日本臨床外科医学会雑誌
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急性上部消化管出血の対策
とくにH2-receptor拮抗剤の効果について
富永 幹洋西田 茂武 豪柄谷 茂温水野 敏彦森田 建
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1980 年 41 巻 3 号 p. 422-427

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抄録

急性上部消化管出血,とくにStress潰瘍やびらん性胃炎などを包括するacute gastric mucosal lesion (AGML)は,しばしば予後不良であり,治療方針の基準も確立されておらず,外科臨床の大きな問題である.教室では,さきに1977までの10年間の術後急性上部消化管出血についての統計的観察を行った.この時期の治療は,主として輸血,輸液などの全身管理と,緊急手術に頼っていた. 1977年より,胃酸中和療法と, Pharmacoangiographyとの局所療法を加え,慢性潰瘍の血管露出性の出血例以外は,できるだけ保存的治療を行うことを原則とし,治療成績の改善を図った. 1979年7月より,上記の方針にさらにH2-receptor antagonist (cimetidine)の点滴投与を加えて,その成績を検討してみた.
この結果, 1977年までの輸血,輸液あるいは手術に頼っていた時期のAGML 19例中14例, 74%と高い死亡率を示していたのに対し,酸中和療法やPharmacoangiographyを加えた治療の群では, 13例中6例, 46%の死亡率となり,さらにcimetidineを加えた群では, 19例中4例, 21%の死亡率と改善した.
以上の成績改善には,早期治療開始の影響もあろうが,急性上部消化管出血に対して,胃内の酸中和,酸分泌抑制, Pharmacaoangiographyなどの非手術的療法が,その治療方針として有効なものと考え報告した.
なお,教室の統計では,腹膜炎,重症黄疸,あるいは重症肝障害例に,術後上部消化管出血併発の頻度が高いことが知られたので,かかる症例の術後には,酸中和,酸分泌抑制による予防的治療も検討中である.

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