抄録
日本のダム湖で温暖化による水温上昇が認められるかどうかを調べるため,水温多層観測が長期間なされているダム湖9箇所を選び,最表層と最下層の水温傾向を時系列解析で抽出し,水温上昇率を調べた。当初,気象擾乱の影響を受けにくい最下層で,温暖化による水温上昇が明瞭に認められると予想した。しかし,逆に最下層よりも最表層の水温に,水温上昇が明瞭に認められた。すなわち,最表層水温は,1993年から2006年において9つのダム湖すべてで上昇傾向にあった。この結果は,最表層水温が気温上昇の影響を強く受けているためと考えられたが,気温上昇率を上回る水温上昇率を持つダム湖もあった。一方,同期間の最下層水温については,上昇傾向と下降傾向にあるダム湖が存在した。最下層水温は気温上昇に伴うダム湖全体の水温上昇よりも,湖底上昇によるダム容量の減少,成層強化,冬季鉛直混合の低下に影響を受けている可能性が示唆され,その分離が今後の課題となった。