陸水学雑誌
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浅い湖沼における沈降物量の評価
橋 治国井上 隆信
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1996 年 57 巻 2 号 p. 163-171

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抄録

本研究は,都市近郊の浅い湖沼の富栄養化解析の基礎として,流入負荷の少ない札幌市近郊の茨戸湖の上部湖盆を対象とし,セジメントトラップを用いた短期間の沈降物捕集実験を中心にして,水中懸濁物質や底泥の組成分析とあわせて懸濁態窒素・リンの循環量について検討を行った。
セジメントトラップは,口径5cm,筒長25cmのアクリル製円筒を水深2m,4m,6mに4個ずつ取り付けた装置を用い,アンカーとフロートを用いて湖心に設置し,3日後に回収した。
流速と風速の観測結果から,本湖盆では風速が3m・s-1以上あると,湖水の混合により水質の鉛直分布の濃度差がなくなることがわかり,この地域の月別平均風速は3.7~4.3m・s-1であることから,本湖盆では常時湖水が混合されていることが推察された。
沈降捕集物質・水中懸濁物質・底泥の各成分の含有率を比較すると,強熱減量・炭素・窒素・リン・Chl-aの成分で水中懸濁物質が高く,次いで沈降捕集物質,底泥の順になった。また,沈降捕集物質と水中懸濁物質はともに,水深が深くなるとこれからの含有率が小さくなった。鉄の含有率は,逆の傾向になった。
沈降捕集物量は設置期間の平均風速に比例して増加した。また,平均風速が小さいと水深が大きくなるほど沈降捕集物量が増えるが,風速が大きくなると水深別の沈降捕集物量に差がなくなった。
沈降捕集物量が増加すると一定の組成に近づき,この組成比は底泥の組成比に近くなることから,沈降捕集物質を舞い上がった底泥成分とそれ以外の水中懸濁成分の混合物と仮定して,強熱減量・炭素・窒素・リン・Chl-a・鉄の6つの化学成分を用いて分離することができた。
水中懸濁物質と考えられる成分と舞い上がった底泥と考えられる成分の沈降速度は,それぞれ0.91m・d-1,22m・d-1になり,舞い上がった底泥成分の沈降速度が大きくなった。浅い湖沼においては舞い上がった底泥成分の湖内での循環速度が速いため,水中懸濁物質に含まれる栄養塩は,みかけの存在量以上に藻類増殖への寄与が大きいことが示唆された。今後,舞い上がった底泥成分の藻類増殖への寄与など,詳細な研究が必要であると考えられる。

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