2017 年 58 巻 8 号 p. 942-949
繰り返し起こる細胞分裂や老化に伴ってDNA損傷が蓄積し幹細胞機能が低下するが,その分子機構には不明な点が多い。今回我々はshelterin複合体の構成因子の一つ,Pot1aの造血幹細胞における発現は,テロメアDNAの損傷応答の抑制や,老化に伴って低下する幹細胞活性を維持するのに重要であることを明らかにした。まず我々は,Pot1aは造血幹細胞において高発現し,老化と共に低下することを見出した。またPot1aを発現抑制すると,テロメアDNAの損傷応答が増加し,造血幹細胞が老化の表現型を呈し,長期骨髄再構成能も著しく低下することが分かった。一方で,外因性Pot1aタンパク質処理を行うことによって,テロメアDNAの損傷応答を抑制し,造血幹細胞活性の低下を抑えることができた。また,老化した造血幹細胞においても幹細胞活性を一部回復させる効果があった。今回の知見は,老化による幹細胞の活性低下を抑制する技術の開発,および医療応用の基盤となることが期待される。