抄録
開腹創瘢痕内異所性骨形成の1例を経験したので,その成因に関する検討を加えて報告する.症例は61歳の男性,約13年前に胃切除術を受けた.術後約5年目より上腹部正中切開創痕に一致して硬結を認めるようになり,腹部単純X線検査で創痕のほぼ全長に長管骨状の所見を認めた.本症の圧迫によると考えられた上部消化管通過障害症状を伴うため,切除を行った.切除標本は大きさ16×3.2×2.8cmで,組織学的に骨髄組織を伴った骨,軟骨組織であった.本症の成因には諸説があげられているが,本例の病理組織所見より化生説が有力と考えられた.すなわち瘢痕組織において間葉系幼若細胞が線維芽細胞,骨芽細胞へと化生し,この際変性筋組織等より供給される基質(糖質)と線維芽細胞より産生される膠原原線維にカルシウムの沈着がおこり,硝子様組織から骨組織の形成に到ると考えられた.