2003 年 64 巻 5 号 p. 1133-1136
症例は27歳,男性.生ホタルイカの摂食1日後に嘔吐,上腹部痛にて発症.摂食7日後に自制不能となり来院した.腹部単純X線検査,腹部CT検査にて腸閉塞の所見を認め,血液生化学検査では好酸球の増多を伴う炎症所見を認めた.腸閉塞をきたした急性腹症と診断し,緊急開腹手術を行った.開腹所見にて回盲部より約10cmと約80cm口側の部位に発赤,腫脹を伴う狭窄所見を認め,狭窄部小腸の部分切除を行った.切除標本上,腫脹部の粘膜面に肉眼的に虫体を確認しえた.病理所見では,小腸壁全層に及ぶ著明な好酸球浸潤を認め,好酸球性腸炎と診断された.術後ペア血清にて測定したアニサキス特異的IgE抗体価の上昇は認めず,ホタルイカの内臓に寄生する旋尾線虫幼虫移行症による腸閉塞と最終診断した.原因不明の腸閉塞を伴う急性腹症の診断と治療に際し,幼虫移行症による好酸球性腸炎の存在も念頭におく必要があると思われた.