1990 年 51 巻 3 号 p. 516-519
症例は,32歳,女性,心窩部痛を主訴とし来院し,胃X線検査,胃内視鏡検査を行い,胃癌の診断にて入院.入院後,乳腺に腫瘤を認めるために吸引針生検を行い悪性腫瘍と診断された.胃,乳腺の同時重複癌の診断で胃全摘術及び非定型的乳房切断術を一期的に行った.術後の病理組織学的検査にて胃,乳腺ともに印環細胞癌であり,胃癌の乳腺転移と診断された.転移性乳腺腫瘍は稀であり調べえた範囲では,80例が報告され,胃癌よりの転移は本症例を含め16例である.本症の如く,同時発見例の場合には,重複癌との鑑別は困難であるが転移性腫瘍の可能性を念頭におき,診断,治療することが必要と思われた.