2019 年 60 巻 9 号 p. 1056-1062
造血幹細胞は自己複製能と多分化能を有する血液幹細胞と定義され,造血幹細胞移植成否の鍵を握る。過去60年にわたる造血幹細胞移植医療および幹細胞生物学における解析手法,技術の進歩とともに造血システムの理解は格段に深まってきた。しかし,造血幹細胞の本質である自己複製能や多分化能の分子メカニズムに関しては,ほとんど解明されていない。その理由の一つとして,骨髄内にわずかに含まれる造血幹細胞,中でも生涯にわたり自己複製能を有する長期造血幹細胞の同定,純化がこれまで成し遂げられなかったことが挙げられる。特に移植医療の現場においては,移植後長期にわたり造血能が維持されることは極めて重要であり,この細胞分画が臨床的にも科学的にも重要であることが理解できる。本稿では,造血幹細胞の同定,純化の歴史を紹介しつつ,特に長期造血幹細胞に関する臨床的,科学的意義,および最新の研究成果について述べたい。