有明海の奥西部に位置する諫早湾は,1997年の潮受け堤防の閉め切りにより,湾奥部の約3分の1の面積が海域から分断され,干潟があった湾奥には淡水の調整池が造成された。調整池の窒素・リンや有機物濃度は農業用水の基準値を常に超えており,富栄養化した池水が堤防に設けられた排水門から日常的に諫早湾へと排水されている。本総説では,調整池排水が諫早湾に排出されることで,湾内の物質循環過程にどのような影響が生じ,頻発する赤潮や貧酸素水塊の発生にどのように寄与しているのかを議論する。本総説では特に,赤潮や貧酸素水塊の発生に深く関連していると考えられる,排水によって湾内に負荷される有機物とそれを利用する微生物との相互作用に着目して議論を行った。