78歳女性,右乳癌を合併した左横隔膜弛緩症の患者に開胸横隔膜重積縫合術を施行した.
横隔膜は肉眼的に灰白色で菲薄化し周囲に筋性部が見られるのみであった.組織学的には一部に萎縮変性に陥った筋組織を認めるが,ほとんどは線維成分から成っている.
術後は肺機能検査上拘束性の障害はとれなかったが自覚症状は改善され,胸部レントゲンにても左肺の拡張と心陰影の正常位化が得られた.さらに乳癌に対しては単純乳房切断・腋窩郭清術を行ない,組織学的にも治癒手術が施行できた.
退院後軽度の家事に従事していたが1年9ヵ月後に再び咳漱・嘔気らを訴えて来院した.
胸部レントゲンにて左横隔膜弛緩症の再発と診断した.気管支造影にて左主気管支が完全に閉塞され,生検にて腺癌が証明された.
患者は高齢のため内視鏡下に腫瘤内抗癌剤注入を行なったが,一般状態は改善されず死亡した.
本症例の再発の原因として,横隔膜そのものが伸縮性を失なっていたこと,気管支が腫瘤で閉塞されたため無気肺となり胸腔内圧の減少を生じて横隔膜の挙上が促がされたことによると考えられる.