抄録
臨床神経学における神経症候の把握の目的は,疾患を診断して治療する病理指向的アプローチである。理学療法を含めたリハビリテーション医学では身体的機能状態の評価を重視した機能指向的アプローチの立場をとる。神経疾患患者に対するリハビリテーションは治療上,重要であるが運動麻痺という症候一つを取り上げても,神経症候に関するデータが多ければ多いほど,神経系の障害部位を明確に同定でき,病変の質と重症度が判定できる。これによって機能障害の予後予測が正確に把握され,より有効な訓練手段の選択が可能となる。臨床神経学の機能診断とリハビリテーションの機能評価の連係があまり重視されていない現状は,神経疾患患者に対して十分な医療サービスを提供していないという懸念がある。