2010 年 25 巻 3 号 p. 419-425
〔目的〕本研究の目的は,機能的近赤外分光法(fNIRS)を使用し,後方観察による他者の視線方向の認知に関与する大脳皮質領域を調査することである。〔方法〕対象は健常成人7名とし,安静条件と以下の課題3条件における大脳皮質の神経細胞活動を反映する酸素化ヘモグロビン(Oxy Hb)濃度長を測定した。課題条件1.自己の頭部運動による視線移動。課題条件2.他者の視線移動の後方からの観察。課題条件3.後方からの観察による他者の視線方向の認知。統計学的検討にはwilcoxon符号付き順位和検定を使用し,有意水準は5%未満とした。〔結果〕安静条件と比較して,課題条件1では左前運動皮質に,課題条件2では左上側頭溝領域に,課題条件3では左上側頭溝領域に加えて両側前運動皮質に,それぞれOxy Hb濃度長の有意な増加が認められた。〔結語〕後方からの観察による他者の視線方向の認知には,自己の頭部運動のシミュレーションや観察対象の行為の目標を認識する前運動皮質が関与していることが示された。