2021 年 62 巻 7 号 p. 739-743
腸内細菌叢は,腸管免疫のほか,様々な段階で造血制御に関与している。腸内細菌叢の多様性は,同種造血幹細胞移植の予後予測に有用性を発揮するなど,その生理的・病理的意義は大きい。最近の研究により,過食や高脂肪食による造血幹細胞の異常には,腸内細菌叢が介在した骨髄微小環境変化が重要であることが示された。また,RAS-MAPK活性化あるいはTET2変異を伴う骨髄増殖性腫瘍の増悪過程への関与,白血病細胞の病態における寄与に関する報告がなされている。そのメカニズムとして,腸内細菌由来代謝物の生物学的活性,インスリン分泌低下やインスリン抵抗性が原因となる糖代謝異常,腸上皮バリアの傷害による腸管透過性亢進など,興味深い知見が示された。今後,腸内細菌からのアプローチにより,造血研究に関する新たな分野が切り拓かれ,将来,血液疾患の予防,治療,診断などの発展に貢献することが期待される。