2006 年 67 巻 6 号 p. 1423-1427
症例は50歳代,女性.開腹手術の既往はない.心窩部痛と嘔気を主訴に来院した.腹部X線写真上小腸ガス像を認め,イレウスの診断で入院となった.イレウス管による保存的治療を行っていたが,イレウス管からの小腸造影にてループ状に拡張した腸管を認め, CT上胃および横行結腸腹側に小腸拡張像が存在したため,大網裂孔ヘルニアと診断し手術を施行した.腹腔鏡にて観察するとTreitz靭帯より約100cm肛門側の空腸が20cmにわたり大網の異常裂孔に嵌入していた.回腸の壊死はなく,腹腔鏡下に大網切開を行い嵌入小腸を還納し手術を終了.患者は術後経過良好で第6病日に退院された.本疾患を術前に診断し腹腔鏡下に治療した報告はないが,鑑別診断の一つとして念頭に置けば腹部CTでの診断は比較的容易であると思われた.また内ヘルニアを疑う症例に対し,腹腔鏡下手術は診断および治療の両面において非常に優れた方法であると考えられた.