閉鎖式一列層々吻合法は,従来の閉鎖式吻合法に一列層々吻合の利点を導入し,開発された術式である.教室では本法をあらゆる消化管の吻合に用いており,好成績をおさめている.
今回,本法を用いた大腸の吻合をとりあげ,その手術手技と,臨床成績を検討した.さらに本法と他吻合術との手術成績を比較するため,神奈川県下で,大腸吻合のアンケート調査を行ない,集計できた1,144症例に対し検討を加え,特に本法とAlbert-Lembert法(以下A-L法)との比較を行なった.
また犬を用いた動物実験を行ない,結腸の吻合部癒合の治癒過程と,吻合部組織中の細菌について,本法とA-L法との比較を行なった.
その結果,本法を用いた大腸吻合74例中の縫合不全は,小腸・結腸吻合1例/24例(4.2%), 結腸・結腸吻合0例/32例(0%), 結腸・直腸吻合1例/18例(5.6%), 吻合部狭窄は, 1例/74例(1.4%), 吻合部出血は, 0例/74例(0%)であった.また, A-L法と縫合不全発生率に関して比較すると,小腸・結腸吻合では両法に差はなかったが,結腸・結腸吻合,結腸・直腸吻合では,有意の差(p<0.05)をもって,本法の縫合不全発生率が低かった.
犬の結腸における吻合部の治癒過程では,本法はA-L法に比し,癒合が早く,特に粘膜,粘膜下組織の接合に優れており,炎症細胞浸潤も少なかった.また術後3日目の吻合部組織中の細菌について,菌種別にその菌数を検討すると,吻合部組織中の細菌の主体をなすのは,好気性菌群のE. coli, α-streptococcus, Enterococcus, 嫌気性菌群のPeptostreptococcusであり,本法とA-L法を比較すると,嫌気性菌群では差がなかったが,好気性菌群では本法がA-L法に比し明らかに無菌的であり,円滑な創傷治療が期待できるものと思われた.
以上の臨床例の検討,実験成績より,下部消化管吻合において,本法がA-L法に比し,有用な吻合術式であると推察された.
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