病院環境を介した院内感染は重要な問題であり,高頻度接触部位が主な伝播経路となる。銅は殺菌作用を有するため,院内感染対策の一環として銅製品の導入が注目されている。本研究では血液内科病棟にて高頻度接触部位であるドアハンドルに銅製品を導入し,従来品と比較することで殺菌効果の評価を行った。従来品では全12検体から細菌が検出されたが,銅製品は18検体中5検体と有意な差がみられた(P<0.0001)。検体1 mlあたりのコロニー数は従来品で中央値300(範囲:40~1.1×106),銅製品で0(範囲:0~220)と有意な差がみられた(P<0.0001)。従来品では多種の菌種が検出されたが,銅製品では主にBacillus subtilisであった。これらの結果から銅製品の導入は表面の細菌数・種が有意に減少するため,院内感染制御に有用である可能性が示唆された。ただし芽胞菌への効果はさらなる検証が必要である。
症例は54歳女性。口腔びらんにて発症し2ヶ月後に体幹に弛緩性水疱が出現した。ニコルスキー現象陰性で抗デスモグレイン1抗体が高値であり尋常性天疱瘡と診断した。腸間膜,傍大動脈リンパ節腫大を認めたため腫瘍随伴性天疱瘡が疑われた。ステロイドパルス療法,血漿交換療法に不応で,CTガイド下腹腔内リンパ節生検で濾胞性リンパ腫と診断されたためR-CHOP療法を行った。4クール後に部分寛解となり皮膚粘膜所見も軽快したが,治療開始4ヶ月後に閉塞性換気障害が出現し閉塞性細気管支炎と考えられた。タクロリムスによる加療を試みたが日和見感染により継続不能で,発症9ヶ月後に永眠された。腫瘍随伴性天疱瘡に特異的な抗プラキン抗体は陰性であったが特徴的な臨床経過より濾胞性リンパ腫に合併した腫瘍随伴性天疱瘡と関連する閉塞性細気管支炎と考えられた。効果的な初期治療の検討が求められる。
同種造血幹細胞移植後の難治性腹水の鑑別疾患としては類洞閉塞症候群,感染症,原疾患の再発および浸潤,低栄養などが知られているが,しばしば原因特定が困難な症例に遭遇する。症例は59歳の男性で,急性骨髄性白血病の血液学的再発に対して同種骨髄移植を施行された。移植後3ヶ月頃より乳び腹水が出現し,リンパ管シンチでは乳び槽レベルでのリンパ流停滞がみられたが,腹水に対する有効な治療は見いだせなかった。死後の病理組織から肝臓や消化管にGVHDはみられず,白血病細胞の残存も認めなかった。膵臓については急性膵炎の像に加え,膵実質の線維化や形質細胞の浸潤があり,慢性的な炎症が併存しており,膵炎によるリンパ還流障害が腹水を引き起こしていた可能性が示唆された。本症例は生前には膵炎の確定診断に至らなかった。移植後の無症候性膵炎は少なくない可能性があり,鑑別疾患として,留意する必要があると考えられた。
症例は63歳女性,急性骨髄性白血病再発のため当院入院となった。再寛解導入療法開始後day10に発熱を認め,day15のCTで右上葉に浸潤影を認めた。真菌マーカー陰性でvoriconazole投与中のためムーコル症を疑い,Liposomal amphotericin Bに変更,非寛解で非血縁者間同種骨髄移植を施行した。Day1に右肩痛,day3に肺炎増悪を認め,day15に右下肢麻痺,day16に両下肢の麻痺と感覚消失を認めた。造影MRIでTh11の脊椎腹側にT2高信号域を認め,横断性脊髄炎と診断した。抗ウイルス剤を投与するも生着後のday24に肺炎のため死亡した。病理解剖で,肺・肝臓・横隔膜・血管・脊髄硬膜にムーコルを認め,急激な下肢麻痺の原因は播種性ムーコル症であった。遷延する好中球減少患者で,発熱・疼痛に加え局在性神経学的所見を呈した場合,播種性ムーコル症を疑う必要がある。
症例は44歳男性。複雑核型を呈する急性骨髄性白血病を発症した。化学療法後の第一寛解期にHLA血清型6/6座抗原一致同胞をドナーとした骨髄移植を施行。Cyclosporine投与中に出現した皮膚と口腔・食道粘膜に病変を有する慢性移植片対宿主病に対して,day 646よりprednisoloneの併用治療を開始したが口腔粘膜病変は残存。Day 2,861とday 3,339に左側と右側下顎のう蝕のある臼歯をそれぞれ抜歯・切開排膿した際,両側ともに下顎骨壊死を認めた。その後も両側下顎骨壊死が進行したため,day 3,542に腐食骨除去を目的とした両側下顎骨区域切除術を施行したところ病理組織像にて両側性の,顎骨への浸潤を認める歯肉扁平上皮がんの診断となった。本症例の経過より,慢性移植片対宿主病の口腔粘膜病変を有する症例において,顎骨壊死を呈する際には歯肉扁平上皮がんを鑑別に挙げる必要性が示唆される。
症例は維持透析中に大動脈弁狭窄症と血小板減少が指摘された66歳の男性。鎖骨下動脈閉塞の既往のためワーファリンによる抗凝固療法も併用していた。紹介時,WBC 5,200/µl,Hb 13.5 g/dl,Plt 6.8万/µl。出血傾向は認めなかった。骨髄穿刺では異形成のない巨核球数の増加を認め特発性血小板減少性紫斑病と診断した。大動脈弁狭窄症は手術適応であり術前後の血小板数コントロールが必要と考えられた。少量ロミプロスチム投与を術前2ヶ月前から開始。速やかに血小板数は増加し,術前後の出血・血栓イベントなく大動脈弁置換術を施行した。維持透析患者に対するロミプロスチムの使用報告は少なく,且つ出血リスクの高い術前後のマネージメントには注意を要する。文献的考察と共に報告する。
69歳男性。40歳で慢性骨髄性白血病(CML)-慢性期(CP)と診断。経過中にDasatinib(DAS)開始するも,最終的に治療を自己中断。X年11月(65歳)近医で白血球増多を指摘され当院初診。CML-CPと診断し前医と同じDAS 50 mg/dayを開始。9ヶ月で細胞遺伝学的微小奏効しか得られず100 mg/dayへ増量したが,18ヶ月目に移行期に進行。ABL変異解析でT315IとF317Lが陽性。この時点でponatinib(PON)の保険適用はなく,同種移植の希望もなく,DASに加えinterferon-α(IFN-α)開始。導入後7ヶ月でF317Lのみ消失し細胞遺伝学的大奏効達成した。X+4年1月PONが承認となり,単独治療開始。2ヶ月でT315I消失,分子遺伝学的大奏効(major molecular response, MMR)達成し,現在まで効果が維持されている。本例ではチロシンキナーゼ阻害薬抵抗性でT315I,F317L陽性のCMLに対しIFN-αが奏効し,CMLにおけるIFN治療を再考する上で貴重な症例と考えた。
症例は71歳男性。生来健康であったが,数週間ほど前から生じた易疲労感のために来院した。末梢血で軽度の好中球減少,貧血(Hb 10.5 g/dl),およびリンパ球増加(76%)を認め,形態的には大顆粒リンパ球(large granular lymphocyte, LGL)が多数を占めていた。骨髄検査でリンパ球増多(33.6%)と赤芽球減少(M/E比6.1)が目立つも異形成を認めずLGL細胞はCD3,CD7,CD8陽性で,T細胞レセプター(β/γ鎖)DNAの再構成を認めたためCD8陽性T細胞-LGL白血病と診断された。数ヶ月の経過中に明らかな要因なく,網赤血球数の低下とともに貧血が進行したためT-LGL白血病に続発した赤芽球癆(pure red cell aplasia, PRCA)と判断した。輸血依存となったPRCAに対してcyclosporin A(CsA, 3 mg/kg)治療を開始すると,一ヶ月以内に輸血非依存となり貧血は著しく改善しCsAの高い感受性が示された。CsA治療開始前に末梢血からDNAを採取し,全エクソンシークエンシングによりSTAT3遺伝子を含めた33個の遺伝子において体細胞性変異を同定したので,これらの遺伝子を提示する。
凝固第V因子(FV)に対する自己抗体が生じることにより発症する後天性FVインヒビター(AFV-I)は,症例により無症状から致死的出血症状まで様々な臨床症状を呈する。我々は初回寛解から4年後に2度の再発を来したAFV-I症例を経験した。症例は66歳の男性。X−4年3月にAFV-Iと診断され,prednisolone(PSL)50 mg/日で寛解し,PSL 2.5 mg隔日内服で長期寛解を維持していた。また,陳旧性心筋梗塞で抗血小板剤2剤治療(DAPT)を行っていた。当科転医後のX年5月にFV活性が著減(3.4%)し,FVインヒビターを検出(1.0 BU/ml)したため,AFV-I再発と診断した。約2ヶ月経過を観察したが,自然軽快しなかった。軽微な出血症状のみであったが,DAPT実施中で出血リスクが高いと判断し,6月中旬にPSL 40 mg/日に治療強化した。速やかに寛解を達成し,PSLを漸減したところ,X+1年1月にFV活性が再度低下した。2月には皮下出血が出現したため,2回目の再発と診断し,PSLを増量して再寛解に至った。再発性AFV-Iの報告は少なく,2度の再発を来した症例はない。本報告はAFV-I症例の長期管理を検討する上で有用と考える。
症例は37歳男性,2017年6月に嘔吐,腹痛,下痢を主訴に当院を受診した。血液検査で炎症反応の上昇,CT画像で回腸末端から全大腸にかけて壁肥厚を認め,家族内で感染性腸炎が発生していたこともあり当初細菌性腸炎を疑った。しかしながら抗生剤治療で症状の改善が得られず,第10病日より高熱と腹膜刺激兆候が認められ,両下肢に触知可能な紫斑も出現した。Henoch-Schönlein紫斑病も疑い,メチルプレドニゾロンを開始したところ症状の改善が得られ紫斑も消退した。