日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
Print ISSN : 0386-9776
ISSN-L : 0386-9776
食道癌術後に左開胸による僧帽弁置換術を施行した1治験例
森 秀暁平山 哲三石川 幹夫石丸 新古川 欽一
著者情報
ジャーナル フリー

1994 年 55 巻 5 号 p. 1181-1185

詳細
抄録

食道癌は,疫学的には消化器悪性腫瘍の中でも比較的高齢者発生が多い事や,手術遠隔期成績でも必ずしも満足のいく結果が得られていない.このため食道癌の術後に発症した心疾患に対し,開心術が必要となる症例はまれである.今回われわれは,食道癌術後の1年6カ月後に僧帽弁閉鎖不全症に対し,左側開胸によるアプローチで僧帽弁置換術を施行した症例を経験した.食道癌は術後遠隔期成績が他の消化器悪性腫瘍と比較しても不良であることが多く,術後に開心術等の侵襲の大きい手術が行われることは少ない.しかし今日では治癒切除を行い得た食道癌では,集学的治療法の進歩と相侯って術後遠隔期成績が向上しており,癌の再発が認められない症例で, quality of lifeの向上が期待される場合には積極的に合併症の治療も行うべきであると思われる.なお,最近では左開胸法で僧帽弁置換術が行われることはまれであるが,本症例では手術視野も比較的長好に保たれ,体外循環中は比較的循環動態も安定しており,術後良好な経過を得ることができた.癒着剥離に伴う危険性の回避や手術時間の短縮も期待できるため,症例に応じては左開胸法によるアプローチが有用であると思われたので報告した.

著者関連情報
© 日本臨床外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top