日本臨床外科医学会雑誌
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分娩時に発生した食道アカラシア術後横隔膜瘢痕ヘルニアの1例
竹内 幸康森 匡水谷 伸小川 法次宗田 滋夫
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1990 年 51 巻 5 号 p. 971-974

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抄録

症例は30歳の女性で,28歳時,食道アカラシアと診断され,Thal-旗福法により手術を施行された.30歳時,妊娠6ヵ月より食物の胃内停滞が著明となった.妊娠9ヵ月で経腟分娩にて出産した.分娩直後より左胸背部痛が出現し,呼吸困難と血圧低下をきたした.胸部X線検査にて横隔膜ヘルニアと診断し緊急手術を行った.食道裂孔左側の〓開した横隔膜の瘢痕創より,緊満した胃及び大網が左胸腔内に脱出し心臓を圧排していた.幽門部には器質的狭窄を認めなかった.手術後は手術直前の数分間の心停止のため,失外套症候群となった.Thal-旗福法は,術後人工的な食道裂孔ヘルニアとなる.妊娠と緊満した胃が腹圧を著明に上昇させ横隔膜ヘルニアが生じたものと考えられた.妊娠を希望する食道アカラシアの患者に外科治療を行う場合は,横隔膜を切開しない術式が望ましい.横隔膜を切開する術式で,迷走神経損傷が疑われたときは,幽門形成術を追加すべきである.

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