陸水学雑誌
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71 巻, 1 号
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原著
  • 村松 容一, 大城 恵理, 千葉 仁
    2010 年 71 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     茨城県南西部の菅生沼および流入河川を対象に,主成分および窒素・硫黄安定同位体比の分析を実施し,水質汚染の現状を把握するとともに,硝酸態窒素と硫酸態硫黄の発生源を特定した。また,地表~深度200cm間で採取した沼底堆積物と間隙水を対象に,鉱物・水質組成を分析し,菅生沼周辺の水圏・生物圏・表層地圏における水質形成機構を考察した。さらに,水質形成機構の妥当性を水-鉱物相互作用の化学平衡論により検証した。
     菅生沼の水質はT-N,T-Pが高く,全国の主要な湖沼と比して富栄養化が進んでいる。水質はCa-HCO3・SO4・Cl型に分類され,NO3- とSO42-に富む。Na+-Cl- およびCa2+-HCO3- 間に見られる正の濃度相関は,生活排水の塩化ナトリウム(人為要因),方解石の風化(自然要因)に由来することを示唆する。地表水のδ15N値とδ34S値(それぞれ+ 11.2 ~+ 15.4 ‰,+ 4.0 ~+ 7.0 ‰)は窒素と硫黄の生活排水起源を示唆する。ただし,閉鎖水域(上沼)の硫酸態硫黄の発生には表層土壌中の黄鉄鉱の酸化が関与している。菅生沼河川水の地下浸透に伴い,次のプロセスが進行したと推察される:(1) 沼底~深度24 cm間におけるNO3- およびSO42-濃度の激減,Fe2+ 濃度の急増:微生物(脱窒菌,鉄還元菌,硫酸還元菌)による有機物の段階的な酸化分解,(2) 深度24~100 cm間におけるCa2+ とNa+ 濃度の逆相関:沼底堆積物に含まれるモンモリロナイト中のCa2+ と間隙水中のNa+のイオン交換反応。
  • 横尾 俊博, 水戸 鼓, 岩崎 健史, 佐々木 正, 道根 淳, 荒西 太士
    2010 年 71 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     島根県と鳥取県の県境に位置する汽水湖である中海において,南岸の東出雲および堤防で囲まれた閉鎖的な水域である西岸の本庄に設置された小型定置網の漁獲物から,魚類の出現様式とその季節変化を検討した。2008年2月から10月までの調査で39種10649個体の魚類が得られ,個体数が多かった順にカタクチイワシEngraulis japonicus,サッパSardinella zunasi,ヒイラギNuchequula nuchalis,スズキLateolabrax japonicus,アユPlecoglossus altivelis altivelis,マアジTrachurus japonicus,ゴンズイPlotosus japonicus,コノシロKonosirus punctatusとなり,これら8種で総個体数の95.5 %を占めた。種数では夏季に32種と最大になったが,これは,マイワシSardinops melanostictusやクロダイAcanthopagrus schlegeliiなど夏季のみに出現する種の存在に起因していた。また,東出雲と本庄では,優占する種類はほぼ同じであり,夏季に種数が最大となる点は共通していた。一方,夏季に底生性魚類の種数が東出雲7種より本庄13種で多い傾向が認められたが,これは夏季に本庄における貧酸素水塊の規模が東出雲より小さいことに起因する可能性が示唆された。
  • 中村 雅子, 矢部 徹, 石井 裕一, 木戸 健一朗, 相ざき 守弘
    2010 年 71 巻 1 号 p. 19-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     湖畔林のカワウコロニーの存在が小規模な池沼の水質に及ぼす影響について考察した。まず集団繁殖地(コロニー)の存否と水質,次にカワウ個体数変化と池沼の水質の経月変化の関係を調査した。カワウコロニーが存在する山田大沼上沼(埼玉県滑川市)とカワウコロニーが存在しない周辺の池沼の水質を比較したところ,カワウの存在した池沼は窒素,リン,TOC,クロロフィルa,SS,COD濃度のいずれも非常に高く,極端な富栄養状態であった。カワウ個体数が増加する4月から10月の繁殖期には池のN/P比が下がり,低N/P比であるカワウ排泄物の流入が示唆された。リンおよびTOCは主に懸濁態画分の濃度が高く,窒素は懸濁態に加え溶存態も高濃度であった。コロニー内のカワウ個体数と山田大沼上沼の水質の経月変化との間に,強い相関関係は認められなかった(ピアソンの相関係数;r=-0.009~0.57)。これは,カワウ排泄物の池への直接流入の他に,排泄物が森林内を通り降雨によって流入するという間接流入に起因するものと考察した。カワウコロニーの存在は小規模な池沼において,極端な富栄養化やN/P比の低下をはじめとする水質に大きな影響を与えることが示唆された。
短報
  • 長尾 正之, 鈴木 淳
    2010 年 71 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     日本のダム湖で温暖化による水温上昇が認められるかどうかを調べるため,水温多層観測が長期間なされているダム湖9箇所を選び,最表層と最下層の水温傾向を時系列解析で抽出し,水温上昇率を調べた。当初,気象擾乱の影響を受けにくい最下層で,温暖化による水温上昇が明瞭に認められると予想した。しかし,逆に最下層よりも最表層の水温に,水温上昇が明瞭に認められた。すなわち,最表層水温は,1993年から2006年において9つのダム湖すべてで上昇傾向にあった。この結果は,最表層水温が気温上昇の影響を強く受けているためと考えられたが,気温上昇率を上回る水温上昇率を持つダム湖もあった。一方,同期間の最下層水温については,上昇傾向と下降傾向にあるダム湖が存在した。最下層水温は気温上昇に伴うダム湖全体の水温上昇よりも,湖底上昇によるダム容量の減少,成層強化,冬季鉛直混合の低下に影響を受けている可能性が示唆され,その分離が今後の課題となった。
  • 山本 鎔子, 岩船 敬, 出石 拓郎, 菅谷 芳雄, 小神野 豊
    2010 年 71 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     室内で飼育したセスジユスリカの卵,幼虫,蛹,成虫を用いて体内の脂質含有量と脂肪酸組成について分析した。脂質含有量は個体乾重量の12-35 %に相当し,卵において最も高い値を示した。飽和脂肪酸とモノ不飽和脂肪酸の総和は総脂肪酸量の約50 %で,主要な飽和脂肪酸はC16:0 (13-27 mol %)であり,モノ不飽和脂肪酸はC18:1 (8.3-13.3 mol %)であった。またn-6系高度不飽和脂肪酸のC18:2n-6(29.4-40 mol %)が最も多量に,これに次いでn-3系C20:5 n-3(4-10 mol %)が存在した。n-3系とn-6系脂肪酸の比n-3/n-6は1以下の値であった。この結果はエリユスリカ亜科およびモンユスリカ亜科のユスリカと異なっていた。
資料
  • 豊田 政史, 平良 綾子, 疋田 真, 宮原 裕一
    2010 年 71 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     諏訪湖では,現在までに水質・底質に関する化学・生物的な研究は多くみられるが,物質循環を議論するうえで不可欠な「湖水の動き」に関する現地観測はあまりみられなかった.そこで本研究では,ADCPを用いて,「湖水の動き」を考える上で不可欠な因子である(1)主要流出入河川の流量,(2)沿岸に繁茂する水草帯内外の流れ場,(3)唯一の流出口である釜口水門付近の流れ場の現地観測を行った.得られた結果は以下の通りである.(1)主要流入河川の上川・宮川・砥川において,観測結果と長野県発表の流量データには大きい差があったが,流出河川の天竜川においては,観測結果と県データの差が小さかった.(2)水草帯内外で流れ場の構造は異なっていた.また,水草の存在が水平方向流速を小さくし,乱れ成分が支配的な流れ場特性を作り出していた.(3)諏訪湖唯一の流出口である釜口水門付近における流出傾向は,北東部からの方が南西部からに比べて卓越していた.
  • 芳賀 裕樹, 琵琶湖博物館フィールドレポーター
    2010 年 71 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/13
    ジャーナル フリー
     琵琶湖博物館のフィールドレポーターによって,2007年10月~12月の滋賀県内のボタンウキクサの出現状況が調べられた。環境省の5万分の1メッシュコードで205区画に相当する水域で調査が行われ,15区画にボタンウキクサが出現した。ボタンウキクサの出現範囲は赤野井湾を中心とする南湖東岸部とその流入河川,および上流の池に限られた。最も大きな群落は赤野井湾内に見られ,その大きさは湖岸沿いに300 m,沖出し方向に40 mであった。赤野井湾と流入河川で,2008年1月から4月までボタンウキクサの越冬状況を調べた。赤野井湾では3月上旬にはすべて消失した。一方,赤野井湾に流入する河川では,4月11日に30株の越冬個体が見つかった。流入河川は工場の温排水の影響で温度が高く,ボタンウキクサの越冬を可能にしていた。
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