2022 年 28 巻 p. 373-378
本研究では流域治水の新たなメニューの一つとして,農事暦を考慮した,背水による圃場への積極的洪水導水の可能性を検討した.研究対象領域は,岐阜県,富山県を流れる神通川水系の支川の1つである井田川の両岸に受益地を持つ井田川水系土地改良区である.対象領域内を流れる5つの河川と用排水路をモデル化し,洪水導水の可能性を評価するための数値実験を行った.その結果,5か所の圃場に洪水を導水することで,下流域において最大約14.3 m3/sの洪水ピークを低減できることが明らかとなった.また,農事暦に関する既往研究や土地改良区へのインタビュー調査の結果,穂ばらみ期は特に冠水に脆弱であり,洪水を導水できないことが分かった.本提案は,既存の施設を利用することで大規模な費用や工事を必要とせず,農事暦を考慮することで,農作物への被害も最小限にすることができる.