1992 年 53 巻 3 号 p. 576-580
乳腺腺様嚢胞癌の1例を報告する.症例は45歳の女性で,右乳房の無痛性腫瘤を主訴に来院した.理学的所見では右乳房上外側領域に硬く境界明瞭な0.5cm大の腫瘤が認められた.腫大したリンパ節は触知できなかった.超音波検査所見で悪性像を得,診断確定のため生検術を施行した.腫瘍は光顕的に篩状および充実性領域よりなり,腫瘍細胞は一般に小さく均一で細胞質は乏しかった.組織化学的検査でPAS染色陰性でalcian blue染色陽性のムチンが偽腔内に存在した.広範腫瘤摘出術ならびに腋窩リンパ節郭清術が行われたが,リンパ節転移は認められなかった.術後18カ月経過した現在,再発の徴候は認められない.