陸水学雑誌
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総説
技術が拓く湖沼微生物生態学の最前線
岡崎 友輔
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2024 年 85 巻 1 号 p. 1-24

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抄録

 微生物生態学では,微生物の細胞サイズが小さいがゆえの技術的困難がボトルネックとなっており,新技術が新発見に直結し,新たな理解に繋がるブレイクスルーとなってきた。本総説では,湖沼微生物生態学における近年の動向について,それを裏打ちしてきた技術を主軸に,湖沼での応用に際する検討事項や注意点を交えながら概説する。DNAシーケンス解析技術の発展と普及によって登場したアンプリコンシーケンス・メタゲノム解析は,湖沼をはじめとする環境中の難培養微生物の多様性と生態をとりまく理解を塗り替えた。塩基配列データの充実にともない,そこから得られる情報を相補したり,仮説を検証したりする手段としてFluorescent in situ hybridization等に代表される顕微鏡観察による細胞の現存量カウントや,難培養微生物単離への挑戦の重要性も,むしろ高まっている。環境中の微生物について「誰がいるのか」「何をしているのか」といった情報が高解像度に得られる時代はすでに到来しており,微生物生態系はもはやブラックボックスではなくなりつつある。様々な視点から同じフィールドの研究に取り組む陸水学の枠組みがもたらす多様な切り口が,膨大なデータを最大限活用するための鍵となる。

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© 2024, The Japanese Society of Limnology
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