臨床血液
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64 巻, 7 号
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第83回日本血液学会学術集会
学会奨励賞受賞論文
  • 一色 佑介, 大島 基彦, 三村 尚也, 堺田 惠美子, 岩間 厚志
    2023 年 64 巻 7 号 p. 581-585
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    POEMS症候群におけるクローン性形質細胞(POEMSクローン)の同定および遺伝子発現解析を目的として,患者由来骨髄形質細胞を用いたsingle-cell RNA-sequencingを施行し,免疫グロブリンレパトア解析を用いてクローンの同定を行った。POEMSクローンは全形質細胞中の10%程度と,他の形質細胞腫瘍と比較して極めて少ないことが明らかとなった。POEMSクローンではタンパク合成経路の発現亢進が見られる一方,多発性骨髄腫の病態に関連するがん遺伝子の発現は低値にとどまるなど,特徴的な遺伝子発現パターンを示していた。また,POEMSクローンではCD19およびMHC-IIの発現が有意に低下しており,CD19 HLA-DRloがPOEMSクローンの表面マーカーとして極めて有用であることを明らかにした。POEMSクローン同定法の確立により,今後臨床・研究の様々な面での応用が期待される。

臨床研究
  • —CAR-T療法/同種移植への橋渡しを含めて—
    森田 侑香, 八木 悠, 金政 佑典, 佐々木 友希, 伊志嶺 賢人, 林 雄大, 美野 真乃, 大東 杏, 田村 太一, 中村 翔平, 奥 ...
    2023 年 64 巻 7 号 p. 586-595
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    Pola-BR療法(polatuzumab vedotin,bendamustine,rituximab)は,relapsed/refractory diffuse large B-cell lymphoma(R/R DLBCL)に対して承認されているが,本邦での有効性・安全性の報告は限られている。当院でPola-BR療法を施行したR/R DLBCL 29例(chimeric antigen receptor T-cell[CAR-T]療法/同種移植への橋渡し群:20例,単独治療群:9例)を後方視的に検討した。全奏効率は69.0%(完全奏効27.6%)であった。無増悪生存期間は中央値5.1ヶ月,全生存期間は中央値9.5ヶ月であった。橋渡し群のうち11/19例がCAR-T療法へ,1/1例が同種移植へ至った。4例は白血球アフェレーシス前にbendamustineを含む治療を受けていたが,全例でCAR-T製造に成功した。28例中3例でgrade3以上の非血液毒性を認め,2例で治療を中断した。当院におけるPola-BR療法の奏効率・安全性は概ね既報と同等であり,CAR-T療法や同種移植への影響についてはさらなる検討が望まれる。

  • —単一施設,非盲検,非ランダム化,前向き介入研究—
    岩﨑 浩己, 山崎 聡, 門脇 賢典, 南 満理子, 額田 智幸, 高瀬 謙
    2023 年 64 巻 7 号 p. 596-607
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    目的:日本人の再発・難治性悪性リンパ腫患者を対象に,救援療法後にpegfilgrastim(PEG-G)を投与し,外来管理の安全性と実施可能性を探索的に検討した。方法:本研究は,単一施設,非盲検,非ランダム化,前向き介入研究である。外来患者群は外来管理基準を満たした患者を組み入れ,第2サイクル以降の化学療法のために入院し,各サイクルの終了2日後に単回皮下注射でのPEG-G投与後に退院した。入院患者群は白血球数および血小板数が回復した時点で退院した。結果:主要評価項目である外来管理日数の割合は,外来患者群で68.2~75.0%,入院患者群で28.6~50.0%であった。外来期間中の発熱性好中球減少症による入院はなく,安全性に大きな懸念はなかった。結論:再発・難治性悪性リンパ腫患者において,外来管理基準を満たす場合,救援療法後のPEG-G投与による外来管理は安全に実施できる可能性が示された。

症例報告
  • 平野 志帆, 岩越 朱里, 今橋 伸彦, 酒井 晃太, 平野 大希, 鈴木 康裕, 足立 達哉, 永井 宏和, 飯田 浩充
    2023 年 64 巻 7 号 p. 608-613
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    症例は69歳男性。低血糖,脾腫,傍大動脈リンパ節腫脹の精査目的に当科紹介となり,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)と診断された。入院後,遷延性低血糖の治療に難渋したが,リンパ腫に対し化学療法を施行したところ低血糖が改善した。この経過からリンパ腫に関連した低血糖が疑われたため,その機序を解明するために,解糖系酵素であるグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の免疫染色を実施した。GAPDHの発現は,細胞の解糖系活性と正の相関を示すことが知られている。免疫組織染色の結果,本症例では低血糖を合併しなかったDLBCL症例と比較してGAPDHの発現が高度であった。このことから,本症例の腫瘍細胞の解糖系が亢進していたことが示唆され,腫瘍内で多量のグルコースが消費されたために遷延性低血糖を合併した可能性が考えられた。

  • 細田 利奈, 河村 浩二, 原 健太朗, 前垣 雅哉, 鈴木 さやか, 細田 譲, 森下 奨太, 千酌 浩樹, 本倉 徹, 福田 哲也
    2023 年 64 巻 7 号 p. 614-618
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    同種造血幹細胞移植後の侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases, IPD)は致命率が高く,移植後晩期の発症が多い。症例は58歳,女性。骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)にて14年前にHLA-DR 1抗原不一致非血縁者間骨髄移植を施行し,以降に肺炎や慢性移植片対宿主病(graft versus host disease, GVHD)を発症,低γグロブリン血症を認めていた。11年前と6年前に23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンを接種していた。発熱を主訴に受診された。血液培養から肺炎球菌が検出され,IPDの診断となり加療を行うも入院3日目に死亡した。移植後10年以上経過しても肺炎球菌感染症には注意が必要であり,その重篤性から,ワクチン接種などの予防的アプローチと診断時の早期介入が重要であると考えられる。

  • 小村 綾, 廻 勇輔, 松原 千哲, 藤原 英晃, 湯川 椋也, 林野 健太, 中村 真, 吉田 親正, 山本 和彦, 松岡 賢市, 藤井 ...
    2023 年 64 巻 7 号 p. 619-625
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    不均衡転座der(1;7)(q10;p10)は骨髄異形成症候群(MDS)における特徴的な染色体異常の一つである。症例は63歳男性で,発熱と肺炎を呈して当院を受診し,46,XY,+1,der(1;7)(q10;p10)を持つMDSと診断された。肺炎は気管支鏡検査により器質化肺炎(OP)と診断した。第30病日には好酸球39%に上昇し,発熱や呼吸困難が増悪し,好酸球増多に伴う全身性紅斑が出現したため,副腎皮質ステロイドとazacitidineによる治療を開始した。一時的に好酸球増多やOPは制御できたが,骨髄芽球数や末梢血WT1-mRNA値は増加に転じ,娘をドナーとしてHLA半合致末梢血幹細胞移植を施行した。der(1;7)(q10;p10)は,-7/7q-といった予後不良群と比較し生存期間が長いとされる一方で,多彩な合併症が致命的になると報告されている。好酸球増多とOPを同時に合併した症例報告はなく,本症例は合併症の制御がなされている間に速やかな同種移植が必要であると示唆する症例であったため報告する。

  • 藤井 文彰, 野島 慎悟, 松岡 里湖, 柿木 康孝
    2023 年 64 巻 7 号 p. 626-632
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    症例は81歳女性,貧血,血小板減少を認め当科精査入院となった。骨髄検査では芽球を54%認め,急性骨髄性白血病(French-American-British分類:M2,World Health Organization分類:AML,NOS,AML with maturation)と診断した。染色体検査では,46,XX,3~45二重微小染色体(double minute, dmin)【14/20】を認めた。SKY法からdminは8番染色体由来であることを確認し,FISH法では多数のMYCシグナルが検出され,dmin上でMYC遺伝子の増幅が生じていると考えられた。初回寛解導入療法として,venetoclax azacitidine療法を行ったところ,1コース後で骨髄中の芽球消失を認め完全寛解(complete remission, CR)となり,2コース終了後には,FISH上MYCシグナルの消失を認め細胞遺伝学的寛解(cytogenetic remission, CyR)に至った。現在,4コースを施行し,CyRを維持している。MYC遺伝子増幅を伴うdminを有するAMLの症例は稀であり,予後不良が予測されたが,venetoclax azacitidine療法が治療抵抗性を打破する可能性があると考え報告する。

第84回日本血液学会学術集会
Symposium 3
  • 平林 真介, 真部 淳, 大木 健太郎, 清河 信敬
    2023 年 64 巻 7 号 p. 633-638
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)は,染色体や遺伝子の異常によるサブタイプに分けられ,その多くは予後と相関することが示されてきた。近年の網羅的解析により,各国からZNF384再構成をもつ白血病やMEF2D再構成をもつ白血病が特徴的なサブタイプであることが報告された。本邦から主導して小児BCP-ALLの国際共同研究が行われ,ZNF384再構成とMEF2D再構成を有する多数の症例が集積された。EP300-ZNF384融合遺伝子を有する例の再発率は,それ以外のZNF384再構成に比べて低い。MEF2D再構成ALLは予後不良とされるが,MEF2D-HNRNPUL1融合遺伝子を有するものの予後は良好であった。今後の前方視的な臨床データの解析や,機能解析が望まれる。本稿ではこれまで得られた知見を概説する。

  • —DNA損傷修復と代謝によるゲノム安定性と造血維持の分子機構—
    高田 穣
    2023 年 64 巻 7 号 p. 639-645
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    遺伝性骨髄不全(BMF)症候群のひとつであるファンコニ貧血(FA)は,造血幹細胞の内因性DNA損傷を除去するDNA修復の欠陥によって引き起こされると示唆されている。この内因性DNA損傷がアルデヒドに起因する可能性が注目されてきた。筆者らは,FAと臨床的に類似した再生不良性貧血の日本人症例において,ホルムアルデヒド分解酵素をコードするADH5遺伝子のbiallelicバリアントと,アジア人の飲酒後顔面紅潮に関連するヘテロ接合型ALDH2のバリアント(rs671)を特定した。モデルiPS細胞等を用いた検討によって,筆者らは,ADH5/ALDH2の複合欠陥が,アルデヒド代謝酵素欠損症候群(ADDS)と呼ばれるべき新しいBMF症候群を引き起こすと結論した。この疾患が造血細胞分化に伴うヒストン脱メチル化によって産生されるホルムアルデヒドの除去不全によって発症するとの仮説を提案する。ホルムアルデヒドを治療標的とすることで,FAとADDSにおける造血障害が軽減される可能性があり,検討を行っている。

  • 吉田 澪奈, 山内 浩文, 佐久本 真梨夢, 吉見 昭秀
    2023 年 64 巻 7 号 p. 646-653
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    様々な腫瘍においてスプライシング因子をコードする遺伝子の変異が繰り返し見られ,グローバルなミススプライシングを受けた遺伝子が新規の蛋白質アイソフォームの産生やRNA分解による蛋白質喪失を通して発がんにつながる機序が近年の研究で一部明らかになってきた。ミススプライシングを受けた遺伝子の一部は,その発現の変化を通して発がんに関わるシグナル伝達や細胞内プロセスに影響を与え,また他の遺伝子発現制御機構の異常と協調的に働くことにより発がんを誘導する。スプライシング異常を有する腫瘍への治療戦略として,薬理学的なスプライシングの阻害が合成致死の機序により腫瘍の抑制に有効であることが期待されており,薬剤開発と臨床試験が進められている。本稿ではスプライシング変異の特徴,細胞内機構への影響と発がん機構,また標的治療について概説する。

Symposium 4
  • 下西 成人, 野上 恵嗣
    2023 年 64 巻 7 号 p. 654-660
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    凝固第V因子(FV)は,向凝固と抗凝固の相反する機能を有する。FV遺伝子変異にて発症する先天性FV欠乏・異常症は,FVが向凝固機能を担うため一般的には出血傾向を呈する。一方,活性化プロテインC(APC)抵抗性として発見されたFV-R506Q(FVLeiden)変異は,有名な血栓性素因の一つである。これまでFVLeidenを含むFV分子異常症に起因する血栓症は日本では存在しないとされていた。しかし,我々は本邦初のFV分子異常症による血栓症を呈した若年症例を報告した。本例はFVの点変異FV-W1920R(FVNara)を有しており,FV-R506Qと異なるAPC抵抗性の機序であった。本邦でも未発見のFV関連血栓症例が存在する可能性がある。我々はFV関連の抗凝固機能のさらなる詳細な解析を行い,FV異常症による血栓症の病態解明を行った。さらに凝固波形解析を応用し,FV異常症の迅速鑑別が可能な新規検査法の開発にも成功した。近年,他のFV関連血栓症の報告もされており,今後,FV関連血栓素因のさらなる解明に期待したい。

  • 高倉 伸幸
    2023 年 64 巻 7 号 p. 661-664
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    造血と血管は,体内循環の担い手として,機能的な体内全臓器の臓器連関を司る。血管は血液内環境因子の組織への送達のパイプとしての機能と共に,臓器特異的なサイトカインをアンジオクラインシグナルとして分泌することで,臓器の発生・再生・維持に重要な役割を果たしている。このようにホメオスタシスに関わり,血管を構築する血管主要構成細胞である血管内皮細胞においては,近年,多様性が存在していることが判明し,我々は血管内皮細胞を継続的に供給しうる血管内皮幹細胞分画の細胞が存在することを明らかにしてきた。血管内皮細胞は,臓器ごとにその機能は異なっている。例えば臓器特異的な血管機能として,肝臓の類洞血管は特異的に第VIII凝固因子を産生していることが判明しており,このような臓器特異的な機能がどのようにして臓器毎に誘導されているのか,現在血管形成研究ではその機序の解明が大きな研究の潮流の一つである。

JSH-EHA Joint Symposium
  • 石塚 賢治
    2023 年 64 巻 7 号 p. 665-669
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    Enhancer of zeste homolog(EZH)はpolycomb repressive complex 2(PRC2)のサブユニットの一つでヒストンメチル基転移酵素活性を持ち,H3K27メチル化を介して遺伝子発現を制御する。EZHは一部の悪性リンパ腫の病態に大きく関与している。濾胞性リンパ腫(FL)ではEZH2の機能獲得型変異と遺伝子増幅がそれぞれおよそ30,15%に見られる。成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)細胞ではEZH1/2の発現亢進によるH3K27のトリメチル化が特徴的であり,ATL細胞において発現が抑制されている遺伝子の半数以上がH3K27のトリメチル化状態にある。現在EZH2,EZH1/2阻害薬がそれぞれ再発・難治FLとATLに使用可能となっている。悪性リンパ腫におけるEZH標的化治療はまだまだ開始されたばかりであり,今後の展開が期待される。

  • 末廣 陽子
    2023 年 64 巻 7 号 p. 670-677
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/04
    ジャーナル 認証あり

    成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は,ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)感染者の約5%に長い潜伏期を経て発症する末梢性T細胞腫瘍である。ATLの病態として免疫不全および抗がん剤抵抗性が特徴的であり,多剤併用化学療法による生存期間は1年前後と極めて予後不良である。近年,分子標的薬などの異なる機序を有する新規薬によりATLの治療成績は向上しているが,治癒に至る症例は未だに限られている。唯一治癒が期待される造血幹細胞移植療法は,高率に発生する治療関連死亡が残された課題である。我々は,安全な治療法の開発を目指し,病因ウイルス抗原を標的とした樹状細胞ワクチン療法を開発中である。これまでにパイロット試験,第I相臨床試験で安全性を確認してきたが,有効性に関しても期待できる長期臨床効果が得られている。本治療法は,ATLの治療のみならず発症予防ワクチンとして発展する可能性を含んでいる。

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