2000 年 61 巻 11 号 p. 2880-2884
症例は64歳,女性.右上肢,頸部の腫脹を主訴として来院. 34歳時より甲状腺腫を指摘されていたが経過観察中であった. 61歳時には慢性腎不全に対して,右前腕にシャントを留置している.その後,徐々に右上肢,頸部の腫脹が増強した.胸部X線像にて上縦隔に腫瘤陰影を認め, MRI像で右頸静脈が右鎖骨下静脈との合流部付近で腫瘍により圧排狭窄され,血流のうっ滞を認めた.各種画像診断より巨大縦隔内甲状腺腫による上大静脈症候群と診断された.甲状腺亜全摘術が施行され,病理組織所見は腺腫様甲状腺腫であり,術後右上肢の腫脹は消失した.上大静脈症候群を呈するもののほとんどが肺癌であり,甲状腺疾患によることは稀である.今回,その発症にシャントによる静脈圧の上昇も関与したと考えられ,シャント手術を行う際に甲状腺疾患にも注意を払うべきと考えられた.