抄録
症例は72歳,女性.下血と肛門痛を主訴に来院.注腸・大腸内視鏡検査で直腸癌を認めた. C型肝炎ウイルス抗体陽性で, GOT, GPTの上昇,血清アルブミンの低下を示した.腹部超音波, CT,血管造影検査で肝硬変像と内側区域と後区域に肝細胞癌を指摘した.腫瘍マーカーはAFP 21.1ng/ml, CA19-9 68U/mlと上昇していた. ICG15分値が36.8%であり,肝障害度Bの肝硬変合併肝細胞癌と直腸癌の同時性重複癌と診断した.肝予備能,凝固線溶系の異常から,一期的手術は不可能と判断し,腹会陰式直腸切断術後,第30病日に経カテーテル肝動脈塞栓療法を行った.直腸癌は高分化型腺癌で, a2, n1 (+)のstage IIIaであった.重複癌の素因として, replication error (RER)を修復できずに生じたmicrosatellite instabilityの変化を調べたが, RERは認めなかった.肝硬変合併肝細胞癌と直腸癌の同時性重複癌の手術症例は稀で,本邦では自験例を含めて3例の報告のみであった.