1990 年 51 巻 5 号 p. 1043-1046
低血糖症に対する盲目的膵体尾部切除に際して血中インスリンの術中迅速測定を試みた.測定は市販のインスリンEIAキットの反応時間を短縮した迅速法により行った.迅速法の変動係数は標準治に比しやや高いものの,両者によって得られたインスリン値は相互に良好な相関性を示した.
局在不明のインスリノーマもしくはβ細胞過形成が疑われた35歳の低血糖症の女性に膵尾側切除術を施行した.膵触診時の高インスリン値,脾静脈結紮に引き続く明かな低下,さらに70%膵尾側切除後の測定感度以下の低値が,この術中迅速測定によって確認できた.切除膵にはインスリノーマやβ細胞造形成は認められず低血糖症の病因は決定できなかった.しかしながら,術後患者の低血糖状態は明かに改善し,術後は軽い糖尿病状態となった.