日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
胃癌切除断端陽性例の臨床病理学的検討
小林 建一片岡 徹河村 一敏石井 淳一
著者情報
ジャーナル フリー

1982 年 43 巻 9 号 p. 1039-1051

詳細
抄録

過去24年間の胃癌切除断端陽性(ow(+), aw(+))症例111例(初発胃癌切除例971例の11.4%に当る)について切除胃の病理組織学的所見,予後,再発形式ならびに長期生存が得られた症例の特異点などを中心に臨床病理学的に検討した.(以下多発癌症例の3例を除外して検討した.)断端陽性例の内訳は, ow(+) 74例(68.5%), aw(+) 24例(22,2%), ow(+)・aw(+) 10例(9.3%),また,断端陽性だけで非治癒切除となった症例46例(42.6%), P,H,S,N(R)因子が加わり非治癒切除となった症例62例(57.4%)であった.断端陽性となった部位から切除端までの距離では, ow, aw=0 mm 80例(74.1%), 0<ow,aw≤5 mm 28例(25.9%)であり, ow(+)例ではow=0 mmの頻度が高(82.4%), aw(+)例では0<aw≤5 mmが50%を占めていた.
病理学的所見の特徴としては,病巣の拡りが大きいものが多く(長径8 cm以上が80.6%),肉眼型4型(49.1%),梶谷分類の浸潤型が多く,組織型は低分化型が多く(70.4%),脈管侵襲でとくにly(+) が多く(82.4%),しかも高度なものが多く, INFでγが多く(75%),やはり浸潤傾向の著しい症例が多かった.断端陽性となった癌巣先進部の深達度ではsm(45.3%)もss(33.3%)が多かった.
断端陽性例の3生率, 5生率は全症例で13.1%, 9.5%,断端陽性だけで非治癒切除となった症例で29.7%, 21.6%であった.断端陽性だけで非治癒切除となった症例46例中39例が死亡(35例が再発), 6例は生存中である.これら再発死亡35例の再発形式では腹膜再発(51.4%)が最も多く,次いで断端再発(37.1%)であり,晩期再発では断端再発が多くを占めていた.断端陽性で3年以上生存例は13例(8例死亡), 10年以上生存例が4例(2例が断端再発死亡),再発死までの最長期間は16年10カ月であった.これら長期生存例の検討から推論すると,胃癌発生から人を死にいたらしめるような末期癌まで発育進行するまでには,恐らく10数年の歳月を要するものと考えられる.

著者関連情報
© 日本臨床外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top