臨床血液
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総説
  • 福田 泰隆
    2025 年66 巻6 号 p. 407-412
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    骨髄増殖性腫瘍(MPN)は,真性多血症(PV),本態性血小板血症(ET),原発性骨髄線維症(PMF)を含む疾患群であるが,近年,MPNと腎障害との関連が注目されている。MPN関連糸球体症(MPN-RG)という疾患概念が提唱され,MPNの中でも骨髄線維症(MF)患者においてその発症頻度が高い。また,MPNにおいては血栓症の予防が重要であるが,慢性腎臓病(CKD)の合併はMPN患者における血栓症リスクとなるばかりでなく,生命予後にも影響を与えることが明らかとなっており,MPNの治療戦略を考える上で,腎障害の有無に留意する必要がある。さらには,hydroxyureaやruxolitinibなどの細胞減少療法が腎機能の改善に寄与する可能性も示されている。MPN患者の診療においては,腎障害についても着目した上で,必要に応じて腎臓内科医と密接に連携することが望ましい。

臨床研究
  • —単一施設後方視的解析—
    岡 知美, 錦織 桃子, 入江 浩之, 渡邊 光正, 北野 俊行, 水本 智咲, 諫田 淳也, 山下 浩平, 野村 尚史, 髙折 晃史
    2025 年66 巻6 号 p. 413-419
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    Thiotepa含有前処置を用いた自家末梢血幹細胞移植は,小児患者においてしばしば特徴的に皮膚障害を生じることが知られるが,成人症例における皮膚障害に関するまとまった報告はない。我々は,2017年1月から2023年4月に当院でthiotepaを含む前処置後に自家末梢血幹細胞移植を実施した44例における皮膚障害について後方視的に解析した。19例(43.1%)で皮膚障害を認め,そのうち8例(18.1%)でgrade2以上の水疱や紅斑を認めた。皮膚所見の内訳は,浮腫が8例,水疱が8例,水疱と紅斑が3例であった。これらの皮膚症状は移植後22~101日(中央値53日)と遅発性に出現する傾向がみられた。皮膚障害は対症療法により全例において緩徐に改善した。今後成人においてもthiotepa含有前処置による自家移植後の皮膚障害に関する情報が蓄積され,予防や治療に役立てられることが望まれる。

特集:臨床血液学2025 ―新時代を見据えた治療戦略―
特集:臨床血液学2025 ―新時代を見据えた治療戦略 (リンパ系疾患)―
  • 吉原 哲
    2025 年66 巻6 号 p. 422-423
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり
  • 蒔田 真一
    2025 年66 巻6 号 p. 424-431
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    濾胞性リンパ腫は,緩徐に進行する代表的な低悪性度B細胞リンパ腫の一病型である。現時点では,初回治療により治癒が得られるというデータは存在せず,再発を繰り返す疾患群である。一般的に予後良好であるが,初回治療から2年以内に再発をきたす患者(POD24)や,rituximab/alkylatorに抵抗性を示す患者においては,既存の殺細胞性抗がん剤を中心とした治療戦略における予後は不良である。現在,B細胞リンパ腫においては,キメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T細胞)療法や二重特異性抗体療法の臨床開発が積極的に進められている。再発/治療抵抗性 濾胞性リンパ腫においても複数の単群pivotal試験によってCAR-T細胞療法や二重特異性抗体療法の有効性が報告され,一部は本邦でも薬事承認を取得するに至っている。本稿では,近年報告されている濾胞性リンパ腫に対する細胞免疫療法の臨床データを概説する。

  • 後藤 秀樹
    2025 年66 巻6 号 p. 432-439
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    大細胞型B細胞リンパ腫(large B-cell lymphoma, LBCL)は,初回治療で治癒に至る症例がいる一方で再発・難治性の経過を辿る症例も多い。再発・難治性のLBCLに対して,免疫細胞を利用して抗腫瘍効果を発揮するキメラ抗原受容体T細胞(chimeric antigen receptor T-cell, CAR-T)療法,そして二重特異性抗体が臨床応用されている。本稿では,再発・難治性LBCLに対するCAR-T細胞療法ならびに二重特異性抗体について概説する。

  • 吉原 享子
    2025 年66 巻6 号 p. 440-448
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    免疫調節薬,プロテアソーム阻害薬,抗CD38抗体のいわゆる3クラスに続く新たな治療モダリティとして,骨髄腫細胞表面に高発現するB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたT細胞リダイレクト療法(CAR-T細胞療法および二重特異性抗体)が臨床導入された。本邦において,CAR-T療法は3クラスによる治療歴のある症例の3次治療,二重特異性抗体も3クラスによる治療歴のある症例に適応となる。また,BCMAを標的とした抗体薬物複合体をbortezomibないしpomalidomideと併用したレジメンの有効性も報告されている。さらに,新たな標的としてGPRC5Dも注目されており,二重特異性抗体については近々臨床導入されることが見込まれる。これらは非常に有効な治療法ではあるが,根治的となる訳ではない。そのため,従来の治療法(3クラスのコンビネーション)やこれらの新たな治療法につき,どのようなシークエンスを組み立てて行っていくかというのが重要な臨床的課題である。

  • 安東 恒史
    2025 年66 巻6 号 p. 449-455
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    成人T細胞白血病リンパ腫は極めて予後不良な疾患であり,多剤併用化学療法では治癒は困難と考えられている。免疫調整薬/セレブロンモジュレーターであるlenalidomideは,再発ATLを対象とした第II相臨床試験で,全奏効率は46%と効果が示された。抗体療法としては,mogamulizumabは再発CCR4陽性ATLを対象とした第II相試験で,全奏効率50%であった。Brentuximab vedotinは,第II相試験に登録された症例数は限定的であり有効性を明確に示すに至っていない。また,エピジェネティックをターゲットにした,EZH1/2阻害薬であるvalemetostatは再発・難治アグレッシブATLを対象とした第II相臨床試験で,奏効率48%を示した。ヒストンアセチル化阻害薬tucidinostatも第IIb相臨床試験で客観的奏効率は30.4%とその有効性を示した。本稿では,これらの本邦で使用可能な分子標的薬について概説する。

  • 島田 和之
    2025 年66 巻6 号 p. 456-463
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    末梢性T細胞リンパ腫は,悪性リンパ腫の10~15%を占める疾患群で,節性病変,節外性病変,白血化を主体とする病型が混在する極めてヘテロな病態である。近年の分子遺伝学的知見の蓄積とともに,T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫のように,従来別の病型であったものが1つの病型の下に整理されるなど,病態の理解が進んできた。治療においては,初回治療としてCHOP療法あるいはその類似療法が広く行われてきたが,比較的予後良好とされるALK陽性未分化大細胞リンパ腫においても治療成績は十分ではなく,再発・難治性病態の不良な予後と相俟って,ブレークスルーとなる治療が望まれてきた。近年,抗体薬物複合体,エピゲノム修飾薬,免疫細胞療法などの応用により,一部の病型の治療成績の向上が計られる一方で,新規治療の効果的な使い分けについては未だ知見が十分でない面があり,分子遺伝学的な知見に基づく層別化の実装が重要な課題である。

特集:臨床血液学2025 ―新時代を見据えた治療戦略 (血小板・凝固・線溶疾患)―
  • 宮川 義隆
    2025 年66 巻6 号 p. 464
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり
  • 宮川 義隆
    2025 年66 巻6 号 p. 465-472
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    2022年に米国と欧州で血友病Aと血友病Bに対する遺伝子治療薬が薬事承認された。血友病患者に血液凝固因子FVIIIまたはFIX遺伝子を含むアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)治療薬を1回点滴静注すると,数週間以内に凝固因子活性が増加する。治療を受けた患者の約9割は凝固因子製剤の投与が不要になり,出血回数も減る画期的な治療である。血友病の遺伝子治療ベクターは肝臓指向性が高く,肝臓特異的な遺伝子プロモーターを採用したのが特徴である。本稿では血友病遺伝子治療の開発の歴史,phase 3試験成績と課題などについて解説する。

  • 加藤 恒
    2025 年66 巻6 号 p. 473-480
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    免疫性血小板減少症(ITP)は,抗血小板自己抗体による血小板破壊の亢進と骨髄巨核球の血小板産生障害により血小板減少をきたす疾患である。治療は,まずファーストラインとしてステロイドの投与を行い,効果不十分または不耐容の場合はセカンドライン治療へ移行する。セカンドラインでは,トロンボポエチン受容体作動薬を中心に,rituximab,脾摘が選択可能であったが,最近本邦では新たな作用機序により血小板数の改善が期待できる新規薬剤,Syk阻害薬,FcRn阻害薬がセカンドライン治療の選択肢として加わった。ITP新規治療薬の開発が活発に行われ,今後さらにBTK阻害薬,BAFF受容体阻害薬,抗CD38抗体製剤なども臨床応用に向け進んでいる。ITPでの血小板減少に対し,それぞれが異なる作用を持つ新たな治療選択肢を活用したITPマネジメントの改善が今後期待される。

  • 酒井 和哉
    2025 年66 巻6 号 p. 481-487
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は稀な致死的血栓症であり,後天的に発症する免疫原性TTPはADAMTS13自己抗体の産生により発症する。歴史的に血漿交換とcorticosteroidの併用が標準治療として導入されたことで,患者の生命予後は大きく改善した。Caplacizumabは,von Willebrand factor A1ドメインに対する抗体薬で,標準療法と併用することで血小板数の改善や急性期血栓イベントの予防効果を示す。一部の血漿交換が困難な患者において,caplacizumabと免疫抑制療法の併用で寛解に達した症例が報告されてきた。2024年にcaplacizumabと免疫抑制療法の併用の後ろ向き臨床試験結果が報告され,90.5%の患者が血漿交換なしで治療可能であった。現在caplacizumabと免疫抑制剤のみで急性期免疫原性TTP患者を治療する,Phase III臨床試験(MAYARI study)が実施中である。

  • 天野 景裕
    2025 年66 巻6 号 p. 488-494
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    血友病における従来の治療法は,欠損している凝固因子を補充する治療法が中心であったが,近年,リバランス療法という新しい治療概念が登場した。リバランス療法は,凝固と抗凝固のバランスを調整することにより出血傾向を是正するもので,具体的にはTFPI,AT,APCを標的とした治療法である。抗TFPI製剤のconcizumabとmarstacimabは皮下投与製剤であり本邦で承認されて投与可能になっている。TFPIのK2ドメインを標的とするモノクローナル抗体で,TFPIのFXaとTF/FVIIa複合体への結合を阻害することにより止血能を改善する。抗AT製剤はsiRNAのfitusiranによりATの合成を低下させる治療法で,抗APC製剤はserpin PCというAPC特異的阻害治療であり,それぞれ臨床試験が進んでいる。リバランス療法の治療概念,臨床試験成績,投与にあたっての注意事項・課題などを概説する。

  • 森下 英理子
    2025 年66 巻6 号 p. 495-503
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    遺伝性血栓症は高リスクの血栓性素因であり,まれな疾患である。妊娠中および分娩後には静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクは上昇し,特にアンチトロンビン(AT)欠乏症I型はプロテインC(PC)やプロテインS(PS)欠乏症に比してリスクが高い。妊娠中の遺伝性血栓性素因保有者に対しては,血栓性素因のタイプ(AT/PC/PS欠乏症),サブタイプ(I型/II型),遺伝子変異部位,VTE既往歴・家族歴,さらに他の既存あるいは妊娠特有のリスク因子を含む包括的なVTEリスク評価が推奨される。しかし,十分な研究データが乏しいため,妊娠中の管理方針—すなわち予防的抗凝固療法の必要性,heparinの適切用量,AT製剤による補充療法の役割など—は限られている。VTEの予防および治療においてはheparinが第一選択薬であり,VTEの既往歴がある患者には妊娠中および分娩後を通して治療量のheparin投与が推奨される。

Symposium 3
  • 加藤 元博
    2025 年66 巻6 号 p. 504-508
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    白血病の治療成績の向上には,ゲノム解析技術の進歩による分子遺伝学的な研究の進歩が大きく貢献している。近年,生殖細胞系列の遺伝的背景が薬剤感受性や副作用リスクに関与することが明らかとなり,個別化治療の重要性が高まっている。特に6-メルカプトプリンの感受性を規定するNUDT15多型が注目され,アジア地域で多いこの低活性多型が骨髄抑制などの発症リスクを高めることが示された。NUDT15多型の投与前の解析により,薬剤用量調整を可能にし,有害事象のリスクを低減することが示されている。さらに,白血病治療に伴う晩期合併症と遺伝的背景の検討もなされている。薬理遺伝学的な知見を基盤とした治療の最適化は,個々の患者の治療効果を最大化しつつ,合併症の最小化につながることが期待される。

Symposium 7
  • —血小板造血を理解する—
    江藤 浩之
    2025 年66 巻6 号 p. 509-516
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    iPLAT1試験は,iPS細胞由来血小板製剤(iPSC-PLT)の初のヒト臨床試験として,2019~2020年に実施された。対象は,抗HPA-1a抗体による血小板輸血不応症を合併し,適合するHPA-1b/1bドナーがいない再生不良性貧血患者で,患者iPS細胞から樹立した巨核球細胞株imMKCLから自己iPSC-PLTを製造した。iPSC-PLTの高効率製造は,生体内状況の観察に基づき,バイオリアクター内の乱流刺激システムにより達成された。包括的な非臨床試験を経て,iPLAT1試験は用量漸増試験として実施され,主要評価項目である安全性は確保された。しかし,輸血後の血小板数の増加は観察されず,iPSC-PLTの循環不全の可能性が浮上した。その後,imMKCLの改良に向けた研究を進め,バイオリアクターの乱流設計の改良に基づく大規模製造システムの開発が進行している。また,免疫巨核球の概念に基づいて,imMKCLにも免疫巨核球サブセットが存在することを明らかにした。こうした発展性を基盤に次世代のiPSC-PLTの研究開発も新たに開始された。

  • 日野 俊哉, 黒川 峰夫
    2025 年66 巻6 号 p. 517-524
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/04
    ジャーナル 認証あり

    顆粒球輸注療法(granulocyte transfusion therapy, GTX)は好中球が減少する病態での重症感染症に対する治療手段であるが,健常ドナーからの連日にわたる体外循環による顆粒球採取が必要であり,広く臨床活用されるには至っていない。iPS細胞由来好中球はこの問題を解決できる有望な手段であると考えられ,iPS細胞から好中球への分化の方法はいくつかのグループから報告されているが,iPS細胞から好中球への分化には14日以上必要であり,また,有効なGTXを行うために十分な好中球を得るための拡大培養法の開発が必要である。近年,我々は生体外で拡大培養可能なiPS細胞由来顆粒球前駆細胞株を作製し,GTXでの治療を必要とした時に十分な量のiPS細胞由来好中球を4日間という短期間の分化期間で供給できる基盤を確立した。しかし,実臨床での使用に向けては有効性や安全性の評価,および再生医療製品としての品質管理基準に準拠した製造法への改良が必要であり,今後の課題である。

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