1993 年 54 巻 2 号 p. 494-499
術前に確定診断がつかず,切除標本にて初めて肝原発性カルチノイドと診断された1例を経験した.症例は56歳,女性.食欲不振,体重減少を主訴とし,画像診断で肝腫瘤を指摘され,肝細胞癌,肝血管腫などが疑われ,体外肝切除にて腫瘤を摘出した.術中迅速病理診断では肝細胞癌であったが,術後の病理組織所見では,腫瘍細胞は小型類円形核を有し,胞巣,索状,偽ロゼット形成を呈し, Grimelius, Fontana-Masson染色は陰性であったが,免疫組織染色ではセロトニン, neuron specific enolase (NSE) 染色陽性を示し,カルチノイドと診断された.また,術後,消化管を中心とした検索に異常はなく,単発性であることより肝原発性と考えられた.本邦における原発性肝カルチノイドは,現在までに11例が報告されているにすぎず,非常に稀な疾患であった.