1992 年 53 巻 3 号 p. 504-509
1例の扁平上皮癌を含む23例の正中頸嚢胞にたいしその性別,初診時年齢分布,腫瘤自覚時より手術までの期間,好発部位,術式と術後経過の臨床的検討,切除標本の嚢胞壁および舌骨部の病理組織学的検索,また発生学的見地からの舌骨切除の必要性につき文献的考察を加えつつ検討した.結果として性別に男女差はなく,初診時の年齢は耳鼻科,小児外科では先天性疾患を反映して10歳未満に多かったが一般外科を受診する症例は20歳以上が多くみられた.病悩期間は1年未満に多く,好発部位は舌骨と甲状軟骨との間であった.手術は22例がSistrunk法に準じて施行され1例に再発がみられたが本例には広範囲再切除が行われ以後8年を経過し再発はない.舌骨非切除例で再発はみられなかったが,文献的には舌骨切除例に比し非切除例では再発が多い.病理検索で舌骨に接するように瘻孔が確認されることから舌骨切除の重要性は周知であるが更に舌盲孔に至るまで可及的に周囲組織を含めた瘻孔切除が再発防止に必要である.稀ではある残存甲状腺組織由来の乳頭癌,瘻孔上皮由来の扁平上皮癌の存在を忘れてはならない.