2023 年 64 巻 7 号 p. 646-653
様々な腫瘍においてスプライシング因子をコードする遺伝子の変異が繰り返し見られ,グローバルなミススプライシングを受けた遺伝子が新規の蛋白質アイソフォームの産生やRNA分解による蛋白質喪失を通して発がんにつながる機序が近年の研究で一部明らかになってきた。ミススプライシングを受けた遺伝子の一部は,その発現の変化を通して発がんに関わるシグナル伝達や細胞内プロセスに影響を与え,また他の遺伝子発現制御機構の異常と協調的に働くことにより発がんを誘導する。スプライシング異常を有する腫瘍への治療戦略として,薬理学的なスプライシングの阻害が合成致死の機序により腫瘍の抑制に有効であることが期待されており,薬剤開発と臨床試験が進められている。本稿ではスプライシング変異の特徴,細胞内機構への影響と発がん機構,また標的治療について概説する。