日本臨床外科医学会雑誌
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食道ストリッピング法によるBarrett食道の1治験例
松本 高村上 穆俣野 一郎柴崎 信悟渡辺 晃渡部 三喜大久保 照義
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1980 年 41 巻 1 号 p. 79-84

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抄録

Barrett食道の成因に関しては,未だ定説がなく先天性,後天性の2説がある.しかし現在では慢性の酸・ペプシン作用に対する食道粘膜の適応性変化の結果として,下部食道に円柱上皮が出現するものと考えられている.症例は70歳男子,嚥下障害を主訴として入院したが,内視鏡検査にて下部食道に狭窄と食道炎を認め,潰瘍形成もみられた.更にレ線検査の結果,横隔膜裂孔ヘルニアの併存も認められた.潰瘍周辺粘膜の生検で円柱上皮を確認できたので,後天的成因によるBarrett食道と診断した. Barrett食道の悪性化に関する文献的報告もみられるが,著者等は本症例に対し,新しい術式として我々が考案した非開胸食道内翻抜去法-即ち食道ストリッピング法を試み,胸骨後頚部食道-胃管吻合による一期的食道再建術を施行した.切除標本の肉眼的所見では,食道・胃接合部より口側6cmにわたる食道粘膜は,発赤著るしく,その中央より僅かに口側寄りに1.5×1.0cm大のU1-IVの潰瘍を認め,更に口側の食道は強い狭窄を呈していた.組織学的には発赤部位の粘膜は円柱上皮でおおわれ,潰瘍辺縁粘膜に悪性像は認められなかった.術後3年を経過した今日も健在である.
欧米におけるBarrett食道の報告例は多いが本邦に於ては稀な疾患であり,本症例は20例目と思われる.
Barrett食道の文献的考察に加えて,特に良性食道狭窄例に対する食道ストリッピング法の有用性を述べた.

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