2019 年 60 巻 1 号 p. 12-16
同種造血幹細胞移植後の難治性腹水の鑑別疾患としては類洞閉塞症候群,感染症,原疾患の再発および浸潤,低栄養などが知られているが,しばしば原因特定が困難な症例に遭遇する。症例は59歳の男性で,急性骨髄性白血病の血液学的再発に対して同種骨髄移植を施行された。移植後3ヶ月頃より乳び腹水が出現し,リンパ管シンチでは乳び槽レベルでのリンパ流停滞がみられたが,腹水に対する有効な治療は見いだせなかった。死後の病理組織から肝臓や消化管にGVHDはみられず,白血病細胞の残存も認めなかった。膵臓については急性膵炎の像に加え,膵実質の線維化や形質細胞の浸潤があり,慢性的な炎症が併存しており,膵炎によるリンパ還流障害が腹水を引き起こしていた可能性が示唆された。本症例は生前には膵炎の確定診断に至らなかった。移植後の無症候性膵炎は少なくない可能性があり,鑑別疾患として,留意する必要があると考えられた。