日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
術後虚血性大腸炎を合併した破裂性腹部大動脈瘤の1治験例
白方 秀二橋本 宇史戸田 省吾村山 祐一郎河合 隆寛西山 勝彦北浦 一弘門脇 政治神吉 豊和田 行雄佐々木 義孝大賀 興一岡 隆宏佐藤 伸一矢野 一郎
著者情報
ジャーナル フリー

1986 年 47 巻 1 号 p. 57-62

詳細
抄録

腹部大動脈瘤術後の重篤な腸管虚血は比較的頻度が少ないものとされている.しかし,腹部大動脈瘤手術に際しては一般に下腸間膜動脈(以下IMAと略す)はその起始部で切離されることが多く,上腸間膜動脈からの側副血行が不良な場合に加え,内腸骨動脈の動脈硬化性変化の強い場合には結腸虚血の発生頻度は高くなる.さらに破裂性腹部大動脈瘤にあっては出血性ショック及び低血圧により全身状態が不良で腸管循環の術前評価がほとんど不可能に近いことから,虚血性大腸炎を発症する頻度は待期手術例と比較して高いことが予想される.
腹部大動脈瘤術後にひとたび虚血性大腸炎が発症すると死亡率は17~75%,平均50%と極めて高率である.
われわれは74歳,男で破裂性腹部大動脈瘤術後3日目より下痢を認あるようになったため大腸ファイバーにて粘膜病変を経時的に観察しながら保存的治療を行っていたが,術後19日目に大量新鮮血下血を認め出血の制御が不能となったため虚血性大腸炎と診断し再手術を行った.手術は下行結腸及びS状結腸を切除し,横行結腸による人工肛門造設術を行い救命し得ることができた.
そこで虚血性大腸炎の発生要因,診断と治療法,予防法などについて,われわれの治験例に若干の文献的考察を加えて報告する.

著者関連情報
© 日本臨床外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top