抄録
十二指腸閉塞(狭窄)を初期症状として,しかも黄疸がみられなかった膵癌の2症例を経験した.文献的に同様な臨床症状を示した膵癌手術例13例を蒐集し,計15例について,外科臨床の立場から若干の考察を加えて報告した.
症例1. 59歳,女性. 2カ月以上に互って食後の悪心・嘔吐が持続し,頻回の胆汁性嘔吐と乏尿を主訴として来院した.
症例2. 58歳,女性.約1カ月前より悪心・嘔吐が漸次増悪して尿量減少を伴うようになり来院した.
症例1は膵体尾部癌でTreitz靱帯近傍の十二指腸に,また,症例2は膵頭部癌で十二指腸第2部に,直接癌浸潤による閉塞(狭窄)を招来していた.ともに消化管の吻合短絡手術の施行にとどまり,症例1は術後約5カ月後に,症例2は術後71日目に死亡した.
しかしながら,文献例を加えた15例では, 3例に膵頭十二指腸切除術が行われ,うち2例は術後1年間生存していた(1例は現存).また,姑息的に消化管の吻合手術などが行われた耐術症例の術後平均生存期間は7カ月であった.すなわち,膵癌外科の現状では,必ずしも不良な手術成績とは云い難い.
以上の知見を考察して,膵癌ことに膵頭部癌による十二指腸閉塞(狭窄)は,末期症状としてのみ捉えらるべきではないことを強調した.
なお,自験の2症例は,いずれも,急性腎不全で腎センターをまず受診していた.文献的にも高窒素血症が他の2例に認められていた.