抄録
1943年Lemmelは十二指腸憩室が総胆管や膵管を圧迫した結果,胆汁や膵液の排出が妨げられ黄疸や膵炎などを生ずる症候群をLemmelのpapillen syndromeと提唱した.最近著者らは本症候群の2例を経験したので報告する.
症例1は主訴が右季肋部痛並びに嘔気嘔吐であり肝機能障害が長期間にわたって軽快と増悪を繰り返したため精査した結果Lemmel症候群と診断された症例である.本症例は再手術例であり初回術前の胆管造影で結石が疑われたが術中造影にて総胆管結石と確診されたため肝障害の原因が傍乳頭憩室よりはむしろ結石に起因しているものと考え胆嚢摘除兼胆管切開載石術を施行した.しかし術後なお肝機能障害が出現しT字管からの胆管造影で傍乳頭憩室に起因した肝機能障害と診断されたため初回手術後139日目に再手術を施行した.手術所見並びに手術方法は,憩室は膵頭部後面の膵実質内に埋没しており炎症所見はあまりみられなかった.術式は十二指腸切開後憩室を十二指腸内に内翻させて切除し乳頭形成術を付加した.症例2は主訴が右季肋部痛,黄疸である.本症例は結石が無いにもかかわらず胆道感染発作を繰り返したためlemmel症候群と診断され手術を施行した症例である.手術方法は胆嚢摘除後憩室を頚部まで剥離し十二指腸を切開せずに憩室を頚部から切除した.乳頭形成術は行なわなかった.
Lemmel症候群に対する手術術式は, (1) 憩室切除術, (2) 憩室内翻埋没術, (3) 空置的胃切除術(Billroth II法)に分けられるが最も確実な方法は自験例に行った憩室切除術である.炎症・癒着などの強い症例に本術式を用いる場合には憩室切除時に総胆管,膵管に損傷を加えないように注意しなければならない.自験例2例はそれぞれ術後約1年5ヵ月を経過しているが良好であり愁訴は全く消失している.