2000 年 61 巻 3 号 p. 747-751
症例は50歳,女性. 1カ月前から軽い腹痛と微熱を認めていた.次第に腹痛が強くなるため当科を受診した.立位腹単では下腹部に嚢胞性腫瘤が認められ,その中にAir fluid levelが見られた.腹部CT検査でも同様の像であった.大腸内視鏡検査では直腸S状部にBorrmann 2型の腫瘍が認められた.注腸造影検査で,造影剤が腫瘍の近傍から漏出し,腹単, CTで見られた嚢胞性腫瘤の中が造影され,さらに瘻孔を介して上行結腸が造影された.直腸S状部癌による卵巣嚢腫および上行結腸瘻孔形成と診断し,手術を行った.手術は直腸および卵巣嚢腫,回盲部が強く癒着していたため,同部を一塊として切除し,回腸-上行結腸,下行結腸-直腸とを一期的に縫合した.術後経過は良好であった.本症例は直腸S状部癌が,卵巣嚢腫に穿孔し,さらに癒着の中に瘻孔を形成し上行結腸に穿破した極めて稀な1例である.