抄録
72歳,男性,4年前に脳梗塞で右半身片麻痺となり,尿失禁,便秘が出現.慢性便秘を主訴として来院し,巨大結腸症の診断で結腸左半切除術および自己腸管平滑筋移植を付加した人工肛門造設術を行い,経過良好であった症例を報告する.切除標本では粘膜面にpseudomelanosis coliを認めたが,器質的狭窄を認めず.拡張していたS状結腸の組織像では,神経叢の数の減少や萎縮像,神経細胞の空胞化を認め,筋層の肥厚を伴っていた.
特発性巨大結腸症は比較的稀な疾患で,過去10年間の本邦報告例は30例である.本症例では脳梗塞の既往があり,腸管壁在神経叢の数の減少や変性像は脳梗塞によるdenervationの可能性を示唆する.しかし,直腸側に器質的病変のないこと,直腸生検でacetylcholine esterase染色が陰性であることから成人型巨大結腸症も否定できないと思われる.神経学的側面も含め今後さらに多くの症例を積み重ね検討する必要があると思われる.