抄録
教室に於て1961年以降に43例の原発性肝癌を手術し,うち6例の肝癌自然破裂症例を経験したので,肝癌破裂の診断と外科的治療の問題点について自験例を中心に検討し,文献的考察を加えた.肝癌破裂6例の内訳は性別では男性5例,女性1例,年齢は36~66歳,平均48.5歳で成人の原発性肝癌の年齢分布と差はない.臨床症状は上腹部痛と腹部膨満感を初発とし, 2例が突発的な激烈な上腹部痛で来院した.貧血は全例にみられたが,来院時のショック症状は1例であつた.臨床検査所見では肝機能障害は全例に認め, 3例は肝癌の治療中に発症,他の3例は慢性肝炎または肝硬変の既往があり,診断上重要視すべきである.腹腔穿刺は3例に施行し腹腔内出血の診断を得た.術前診断は肝癌破裂4例,急性虫垂炎,急性腹症各1例である.腹腔内出血量は900~5,150cc,平均2,575cc.肝癌の肉眼的形態は多発結節型4例,うち3例が両葉に散在,塊状型2例(左葉中心1例,右葉孤立単発1例)である.出血巣は右葉3例,左葉3例で,いずれも表在性腫瘍からであつた.肝硬変と肝線維症の合併は全例に認めた.組織検索は2例に行なわれ,肝細胞癌で肝静脈,門脈内に腫瘍塞栓がみられた.外科的治療は待期的な肝右葉切除1例,姑息的左葉外側切除1例,タンポナーデによる止血のみ4例で,予後は右葉切除例が15カ月生存したほかは,全て肝不全で15日以内に死亡した.これら自験例の検討から本症は進行癌で肝硬変合併率が高いことから,術式の選択はまず肝動脈結紮を含めた一時的な止血法にとどめ,後日待期的な肝葉切除を考慮することを強調したい.このほか本稿では肝癌破裂の疫学的事頃,発生機序,診断,外科的治療などについて若干の考察を加えて言及した.