1.353 | 0.719 | 1.314 | 0.631 | .789 | |
Wilcoxonの順位和検定 *p<.05、**p<.01、***p<.001
(出所)筆者作成。
| (1) | (2) | (3) | (4) | (5) | (6) | (7) | (8) | (9) | (10) | (11) | (12) | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (1) | 現在の年齢 | 1 | |||||||||||
| (2) | A社における在籍期間 | .533*** | 1 | ||||||||||
| (3) | 現在の職位 | .471*** | .273*** | 1 | |||||||||
| (4) | 研究開発業務担当期間(通算) | .670*** | .578*** | .361*** | 1 | ||||||||
| (5) | 博士号の取得 | .163 | .089 | .236** | .160 | 1 | |||||||
| (6) | 本社地区勤務 | −.144 | −.153 | −.221* | −.109 | −.463*** | 1 | ||||||
| (7) | 変革促進因子 | .077 | −.010 | .232** | .043 | .109 | .146 | 1 | |||||
| (8) | 連携促進因子 | .124 | .016 | .248*** | .109 | .193* | .135 | .479*** | 1 | ||||
| (9) | 円滑化促進因子 | .106 | −.033 | .167* | .085 | .133 | .081 | .424*** | .368*** | 1 | |||
| (10) | 部下管理因子 | .200** | .047 | .360*** | .083 | .152* | −.062 | .266*** | .278*** | .227*** | 1 | ||
| (11) | 部下育成因子 | .084 | −.046 | .170* | .082 | .082 | −.030 | .252*** | .292*** | .269*** | .173** | 1 | |
| (12) | 職務完遂因子 | .013 | −.003 | .146* | .028 | .181* | .087 | .300*** | .180** | .146* | .248*** | .085 | 1 |
| (13) | PJの総経験数 | .254** | .241** | .183* | .437*** | .075 | .111 | .075 | .136 | .070 | .161* | .039 | .109 |
| (14) | PJのステージアップ数 | .208** | .153* | .229** | .306*** | .086 | .176* | .149* | .172* | .053 | .122 | .107 | .152* |
| (15) | PJの最大兼任数 | .019 | .027 | .048 | .209** | −.120 | .215* | .111 | .153* | −.047 | .081 | .047 | .116 |
| (16) | PJ事務局の経験数 | .110 | −.009 | .175* | .117 | −.183* | .235** | .231** | .236*** | .071 | .058 | .131 | .052 |
| (17) | PJ部門代表の経験数 | −.002 | −.025 | .041 | .072 | .060 | .207* | .191** | .194** | .164* | .102 | .051 | .171* |
| (18) | PJリーダーの経験数 | .212** | −.010 | .157* | .158* | .190* | .012 | .236*** | .233*** | .175* | .116 | .076 | .033 |
| (19) | 特許出願数 | .327*** | .165* | .330*** | .278*** | .559*** | −.417*** | .011 | .091 | .104 | .170* | .058 | .034 |
| (20) | 社内研究報告数 | .277*** | .166* | .406*** | .194* | .526*** | −.299*** | .145* | .196** | .145* | .200** | .088 | .085 |
| (21) | 論文数 | .149 | .061 | .275*** | .108 | .663*** | −.303*** | .182** | .193** | .175* | .103 | .171* | .164* |
| (22) | 学会発表数 | .150 | .010 | .302*** | .137 | .546*** | −.254** | .217** | .240*** | .120 | .041 | .131 | .092 |
| (23) | 社内表彰数 | .095 | −.018 | .253** | .087 | .349*** | −.204* | .099 | .151* | .213** | .098 | .078 | .083 |
| (24) | 社外表彰数 | .166 | −.016 | .184* | .121 | .243** | −.024 | .169* | .239** | .140 | .110 | .153* | −.018 |
| (13) | (14) | (15) | (16) | (17) | (18) | (19) | (20) | (21) | (22) | (23) | (24) | ||
| (13) | PJの総経験数 | 1 | |||||||||||
| (14) | PJのステージアップ数 | .577*** | 1 | ||||||||||
| (15) | PJの最大兼任数 | .492*** | .397*** | 1 | |||||||||
| (16) | PJ事務局の経験数 | .161* | .200* | .265** | 1 | ||||||||
| (17) | PJ部門代表の経験数 | .310*** | .315*** | .324*** | .269** | 1 | |||||||
| (18) | PJリーダーの経験数 | .177* | .228** | .136 | .328*** | .301*** | 1 | ||||||
| (19) | 特許出願数 | .189* | .112 | −.126 | −.074 | .075 | .161* | 1 | |||||
| (20) | 社内研究報告数 | .133 | .185* | .065 | −.105 | .001 | .139 | .490*** | 1 | ||||
| (21) | 論文数 | .032 | .106 | −.085 | −.078 | .012 | .196* | .470*** | .541*** | 1 | |||
| (22) | 学会発表数 | .075 | .125 | .029 | .016 | .150 | .170* | .330*** | .480*** | .644*** | 1 | ||
| (23) | 社内表彰数 | .194* | .210** | .008 | .061 | .122 | .193* | .316*** | .308*** | .342*** | .302*** | 1 | |
| (24) | 社外表彰数 | .135 | .088 | .063 | .124 | .099 | .096 | .253** | .276*** | .226** | .234** | .127 | 1 |
* p<.05、**p<.01、***p<.001
PJ:プロジェクト
(出所)筆者作成。
リーダーシップ行動と成果変数との関連を明らかにするために、回帰分析を実施した。なお、成果変数が順序尺度であるため、順序プロビット回帰分析を行った。VIF値は1.60~2.61であり、多重共線性の問題は認められなかった。プロジェクトへの貢献については表5、技術成果については表6に示す。
| プロジェクトの 総経験数 |
プロジェクトの ステージアップ数 |
プロジェクトの 最大兼任数 |
プロジェクト 事務局の経験数 |
プロジェクト 部門代表の経験数 |
プロジェクトリーダー の経験数 |
VIF | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | ||
| 年齢 | −.303 | .178 | −.121 | .558 | −.552 | .032* | .146 | .554 | −.254 | .284 | .392 | .089† | 2.61 |
| 在籍年数(A社) | −.023 | .865 | −.069 | .586 | −.274 | .085† | −.136 | .312 | −.056 | .693 | −.292 | .041* | 1.62 |
| 職位(A社) | .185 | .392 | .340 | .093† | .325 | .175 | .435 | .057† | .056 | .799 | .014 | .947 | 1.95 |
| 業界経験年数 | .739 | .000*** | .468 | .001** | .726 | .000*** | .114 | .496 | .222 | .163 | .176 | .259 | 2.17 |
| 博士号 | .195 | .481 | .297 | .248 | −.307 | .308 | −.640 | .037* | .371 | .185 | .521 | .055† | 1.67 |
| 臨床開発部門 | .660 | .046* | .881 | .003** | .652 | .077† | .365 | .285 | .728 | .031* | .170 | .584 | 1.72 |
| 変革促進因子 | .023 | .683 | .060 | .277 | .005 | .935 | .078 | .211 | .085 | .160 | .138 | .020* | 1.92 |
| 連携促進因子 | .017 | .740 | .048 | .312 | .132 | .023* | .114 | .042* | .028 | .587 | .041 | .429 | 1.97 |
| 円滑化促進因子 | −.081 | .141 | −.119 | .024* | −.200 | .004** | −.038 | .507 | −.006 | .919 | .042 | .429 | 1.97 |
| 部下管理因子 | .071 | .033* | .039 | .219 | .050 | .170 | −.036 | .339 | .029 | .407 | .023 | .504 | 1.78 |
| 部下育成因子 | −.052 | .345 | −.020 | .702 | −.082 | .185 | .042 | .505 | .034 | .547 | −.069 | .226 | 1.60 |
| 職務完遂因子 | .023 | .736 | .028 | .658 | .125 | .093† | −.023 | .752 | −.041 | .569 | −.142 | .041* | 1.71 |
| LR chi2(12) | 44.36 | 42.00 | 40.32 | 32.86 | 21.95 | 33.85 | |||||||
| Prob > chi2 | .000 | .000 | .000 | .001 | .038 | .001 | |||||||
| Pseudo R2 | .137 | .113 | .149 | .121 | .069 | .095 | |||||||
†p<.10、*p<.05、**p<.01、***p<.001
(出所)筆者作成。
| 特許出願数 | 社内研究報告数 | 論文数 | 学会発表数 | 社内表彰数 | 社外表彰数 | VIF | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | Coef. | P>|z| | ||
| 年齢 | .326 | .195 | .142 | .515 | .150 | .529 | −.032 | .895 | −.104 | .635 | .311 | .282 | 2.61 |
| 在籍年数(A社) | −.016 | .901 | −.022 | .859 | −.004 | .980 | −.189 | .201 | −.158 | .234 | −.197 | .148 | 1.62 |
| 職位(A社) | .343 | .141 | .656 | .002** | .510 | .037* | .757 | .002** | .526 | .011* | .113 | .677 | 1.95 |
| 業界経験年数 | .190 | .250 | .034 | .817 | −.220 | .202 | .048 | .775 | .102 | .502 | .052 | .796 | 2.17 |
| 博士号 | 1.702 | .000*** | 1.285 | .000*** | 2.265 | .000*** | 1.499 | .000*** | .738 | .006** | .734 | .042* | 1.67 |
| 臨床開発部門 | −.578 | .083† | −.127 | .673 | .156 | .655 | −.118 | .721 | −.074 | .809 | .114 | .768 | 1.72 |
| 変革促進因子 | −.067 | .320 | −.002 | .967 | .053 | .429 | .082 | .172 | −.016 | .772 | .053 | .490 | 1.92 |
| 連携促進因子 | −.110 | .055† | .051 | .316 | −.055 | .327 | .051 | .319 | .029 | .554 | .150 | .033* | 1.97 |
| 円滑化促進因子 | .047 | .467 | .004 | .945 | .031 | .577 | −.007 | .902 | .052 | .287 | −.038 | .559 | 1.97 |
| 部下管理因子 | .065 | .076† | .003 | .917 | −.091 | .032* | −.094 | .009** | −.025 | .446 | .002 | .970 | 1.78 |
| 部下育成因子 | .086 | .160 | −.045 | .415 | .159 | .014* | .004 | .946 | .001 | .988 | −.000 | .995 | 1.60 |
| 職務完遂因子 | −.130 | .087† | −.041 | .546 | .041 | .563 | −.000 | .999 | −.049 | .448 | −.096 | .253 | 1.71 |
| LR chi2(12) | 90.86 | 68.65 | 88.02 | 68.46 | 30.39 | 26.43 | |||||||
| Prob>chi2 | .000 | .000 | .000 | .000 | .002 | .009 | |||||||
| Pseudo R2 | .264 | .192 | .291 | .209 | .085 | .146 | |||||||
†p<.10、*p<.05、**p<.01、***p<.001
(出所)筆者作成。
まず、プロジェクトへの貢献についてみてゆくと、連携促進因子は、プロジェクトの最大兼任数およびプロジェクト事務局の経験数にプラスの影響を与えた。円滑化促進因子は、プロジェクトのステージアップ数とプロジェクトの最大兼任数にマイナス、部下管理因子はプロジェクトの総経験数にプラスの影響を与えた。また、プロジェクトリーダーの経験数に対して、変革促進因子はプラス、職務完遂因子はマイナスの影響を与えた。
プロジェクト部門代表の経験数には、いずれのリーダーシップ因子も有意な影響を与えなかった(p<.05)。
業界経験年数はプロジェクトの総経験数、ステージアップ数、最大兼任数にプラスの影響を与えたが、年齢はプロジェクトの最大兼任数、在籍年数はプロジェクトリーダーの経験数にマイナスの影響を与えた。A社内の在籍期間よりは、むしろ業界内での経験年数の方が、プロジェクトへの貢献にプラスの影響を与えているということが明らかとなった。このことから、転職の活発化による外部人材の獲得など、近年の雇用環境の変化が、A社のプロジェクトに対してプラスの影響を与えているとみることができる。
プロジェクト事務局の経験数に対して、博士号はマイナスの影響があり、研究部門よりも、臨床開発部門の方が、プロジェクトの総経験数、プロジェクトのステージアップ数、プロジェクト部門代表の経験数が高いという結果が得られた。
次に、技術成果についてみてゆくと、連携促進因子は社外表彰数にプラス、部下管理因子は論文数および学会発表数にマイナス、部下育成因子は論文数にプラスの影響を与えた。
特許出願数、社内研究報告数および社内表彰数には、いずれのリーダーシップ因子も有意な影響を与えなかった(p<.05)。
職位は、社内研究報告数、論文数、学会発表数および社内表彰数にプラスの影響を与え、博士号は、すべての技術成果にプラスの影響を与えた。
実証データをもとに、以下に仮説を検証する。
仮説1:技術者がリーダーシップ行動を発揮することは、プロジェクトへの貢献にプラスの影響を与える。
リーダーシップ行動が、プロジェクトへの貢献にプラスの影響を与える場合と、マイナスの影響を与える場合とが存在することから、仮説1は一部支持された。
プロジェクトにおいて果たす役割という視点でまとめると、プロジェクトリーダーの経験数では変革促進因子、事務局の経験数では連携促進因子がプラスの影響を与えた。リーダーの場合、過去の手法にとらわれず、自ら行動すること、事務局の場合、社内外のステークホルダーとの情報交流あるいは信頼構築が、プロジェクトに貢献する上で、有効である。一方、職務完遂因子は、プロジェクトリーダーの経験数にマイナスの影響を与えた。自分流の手法を押し通すような行動をとるリーダーは、プロジェクトリーダーとしての貢献度が低いということを示している。
複数のプロジェクトを兼任する上では、連携促進因子がプラスである一方で、円滑化促進因子はマイナスに作用した。多くのプロジェクトを効率よく推進する際には、連携を促進することは有効であるが、調整型の行動は、複数のプロジェクトを推進するという観点では、貢献度を低下させる。
プロジェクトの進捗の指標であるステージアップ数にも、円滑化促進因子はマイナスに作用した。調整型の行動は、プロジェクトを前に推し進めるという観点では、有効ではないといえる。
部下に対するリーダーシップ行動では、部下管理因子は、プロジェクトの総経験数にプラスの影響を与えた。経験を積んだリーダーは、部下の直近の仕事の進め方、担当業務の決定などを効果的に行っているということがわかる。プロジェクトの総経験数には、業界経験年数もプラスの影響を与えていることから、A社の社内だけではなく、幅広い経験を生かした部下管理をリーダーが行っている可能性がある。
部下育成因子は、いずれのプロジェクトへの貢献の指標にも影響を与えなかった。長期的に部下を育成するような行動は、プロジェクトへの貢献という観点では有効ではないという結果が得られた。プロジェクトにおいては、短期的な目標の達成が優先されることが影響している可能性がある。
仮説2:技術者がリーダーシップ行動を発揮することは、技術成果にプラスの影響を与える。
リーダーシップ行動が、技術成果にプラスの影響を与える場合と、マイナスの影響を与える場合とが存在することから、仮説2についても、一部支持された。
連携促進因子が、社外表彰数にプラスの影響を与えたことは、社内外のステークホルダーとの情報交流あるいは信頼構築が、技術者の社外評価にプラスの影響を与えることを示している。
部下管理因子は、論文数と学会発表数にマイナスの影響を与えた。リーダーが部下管理型のリーダーシップを発揮することは、リーダー自身のアカデミアにおける成果にネガティブな影響を与えているという結果が得られた。部下育成因子は、部下管理因子と比較すると、部下の自律性を尊重するスタイルのリーダーシップであるといえる。部下育成因子が、リーダーの論文数にプラスの影響を与えたことは、研究開発部門のリーダーの場合、直近の部下の行動を管理することよりも、部下の自律性を尊重する方が、リーダー自身の成果にも結び付くということを示唆するものである。
特許出願数、社内研究報告数および社内表彰数は、社内における業務上の成果とみることができる(石川, 2000)。これらの技術成果のうち、特許出願数については、連携促進因子、部下管理因子および職務完遂因子が有意な傾向を示した(ただし、p<.10)。連携促進因子および部下管理因子については、それぞれ、社外表彰数、論文数および学会発表数に与えた影響とは、符号が逆転しており、アカデミアにおける成果指標と、特許出願数という社内発明の権利化の指標とでは、異なる傾向が認められた。
また、職務完遂因子は、特許出願数にマイナスの傾向を示した(ただし、p<.10)。自分流の手法を押し通すような行動は発明の権利化にマイナスに作用する。
Gupta et al.(2017)は、リーダーの行動は、創造的な職務行動(innovative work behavior)にはポジティブな影響を与えるものの、論文数、特許数などには直接的には影響を与えなかったとしているが、本稿において、研究部門と臨床開発部門の回答を比較した結果、特許出願数、社内研究報告数、論文数、学会発表数、社内表彰数については、研究部門の方が有意に高い数字を示しており(表4)、研究開発部門内の役割分担に即した、成果変数の設定が効果的であるとみられる。
このように、目標とする成果に応じて、有効なリーダーシップ行動に一定の傾向が認められた。
仮説1および2では、技術者のリーダーシップ行動が、プロジェクトへの貢献と技術成果にプラスの影響を与えると仮定したが、質問票調査の結果、マイナスの影響を与える場合もあることが、明らかとなった。このことは、技術者のリーダーシップ行動が、自らの成果に結びつかないだけでなく、むしろ、マイナスの影響を与えるということを示している。プロジェクトへの貢献にマイナスの影響を与えた円滑化促進因子および職務完遂因子は、例えば、プロジェクトメンバーである技術者が、円滑なマネジメントを優先するあまり、最も重要な進捗の指標であるステージアップ数にマイナスの影響を与えるリスクを示している。また、そのような行動特性を示す技術者は、複数のプロジェクトへの参加を要請されないため、兼任の機会が少ないという可能性がある。さらに、プロジェクト内での役割に着目すると、職務完遂因子は、プロジェクトを率いるリーダーに求められるリーダーシップ因子と捉えられがちであるが、A社の場合、過去の手法にとらわれず、自ら行動することにより、変革を促進することができる技術者の方が、プロジェクトリーダーとしての貢献が大きい。
技術成果のうち、アカデミアにおける成果に、部下管理因子はマイナスの影響を与えたが、論文数の場合、部下管理因子がマイナスに作用するのに対して、部下育成因子がプラスに作用することから、研究開発部門のリーダーにとって、機能組織における部下に対して、リーダーシップを発揮する際には、足元の業務を効率的に進めるために部下を管理するよりは、部下の自律性を尊重する方が、自らの技術成果にプラスの影響を与えるということを示唆している。
本稿では、製薬企業の研究開発部門を調査対象としているが、製薬協が実施した医薬品研究開発の生産性調査によれば、グローバル開発における基礎研究開始から承認までの総合的な成功確率は3.4%にとどまっている(製薬協, 2025)。このように、高いリスクを伴う製品化プロセスにおいては、多くの技術的なハードルをクリアする必要があり、問題解決のキーパーソンがリーダーシップを発揮することが必要であるが、実際のところ、誰がいつどのような場合に、いかなるリーダーシップを発揮することにより、製品開発プロジェクトあるいは技術成果に直接的に貢献できるのかということについては正解といえる指針が存在せず、技術者自身の裁量に委ねられている。例えば、尊敬する先輩技術者のような、自らが傾倒するリーダー像が存在するとしても、その人物のリーダーシップ行動を単に模倣するのではなく、研究開発組織内での自身の役割分担に適合したリーダーシップ行動を考え、そのリーダーシップ行動が技術的な成果にプラスの影響を与えているのか否かということを、考えながら行動する必要がある。すなわち、研究開発技術者には、状況適合的なリーダーシップ行動が求められるのである。さらに、一部の技術的な成果に、リーダーシップ行動がマイナスの影響を与えたことは、実務上の課題として、広く認識されるべき点である。
新薬の研究開発の基礎段階はゴミ箱モデル(桑嶋, 2006)といわれるように、管理が難しいプロセスである。新薬の製品開発、あるいはリポジショニングの過程において、しばしば指摘されるセレンディピティとは、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉である。これまでの新薬開発の歴史をみると、長いプロセスのどこかに、セレンディピティ的な発明・発見が認められる(Mayers, 2007)。その際、価値あるものを見出し、それを捉えて逃がさないというタイプのリーダーシップを発揮することが有効である。優れた部下管理、チームのモチベーションなどでは越えられない問題に直面した場合には、変革促進因子、連携促進因子が有効とみられる。実際、A社の場合には、これらのリーダーシップ因子が成果変数にプラスの影響を与えている。
技術者のリーダーシップに関する研究は、さまざまな地域および産業分野の組織の文脈において行われているが、1企業の機能組織主体の活動とプロジェクト主体の活動においてすら、以上みてきたように、研究開発組織内の役割分担に応じた特徴が認められる。
このことは、組織デザインが、技術者のリーダーシップ行動に影響を与えていることを示している。機能組織側とプロジェクト側の両方のリーダーあるいは上司の役割が重要であることは、Pearce(2004)においても指摘されている。本稿では、リーダー自身の成果に着目したが、部下管理因子あるいは部下育成因子が、プロジェクト側と機能組織側のダブルレポートラインを持つ技術者に与える影響は、研究開発組織の組織能力を評価する上で、注目すべき点であり、今後の検討課題である。
プロジェクトあるいは機能組織内の役割の重さに関わらず、リーダーシップ行動を発揮することが、各技術者の昇進あるいはパフォーマンスの評価に影響を与えるため、リーダーシップを発揮すること自体が目的化するリスクも存在する。
最後に、本稿の限界について述べる。調査対象の拡大と、研究開発部門のリーダーおよびメンバーのモチベーションの影響、プロジェクト組織および機能組織などのチーム構成の影響の検討は、今後の課題である。また、部下の人数については、必ずしも職位と連動しないうえ、リーダーシップを発揮する対象は機能組織における部下には限定されないため、部下の管理・育成に関連する成果の解釈に際しては、留意が必要である。
審査過程において、匿名の2名のレフェリーの先生方から貴重なコメントを賜り、感謝申し上げます。研究を進めるにあたって、神戸大学大学院経営学研究科の指導教官である原田勉教授には、長期間にわたる御指導を賜り、塩谷剛准教授からもアドバイスを頂戴致しました。また、調査の際に御尽力いただきました、A社の技術者の皆様に心より厚く御礼申し上げます。