抄録
子宮留膿腫と癒着し,深達度診断が困難であったS状結腸癌症例を経験したので報告する.症例は88歳の女性,主訴は下腹部痛.外来にて大腸内視鏡検査を行いS状結腸癌と診断し入院となった.入院時より軽度の腸閉塞症状を認めたが経鼻胃管挿入と補液にて改善した.腹部CT検査でS状結腸癌が子宮に浸潤しているものと診断したため,子宮付属器合併切除を伴うS状結腸切除術を施行した.術後の病理組織診断にてこの癒着は炎症性の癒着で癌の浸潤ではないと診断された. S状結腸癌や直腸癌に併存した子宮留膿腫の本邦報告例は自験例を含め8例で,癌の浸潤を認めなかったのは2例のみであった.子宮は壁が厚いため癌が内腔まで浸潤することは稀とされているが,子宮留膿腫を伴っている場合は炎症性浸潤との鑑別が困難で術前深達度診断を誤りやすく注意すべき病態と考えられた.