日本臨床外科医学会雑誌
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Exulceratio simplex(Dieulafoy)の治験例
大島 昌丸山 俊之金井 昌敦坂本 真沢井 繁男浜田 節雄平山 廉三広川 勝〓田平 礼三
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1982 年 43 巻 10 号 p. 1138-1144

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抄録

Exulceratio simplex (Dieulafoy)-以下ESと略す-は,胃に発生した弧立性の小潰瘍の底部にある異常に太い動脈が侵蝕されて致命的な大出血をおこす危険な疾患である.急激な経過と胃潰瘍よりは高位な上1/3に発生する症例の多いことから, ESに関する予備知識をもって出血源に対する治療を行わない限り救命することが困難であるが,稀な疾患のため手術方法についても一致した見解が示されていない.最近著者らが経験した症例を紹介し,併せて文献的考察を行った.
症例. 63歳,男性,主訴は吐血,下血,緊急内視鏡所見で胃体部から洞部粘膜に凝血の付着と,その近位側に当る体部後壁に小ポリープを発見した.開腹後に胃切開をおいて調べると小ポリープは露出動脈であった.露出動脈を含めて広範囲胃切除BI法を施行,切除標本では胃体部後壁に径2mmの小びらんと中心に径1.2mmの露出血管を認めた.組織学的所見では潰瘍底は線維素様壊死に陥った動脈で占められ,この動脈はsmを蛇行する異常に太い動脈に連絡していたのでESと診断した.術後の経過は順調であった.
1892~1981年までに発表されたES84例を調べると,死亡は50例,治癒33例,不明1例である.治癒手術33例の内訳は胃切除と胃全摘が15例,局所切除6例,縫合止血11例,内視鏡下電気凝固1例である.盲目的胃切除では偶然に出血部位が切除されない限り死亡するのに比較して,出血部位を確認した上で異常動脈を縫合止血すると治癒することから考えて, ESの治療は病変部位と大きさを目標にして局所切除または縫合止血を選択すぺきであり,胃切除は必ずしも必要でないと判断した.

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