違法なオンラインカジノの蔓延や若者のギャンブル依存症の増加が社会問題となる一方で、日本初のカジノ開業に向けた準備が進んでいる。カジノ開業に際しては、青少年の健全育成や依存症防止の観点から、カジノ施設への入場が禁止されている20歳未満の者、既にギャンブル依存症等の問題を抱えている者をギャンブル行為へと誘引するおそれのある広告やマーケティングから適切に保護することが重要な政策課題の一つとなっている。健康への悪影響が広く認識され、未成年者に対する広告やマーケティングが厳しく規制されてきたアルコールやたばこと異なり、カジノを含むギャンブルの広告やマーケティングと脆弱な消費者(20歳未満の青少年や既にギャンブル問題を抱えている、もしくはギャンブル問題を抱えるリスクが高い成人等)との接触、それらが及ぼす影響等に関する研究は日本のマーケティングの領域において十分に蓄積されてこなかった。
本研究の目的は、カジノを含むギャンブルの広告と青少年の接触、それらが青少年等に与えうる影響について海外の研究をレビューし、脆弱な消費者を適切に保護するための広告規制に示唆を得ることにある。
The rapid expansion of online gambling and the increasing prevalence of gambling-related problems among young people have emerged as significant social concerns. In Japan, preparations for the opening of the country’s first casino, known as IR (Integrated Resort), are underway. In light of this development, ensuring adequate protection from persuasive gambling advertising and marketing practices—particularly for those under the age of 20, who are legally prohibited from entering licensed casino venues, and those already experiencing gambling-related disorders—has become an essential policy challenge.
Unlike alcohol and tobacco, whose well-documented health harms have led to extensive advertising and marketing regulation, gambling has received comparatively little academic attention in Japan. In particular, there is a notable lack of research in the marketing field examining how young and other vulnerable consumers are exposed to gambling advertising, including casino promotions, and the potential effects of such exposure.
This study aims to address this research gap through review of existing international literature on the exposure of young consumers to gambling promotion (including casinos) and potential impacts, identifying implications for emerging gambling advertising and marketing regulation in Japan with the aim of appropriately protecting vulnerable consumers.
近年、日本国内で違法オンラインカジノの蔓延や若者のギャンブル依存症の増加が社会問題になっている1。警察庁(2025)が3月に公表した報告書によると、日本国内の利用経験者は336万人、年間の賭け金の総額は約1兆2400億円(推計)に上る2。有名人を起用したオンラインカジノの広告が流れ、海外の事業者が日本市場向けに開設した多数のウェブサイト3が出現した。「違法性はない」との情報が溢れ、日本国内からのアクセスが急増した4。オンラインカジノ(無料版)のウェブサイトの利用には、年齢制限も回数制限も設けられておらず、広告を見て興味本位でアクセスし、年齢を偽ってアカウントを作成し、小学生の時にギャンブルを開始した中学生や借金を抱える若者が問題になっている5。2025年6月に、ギャンブル等依存症対策基本法の一部が改正され、違法なオンラインギャンブル(オンラインカジノを含む)のウェブサイト又はプログラム(アプリ)を提示する行為や、オンラインギャンブル等に誘導する情報(広告・宣伝)を発信する行為が禁止された(2025年9月25日施行)6。
違法ギャンブルや若者のギャンブル依存症への懸念が高まる一方、日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の開業に向けた動きが本格化している。カジノ開業に際しては、青少年の健全育成、ギャンブル依存症の予防といった観点から、カジノ施設への入場が禁止されている20歳未満の者、既にギャンブル依存症等の問題を抱えている、もしくはギャンブル問題を抱えるリスクが高い成人等の脆弱な消費者のギャンブルへの興味や関心を喚起し、ギャンブル欲求や行為を誘発するおそれのある広告から適切に保護することが重要な政策課題の一つとなっている7。
ギャンブル行動の早期開始は、後年の問題ギャンブルの重要なリスク因子となり、思春期の青少年の問題ギャンブルの体験率は成人よりも2倍から10倍も高くなることが研究によって明らかになっている(Sulkin et al., 2019)。過度なギャンブルへののめり込みがもたらす弊害(学業不振、経済的損失・借金、犯罪、家族・友人関係の破綻、メンタルヘルスの悪化等)は、学業と経済的自立の道半ばにある青少年にとって、より一層深刻な問題になりやすく、ギャンブル問題の長期化につながりやすい。広告やマーケティングの実務において、子どもや若者は好奇心が旺盛である一方、理解力や判断力、経験や知識が大人と比べて十分ではないため、広告やマーケティングの影響を受けやすい、脆弱な消費者とみなされ、特別な配慮が求められてきた(Internal Chamber of Commerce, 2024)。しかしながら、未成年者の発達や健康への悪影響が強く認識され、広告やマーケティングが厳しく規制されてきたアルコールやたばこ等と異なり、カジノを含むギャンブルの広告と脆弱な消費者との接触、それらが及ぼす影響等に関する研究は日本で十分に蓄積されてこなかった。
本研究の目的は、青少年8の健全育成、ギャンブル依存症予防の観点から、青少年に訴求力を持つマーケティングの手法や広告規制に関する研究及びギャンブルの広告と青少年に関する研究をレビューし、脆弱な消費者をギャンブルの広告やマーケティングから適切に保護するための規制に対する示唆を得ることにある。
以下、第2節で青少年に対して訴求力を持つマーケティングと広告規制の有効性についての研究を整理し、第3節でカジノを含むギャンブル関連の広告と青少年との接触、それらが青少年等に与える影響を概観する。第4節では、それらの研究知見を踏まえ、ギャンブル広告から青少年を適切に保護するための広告規制について考察する。
1.2 調査方法第2節では、青少年に対して訴求力を持つ広告・マーケティングの手法や特徴等に関するものでカジノを含むギャンブル広告にも共通する可能性のある論文を展望するという目的に沿って、2019から2023年の5年間に刊行された文献(学術論文及び資料)を収集した。検索には、Semantic Scholar、CiNii、JSTOR、ProQuest、PubMed等のデータベースを用いた。検索キーワードは、advertising (to) children/youth/young consumers, marketing (to) children/youth/young consumers, harm reductionである。検索条件は、English, Article, Review, Book, Scholarly Journalsとした。
第3節では、2019から2023年に刊行された学術論文を対象に、MEDLINE(EBSCOhost)、Scopus(Elsevier)、ProQuest、PubMed等のデータベースで文献検索・収集作業を行った(2023年9月~12月に実施)。検索キーワードは、ギャンブル/ギャンブリング(gambl*)、マーケット/マーケティング(market*)、広告(advert*)、プロモーション(promotion)、子ども(child*)、青少年・若者(adolescent/young/youth/teenager)、脆弱な/脆弱性(vulnerab*)、インターネット(internet)、オンライン(online)、ソーシャルメディア(social media)、デジタル(digital)とした。検索条件は、以下の通り。① 対象期間2019年1月から2023年12月、② 学術誌(査読有)、③ フルテキスト、④ 言語:英語
第2節、第3節ともに文献のタイトルと抄録でテーマに関わる文献を絞り込み、全文を読んだ上で、考察の対象とするレビュー論文や実証的な学術論文(定性・定量・混合)を選定した。また、ギャンブル広告と青少年との関係に関する実証研究は少ないため、選定した論文が先行研究として取り上げた文献の中に、本調査のテーマに密接に関わる内容が含まれていた場合、それらを改めて検索・収集し、調査対象に加えた。
本節では、ギャンブル広告の考察に入る前に、青少年へのギャンブル以外の広告の影響を展望する。青少年に対して高い訴求力を有するとされながらも、青少年の心身の発達への悪影響が指摘され、規制の対象となってきた食品や飲料(脂肪・糖分・塩分を多く含む食品や飲料)、アルコール等を対象に、青少年と広告・マーケティングとの接触、それが及ぼす影響、広告・マーケティング規制の効果に関する研究を整理し、それらがギャンブルの広告・マーケティングの規制に対してどのようなインプリケーションを与えるかを整理する。
2.1 青少年と広告・マーケティングとの接触とその影響、青少年のリテラシーの脆弱性まず、食品広告はどのような影響を青少年に与えるだろうか。Arrona-Cardoza et al.(2023)は、食品広告との接触と摂食行動との間にどのような関係があるか、実験をベースとした論文を系統的にレビューした。レビューの結果、食品広告との接触によって有意に摂食行動が増加するという結果が見いだされた。また小児を対象とした神経生理学的な分析では、食品広告に接触した後で活発化する大脳の部位が同定化された。食品広告が摂食行動に影響を与えることが実験によって実証された。
このようなネガティブな影響関係はSNSにおいても見出される。Gascoyne et al.(2021)は、オーストラリアの青少年のソーシャルメディア上の食品・飲料の広告への接触及び関与と不健康な食品・飲料の摂取との関連を実証的に検討した。その結果、直近の1週間に少なくとも1回、ソーシャルメディア上の食品・飲料の広告に接触することは不健康な飲料の摂取と関連していた。すなわち、直近の1か月に少なくとも1回、食品・飲料に関する投稿に「いいね!」を押したり、共有したりすることは、不健康な食品・飲料の高摂取と有意に関連していた(全てp<0.01)。つまり、不健康な食品摂取とソーシャルメディアのエンゲージメントとの関係について因果関係があることが示唆された。
また、SNSは社会的関係性においても子どものブランド嗜好に影響を与える。Núñez-Gómez et al.(2020)は、「子どもたちのブランド嗜好とロイヤルティ構築において、ソーシャル・ネットワークがどのような役割を果たすのか」を問題意識に据え、実証研究を行った。調査の結果、ソーシャルメディアの出現はブランドの周りにオーディエンスをグループ化し、共通のアイデンティティを持つコミュニティを生み出し、ソーシャルメディアは子どものブランドへのロイヤルティの形成を助けることを明らかにした。特に12~14歳の子どもに大きな影響を与える傾向があった。
また広告リテラシーの発達という観点も重要である。Zarouali et al.(2020)は、ソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)上のターゲティング広告の文脈における、青少年の広告リテラシーの発達とプライバシー保護について実証研究を行った(対象は12~17歳の青少年374人)。比較対象群として若年成人(18~25歳)の469人が選定された。調査の結果、広告リテラシーは青年期を通じて徐々に高まり、16歳になって初めて成人と同じレベルに達することが示された。また、青年期は商業的なデータ収集慣行に対する認識が不十分で、この意識は20歳前後になって成人レベルに達するまで、年齢の関数として徐々に増加することが明らかになった。また、青少年はプライバシー保護戦略によってターゲット広告に対処する行動をほとんどとらないことも明らかになった。
それでは子どもは広告に対する「抵抗力」を有するのだろうか。Packer et al.(2022)は、6~17歳の青少年は、不健康な食品の広告に接触しているが、青少年はこれらの広告メッセージに抵抗力があるという考え方に根拠があるかを解明するためにレビューとメタ分析を行った。研究の結果、(1)子どもたちは広告が商品を売るためのものであることを認識することができた。しかしながら、(2)広告が態度や行動を変えるためのものであることは認識できなかった。
2.2 広告・マーケティング規制の有効性及び限界広告を規制する政策には有効性があるのだろうか。Boyland et al.(2022)は、子どもに対する食品や非アルコール飲料のマーケティングを制限する政策の有効性を検討することを目的に、系統的レビューを行った。マーケティングを制限する政策の実施は不健康な食品の購入を減らし、公衆衛生にとって好ましい結果をもたらす可能性があるとのエビデンスがあることを示した。
同様の考察はAlfraidi et al.(2023)によっても指摘されている。脂肪・塩分・糖分が高い食品(HFSS食品)のマーケティングの禁止や制限が行われているが、これらの規制が実際の購買に効果があるかを検証した。文献レビューの結果、HFSS食品のマーケティング規制が消費者の購入や接触を妨げる効果があるとのエビデンスが得られた。消費者に悪影響を与える商品のマーケティング活動の規制や制限は、消費者行動に影響を及ぼすことを明らかにした。
しかしながら、オンラインでの青少年へのアクセス制限の効果について、Krnel et al.(2023)の研究は、ソーシャルメディア等でのアルコール広告において、自主規制の年齢確認はほとんど効果がなく、青少年はそれらに容易に接触していること、自主規制違反やグレーゾーン広告も多く、法的規制の未整備が課題であることを指摘し、包括的な法的枠組みの必要性を強調している。
また、Saha(2020)は、オーストラリアにおける子どもへの食品広告を規制する制度の歴史的発展を明らかにしようとしたレビュー論文である。オーストラリアの現在の広告規制はソーシャルメディアやウェブサイト等、子どもをターゲットにしているマーケティング手法を制限する上では効果がないと結論づけた。
以上の研究から、カジノを含むギャンブルの広告規制を検討する際に有益と考えられる知見を整理することができる。
(1)青少年はプライベート情報を保護するという広告リテラシーが発達していない。
(2)青少年は広告の意図を理解しても、それが自らの態度や行動に影響を与えるということを理解していない。
(3)ソーシャルメディアはコミュニティを通じて青少年にブランドロイヤルティを形成する。
(4)ソーシャルメディアの広告は青少年に効力を発揮する。
(5)食品広告との接触で摂取量が有意に増加する。
(6)不健康な食品の広告規制は消費行動に影響を与えうる。
(7)広告規制には一定の効果・影響力がある。
(8)業界の自主規制だけでは効果はあまり見られない。
(9)オンラインでの年齢視聴制限にはあまり効果がない。
青少年はどのようにギャンブル広告と接触し、どのような影響を受けるのだろうか。未成年者のギャンブル依存が社会的な問題になっているイギリスやオーストラリアを中心に、子どもや若者がオンライン、オフラインを問わず、大量のギャンブル広告と頻繁に接触していること(Duffy, 2021;O’Brien & Iqbal, 2019)、日常的にギャンブルを行うプレイヤーは広告と接触する機会が多いこと(Hing et al., 2019)、ギャンブル広告はアニメキャラクターやスポーツと結びつき、楽しく、大金が手に入るものとしてギャンブルを描き、子どもをひきつける要素を持つことが指摘されてきた(Gunter, 2019)。
一方、子どもや若者がギャンブル広告にどのように反応し、態度や行動にどのような影響を受けるかについては、依然として実証研究が少なく、エビデンスの蓄積が十分ではない(Labrador et al., 2021;Noble et al., 2022)。しかしながら、ギャンブル広告やマーケティングとの頻繁な接触によって、子どもや若者は多くのギャンブル事業者のブランド名を認識し、記憶していること、ギャンブルを一般的な娯楽として認識し、ギャンブルに対して好意的なイメージを持ち、参加意向を強めることが指摘されてきた(Guillou-Landreat et al., 2021;Ipsos Mori, 2020)。さらには、ギャンブル問題を抱えている人は問題がない人に比べて、マーケティングによってギャンブルを行い、計画外の出費を増やす傾向があることも明らかにされている(Wardle et al., 2022)。
以下、ソーシャルメディアを含むインターネット上のギャンブル広告と青少年との接触、それらが与える影響、消費者保護の取り組みに関する研究を概観する。
3.1 インターネット上のギャンブル広告と青少年の接触Rossi et al.(2021)の研究は、Twitter(現X、以下同)上の417のギャンブルのアカウントが送信した89万件のオーガニック広告(有料広告とは異なり、ブランドのソーシャルメディアの公式アカウントに投稿・提示される広告)、2万件のフォロワー、45万7,000件のエンゲージメント(リプライとリツイート)のデータを対象に分析調査を行い、以下のことを明らかにした。
・全ツイート(89万件)の約60%(53万6,339件)が無料ベットやギャンブル機会を提供する内容であった。
・スポーツイベント開催時にツイート数が急増し、若い男性に訴求していた。
・伝統的なギャンブルのアカウントに比べ、eスポーツのアカウントは夜間(午後10時~午前6時)に広告を出す確率が約2倍であった。
・ギャンブルの広告ツイートの3分の2がギャンブルにおける社会的責任について規定しているイギリスの広告規制(CAPコード)を遵守していなかった(利用規約や年齢制限・ハームリダクションのメッセージの表示が十分に提示されていない等)。
・フォロワー分析の結果、約4万1,000人のイギリスの子ども(16歳未満)がTwitterのギャンブルのアカウントをフォローしていた。eスポーツのフォロワーの17%が16歳未満、69%が24歳未満であった。
Singer et al.(2023)の研究は、子どもや若者が多く利用するTwitterを対象に、カジノを含む13のギャンブル事業者のアカウントから3万4,151件のツイートを収集し、メッセージの頻度やフォロワー数、インタラクションを含む内容分析を行ったドイツの研究である。ドイツでは、イギリスほどTwitterを活用したギャンブル広告は活発化していないものの、多くのギャンブル事業者、プロバイダーが責任あるギャンブルのメッセージをほとんど、あるいは全く提示しておらず(ツイートにメッセージを含むものは全体の約5%)、ソーシャルメディアの年齢制限(ドイツでは13歳以上が利用可)が適切に機能しているか定かでないため、未成年者にギャンブルの悪影響が生じる懸念があると述べた。
Martinez-Pastor & Vizcaino-Laorga(2021)は、ギャンブルのコンテンツを含むYouTubeの動画500件の中から、50件(計574分)をサンプルとして抽出し、内容分析とプラットフォームの利用者に関する調査を実施した。ギャンブル広告に関する現行の広告規制では、若者が多く利用するチュートリアルやスポーツベッティング等の新しい広告のフォーマットやプラットフォームが考慮されておらず、青少年を保護することは難しいと結論付けた。
3.2 ギャンブル広告が脆弱な消費者に与える影響インターネット上のギャンブル広告は、青少年等の意識や行動にどのような影響を与えるのであろうか。Rossi & Nairn(2021)は、ソーシャルメディア(現X、以下Twitter)上のギャンブルの広告が子どもや若者、大人にどのように接触し、いかなる訴求力を持ちうるのかを初めて実証的に解明した研究である。2020年5月から7月にかけて、イギリスの子ども(11~17歳)210人、若者(18~24歳)222人、大人(25~78歳)221人、合計653人を対象にインターネット調査を実施した。
調査の結果、子どもの45.2%、若者の72.4%が、ソーシャルメディアのフィードでギャンブルの広告を週に1回以上目にすると回答し、ソーシャルメディア上で高い頻度で広告と接触していることが確認された。また、Twitter上のギャンブル広告は、大人よりも子どもや若者に強く、かつ有意にアピールした(「興奮(Excited)」、「幸福(Happy)」、「大喜び(Delighted)」等のポジティブな感情を引き出し、大人の約4倍も魅力的なものとして受容した)。特に、18~24歳の若者は、他の年齢層よりもギャンブル広告を魅力的なものとして受け止めることを明らかにした。
Rossi & Nairn(2022)は、ソーシャルメディアを活用したギャンブルの広告やマーケティングが子どもや若者に及ぼす影響に関する文献のレビューを行い、ソーシャルメディア上にギャンブル広告(有料広告)やギャンブル関連投稿(オーガニック広告)が多く存在し、子どもや若者へのリーチが高いことを明らかにしている。それらの広告は、ギャンブルを無害で楽しい活動として描いており、潜在的な被害に対する警告がほとんどの場合、付けられていないことを指摘した。特に、ギャンブルの楽しさが強調されたユーモアのある広告、サッカー選手やインフルエンサー等の有名人が登場する広告、新規利用者獲得のための金銭的なインセンティブ(無料プレイやボーナス等)を盛り込んだ広告が青少年に訴求力を持ち、大人よりも若者により強く訴求することを明らかにしている。
また、ギャンブル問題を抱える人々は、ギャンブル広告の接触回数が多く、スマートフォンを経由したギャンブル事業者からのダイレクトなメッセージ(Eメールやテキストメッセージ、アプリでのプッシュ通知等)に衝動的に反応し、ギャンブル行動や支出を増やす傾向があることを示した。
また、ギャンブル事業者のアカウントのユーモラスで、ニュースや絵文字を含んだ投稿等の形をとるコンテンツ・マーケティングは、広告を認識する能力が十分に発達していない子どもや若者たちに訴求力を持ち、ブランドに対するポジティブな感情を生成し、ギャンブルを無害な活動と誤認させ、ギャンブル事業者のアカウントを子どもや若者がフォローし始めるきっかけになる可能性を指摘した。インターネットやソーシャルメディア上のギャンブルのマーケティングの進化に対し、実証研究や規制が追いついておらず、子どもや若者が広告にさらされていることに対して懸念を表明している。ソーシャルメディアが登場する前に作られた現行の広告規制は、新しい広告に対応できていないため、若者をギャンブルに誘引するギャンブル広告を取り締まるために、ソーシャルメディアに特化した規制が必要であると述べている。
Torrance et al.(2021)は、ギャンブル広告のコンテンツや配信方法や特徴について、25件の研究を対象にレビューを行った。スポーツやソーシャルメディアにおける広告が増加し、特に、ソーシャルメディアを活用したギャンブルの広告の中に含まれる金銭的なインセンティブは複雑かつ多様で、顧客との双方向性、関与を促す方法が増していること、ギャンブルに対する注意を喚起するメッセージ(ハームリダクションや責任あるギャンブル)は含まれないことが多いことを明らかにした。
McGrane et al.(2023)やBouguettaya et al.(2020)の研究も、広告接触がギャンブルに対する肯定的な態度を形成し、ギャンブル意向を高め、接触が多いほどギャンブルへの参加意欲が高まり、それが被害リスクの増大につながることを指摘している。
Syvertsen et al.(2022)は、問題を抱えるギャンブラーとギャンブル広告との接触(インターネット、テレビ、小売店、新聞、直接広告)、広告の影響(ギャンブルへの関与、ギャンブルに対する意識、ギャンブルの形態や事業者に関する知識)についてノルウェーで質問票調査を実施し、リスクの高いギャンブラーや問題を抱えるギャンブラーは、リスクの低いギャンブラーよりも広告に多く接触し、広告がギャンブルへの関心、意識、行動に影響を与えることを明らかにした。
3.3 注意喚起メッセージの表示、消費者保護の新たな取り組み消費者保護の観点から、過度なのめり込みを防ぐために、業界の自主規制の一環として注意喚起のメッセージ表示や年齢制限表示が行われてきた。しかしながら、実際のギャンブル広告における注意喚起メッセージの表示は記載が不十分な上、十分な視認性を確保できておらず、プレイヤーに安全なギャンブルを促す有効な手段になっていないことが研究によって明らかになっている(Critchlow et al., 2020)。画面上に表示されるポップアップメッセージはギャンブル行動や認知に短期的な効果があるものの、その効果はゲームの種類やプレイヤーの抱えるリスクの程度によって異なり、限定的な効果にとどまることも研究が明らかにしている(Bjørseth et al., 2021;Caillon et al., 2021)。
注意喚起メッセージの有効性について、De Jans et al.(2023)は、被害予防メッセージの見やすさ(視認性)がプレイヤーの注意を引きつける可能性はあるが、ギャンブル意向には影響力を持たず、メッセージの内容がプレイヤーの認知や行動に影響を与える可能性があることを示した。
その他、ギャンブル事業者が主導する安全なギャンブルを促すキャンペーンの不十分さを指摘する研究や、オンラインギャンブルのプラットフォームに提示される注意喚起のメッセージがプレイヤーのギャンブル行動の抑制に効果があることを示すエビデンスはなく、その他のプレイヤーが抱えるリスクの程度に応じた適切な介入を検討の必要性を指摘する研究がある(Kaakinen et al., 2020;Newall et al., 2022;Newall et al., 2023a;Newall et al., 2023b;Schalkwyk et al., 2021)
ギャンブル事業者の広告やマーケティング活動が国境を越え、デジタル空間まで拡大する中、脆弱な消費者を適切に保護するための対策は、多くの国にとって重要な課題になっている。特に、イギリスでは、ギャンブルとギャンブルを取り巻く環境の大きな変化を踏まえ、2020年以降、デジタル時代に適合したギャンブル規制の検討を積極的に進めている9。未成年者も含むギャンブル依存症がより深刻な社会問題となり、過剰な広告やマーケティングが子どもや若者、脆弱な人々にもたらす影響に対する懸念と批判が高まり、18歳未満の若者をギャンブルやその広告・マーケティングから保護するため規制強化の動きがある。2022年10月には、18歳未満の若者に対する訴求力を持つサッカー選手や有名人、キャラクター等をギャンブル広告で利用することが禁じられ10、2024年8月には、国内のカジノ施設における年齢確認の厳格化11をはかっている。イギリスのサッカープレミアリーグも、若者とギャンブルのマーケティングとの接触機会を減らすために、2026/2027年のシーズンから選手が着用するユニフォームの「前面」からギャンブル事業者(スポンサー)のロゴを削除することを発表している12。
上記の研究知見を踏まえ、青少年等の脆弱な消費者をギャンブルの広告やマーケティングから適切に保護するための広告規制に対して、以下3点のインプリケーションを導出することができる。
4.1 ギャンブル広告と青少年との接触への対応:接触機会の制限ギャンブル事業者の広告やマーケティング活動がインターネットに移行する中、脆弱な消費者としての特性を持つ青少年やギャンブル問題を抱える成人がオンライン・オフラインを問わず、ギャンブル広告と頻繁に接触していることが明らかになっている。
日本においても青少年のインターネットの利用が低年齢化し、利用機会や利用時間が増加していることを踏まえ、ソーシャルメディアを含むインターネット上で成人に向けて発信されるギャンブル広告やギャンブルに関連するコンテンツと青少年が意図せぬ形で、あるいは意図的に接触する機会が増えることが予想される。青少年の強い好奇心や衝動性、広告リテラシーの不足といった特性もあいまって、新規顧客として青少年がターゲットになること、ギャンブル問題を抱える人に対してギャンブル行為や支出を促すような広告が大量かつ頻繁に配信されるといった不適切なターゲティングが横行する懸念も払しょくできない。特にインターネット上では年齢確認が難しく、内容や表現がターゲットではないはずの子どもや若者の好奇心や射幸心を強く刺激する可能性がある。
したがって、脆弱な消費者を過度な広告やマーケティングから適切に保護するためには、時間や場所の制約を受けないインターネットを含むあらゆるメディアを射程に捉えた包括的な広告規制が不可欠となる。脆弱な消費者がマーケティングの直接的なターゲットになることのないよう、事業者に対して対応を求めることが重要になろう。たとえば、脆弱な消費者との接触機会を制限するために、事業者(広告主や広告関連企業、デジタルプラットフォーム等の情報発信者)に対し、適切なメディア選択(未成年者の利用が多いメディアへの広告出稿を避ける等)、複数のターゲティング・ツールを活用した年齢確認(20歳未満がウェブサイトやその他の編集コンテンツに接触することができないよう設定する等)、脆弱な消費者を対象としたターゲティング広告の禁止(高リスク顧客やギャンブルを自粛する者に向けた広告やマーケティング資料の送付・配信を禁止したり、ダイレクトなマーケティングの対象から除外する等)、ワンクリック・オプトアウトの導入、広告や動画コンテンツ視聴前の年齢確認やセンシティブ・コントロールツール(「年齢制限のある/広告要素を含むコンテンツ」であることを視聴前に示し、視聴の意思を確認する等)の採用、ソーシャルメディア上のギャンブル事業者のアカウントやギャンブル関連コンテンツへの未成年者のアクセス制限やアカウントのフォローの禁止、深夜の投稿の禁止等を求めることが考えられる。
一方、消費者に対しては、インターネット上で広告視聴をブロックする方法やギャンブル事業者のアカウントのフォローを解除する方法等を分かりやすく提示することも必要になる。また、問題のあるギャンブル広告を消費者が目にすることを避けるために、広告を適宜モニタリングし、不適切な広告を迅速かつ適切に排除する仕組みを構築することも重要になる。
4.2 脆弱な消費者に対するギャンブル広告の影響力・訴求力への対応:訴求力の軽減不健康な食品やたばこ、アルコールの広告やマーケティングが青少年に与える影響に関する研究に比べると、依然としてギャンブル広告が青少年に与える影響についての研究は十分に行われていない。しかし、青少年は広告接触を通してギャンブルのブランド認知を高め、ギャンブルに対して肯定的・好意的な感情、態度を形成し、ギャンブル意向を強める等、間接的・直接的に広告の影響を受けることが示唆された。特にソーシャルメディア上の広告は、大人以上に青少年に強い訴求力を持ち、ブランドロイヤルティの形成に効果があることが明らかになっている。また、ギャンブル問題を抱える、あるいは問題を抱えるリスクが高い人々は広告との接触機会が多く、ギャンブル広告に刺激を受けてギャンブルを行い、支出を増やす結果が示されている。
したがって、ギャンブル広告が持つ強い訴求力に対しても特別な対応が必要になる。特に、若者に人気のあるタレントや芸人、インフルエンサーが「仲間と、楽しく遊び」、「賭けて、儲ける/熱狂する」ことを伝えるギャンブルの広告や投稿、ギャンブル関連の動画、ニュース記事等の広告要素を合わせ持つコンテンツは、若者に対する訴求力が強い一方、ギャンブルが内包する依存等のリスクを十分に伝達しない。そのため、青少年のギャンブルへの興味・関心を刺激し、ギャンブル行為を引き出す導線、トリガーとなる可能性がある。イギリスが2022年に導入したように、子どもや若者に強い訴求力を持つ人物やコンテンツ(インフルエンサー、スポーツ選手、キャラクター等)のギャンブル広告での利用禁止や、25歳未満に見える人物の広告での起用の禁止も考えられる。また、リスクに対する理解が不十分な子どもや若者の興味や金銭的報酬に対する欲求等を過度に刺激し、誤認につながるおそれのある表現(追加費用の発生やリスクがなくギャンブルに参加できるように誤認されうる「無料プレイ」、「ボーナス」、「キャッシュバック」、「リスクフリー」等)を禁止すること、注意喚起メッセージや年齢制限があるといった表示を広告やコンテンツの中で、子どもや若者が理解できるよう、分かりやすい言葉で、はっきりと見えるように提示することを事業者や情報発信者に義務づけること等も、影響力や訴求力の軽減策として検討に値する。
4.3 ギャンブル関連のリスク情報表示の不足への対応:消費者向けの注意喚起と依存症予防のための広報活動の早期実施ギャンブル事業者の広告の中での年齢制限表示やギャンブルへの依存症等のリスク情報の提示等、消費者に注意を喚起するメッセージの表示は概して視認性が悪く、表示されない場合があること、注意喚起のメッセージだけで危険なギャンブル行動を抑止することはできないことを研究結果は示している。しかしながら、注意喚起メッセージの提示やリスクに関する情報提供がなければ、初めてカジノを含むギャンブル広告に触れる一般の人々はギャンブルには年齢制限があること、依存症等のリスクがあること、相談窓口があることを知ることができない。
日本初のカジノ開業に際し、事業者は様々なメディアや人物を利用して、活発な情報発信、マーケティング活動を展開することが予想される。カジノ施設の豪華さや非日常的なエンターテイメントとしてのカジノの楽しさやスリルが強調される一方、過度なのめり込みや依存症のリスクがあるといった重要な情報提供は不十分になるおそれがある。日本ではアルコールやたばこの未成年者への悪影響は広く知られているが、ギャンブルに年齢制限があることやギャンブルが内包するリスクは十分に知られてはいない状況がある。そのため、違法なオンラインカジノの利用拡大と同様に、無防備にギャンブル広告に触れ、リスクを認識することなく、興味本位で気軽にギャンブルを開始した利用者が、多額の損失や過度なのめり込み等の問題に直面することも考えられる。
したがって、被害予防のために、規制当局が消費者に向けてカジノを含むギャンブルには法律で定められた年齢制限があること、依存リスクがあること、相談・支援の窓口があること等、人々に注意を喚起するメッセージや情報を、カジノ事業者のマーケティング展開に先駆け、適切に広報することが重要になる。また、全ての広告やギャンブル関連のコンテンツに視認性が高い注意喚起メッセージ等の表示を義務づけることやカジノ施設内において注意喚起等のメッセージ表示を義務づけること等が考えられる。違法であるにもかかわらず、オンラインカジノでは、活発な事業者の広告やマーケティングが展開され、インターネット上には誤情報が溢れた。その結果、多くのプレイヤーが違法行為に手を染め、依存者を生み出す深刻な事態となった。業界の自主規制だけに委ねるのではなく、規制当局が注意喚起メッセージの内容(年齢警告、リスクや相談窓口についての情報等)や表現のみならず、表示方法(表示面積、文字サイズ、色等)を具体的に規定し、事業者に対してそれに即した表示を求めることが必要になる。消費者保護のための啓発、注意喚起という観点から、子どもにも大人にも見やすく、分かりやすい表現で、目立つように提示することが重要になる。
デジタル技術の進化に伴い、インターネット広告の手法はより複雑化・巧妙化している。よりパーソナルでダイレクトなやり取りを規制することには課題も多く、訴求力のあるインターネット上の広告から20歳未満の子どもや若者、脆弱な成人を適切に保護することも難しい。しかし、政策的な対応を怠れば公衆衛生上の取り返しのつかない大きな問題につながる可能性がある。広告規制や注意喚起の不十分さによって、子どもや若者特有の旺盛な好奇心や衝動性、リスクに対する知識の欠如といった脆弱性が商業目的で利用されたり、既にギャンブル問題を抱えている人々の被害を更に拡大させることがないよう、実効性ある規制が必要になる。
また、海外の研究や規制の仕組み(法規制や自主規制等)を踏まえ、従来型の広告や広告手法、規制の枠組みにとらわれることなく、デジタル時代の新しい広告手法等にも対応できるよう、広告ルールを適宜アップデートし、カジノ広告やギャンブル関連コンテンツから脆弱な消費者を適切に保護する規制が求められている。
総務省〈https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/reference/reference08.html〉(2025年10月1日アクセス)。オンラインカジノを合法と見なす海外の事業者が開設・運営するオンラインカジノのウェブサイトに日本国内からアクセスし、賭博に参加することは犯罪(賭博罪)にあたり、刑法第185条で「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。」と規定され、第186条で「常習として賭博をした者は、3年以下の拘禁刑に処する。」と規定されている。また、日本国内でオンラインカジノの入金や出金等の決済に関与したり、広告・宣伝してオンラインカジノに誘う行為は「賭博幇助」等の罪に問われる。詳細は、政府広報オンライン「オンラインカジノによる賭博は犯罪です!広告・宣伝することも禁止に!」〈https://www.gov-online.go.jp/article/202411/entry-6786.html〉(2025年10月1日アクセス)。
〈https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/jittaityousahoukokusyo1.pdf〉(2025年10月1日アクセス)
〈https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE192EB0Z11C21A2000000/〉(2025年10月1日アクセス)。
オンラインカジノを始めたきっかけは、「広告やSNS」が23.7%で最も多く、「ユーチューブや配信サイトで見て興味を持った」が22.6%であることが報告されている。時事通信(2025年3月16日付)「開始1週間で借金」が3割 オンラインカジノ利用者―支援団体「抜本的な対策必要」〈https://www.jiji.com/jc/article?k=2025031500359&g=soc〉(2025年10月10日アクセス)。
〈https://www.asahi.com/articles/ASTB80TJNTB8UTIL00GM.html〉(2025年10月10日アクセス)。