河川技術論文集
Online ISSN : 2436-6714
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  • 2024 年 30 巻 p. 0-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー
  • 佐藤 大生, 瀬口 雄一
    2024 年 30 巻 p. 1-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,淀川大堰の階段式魚道にCCDカメラを設置することで,アユの魚道通過時間及び魚道進入時の状況についての検討を行った.その結果,魚道通過時間は最小値が20分,最大値が1,430分で,200~ 400分・800~900分・1,400~1,500分の場合が多く確認された.また,相関関係は見られないものの,遡上数が大きいほど魚道進入時間は短いことが確認された.魚道通過時間と併せて算出した魚道進入時の個体数と堰諸量・塩分・水温の間にも相関関係は見られなかったが,総放流量がおよそ200 m3/sよりも小さい時・塩分が0~7 psuの時に遡上数が大きいことが確認された.今後,アユの遡上期を通じた調査や魚道プールサイズによる遡上行動の違いを把握する必要がある.

  • 仲本 小次郎, 平川 隆一, 小澤 俊介, 山田 百花
    2024 年 30 巻 p. 5-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    停滞水域である多々良沼は,河跡湖であり最大水深約3mの浅い沼であった.1988年から1990年にかけて沼中央部の浚渫が行われ,最大水深は約7mになった.筆者らのこれまでの調査において,浚渫箇所では,2020年から2022年の夏季に水温成層が形成され,底面付近において貧酸素水塊が発生していた.本研究では,停滞水域である多々良沼内部の水質を再現し,沼中央部の浚渫窪地の埋め戻しが水質に及ぼす影響について検討することを目的とした.現地観測は,多項目水質計を用いて1年に4回行った.数値計算では,沼底の地形変化の影響を明らかにするために,沼中央部の浚渫箇所を埋め戻した計算を行った.その結果,現地観測において,沼中央部の表層と底層の密度差は夏季に大きく,冬季に小さいことがわかった.さらに,浚渫箇所を埋め戻した場合の計算より,浚渫箇所の埋め戻し深さが大きくなるにつれて,水温とDOどちらも沼中央部の値は上昇した.このことから,多々良沼において浚渫箇所の埋め戻しは,水温成層や貧酸素状態の解消につながることが示唆された.

  • 釣 健司, 菅野 一輝, 篠原 隆佑, 中島 颯大, 村岡 敬子, 崎谷 和貴
    2024 年 30 巻 p. 11-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河川汽水域における環境DNA調査では捕獲確認種を検出できた割合が河川淡水域より低いことが報告されている.これは汽水域の潮汐による水位や流向の変化や,比較的広い川幅や遅い流速に起因する可能性があり,採水するタイミングや調査努力量の設定が課題となる.また潮位変化の大きさは地域によって異なるが全国的に調査した事例はない.本研究では潮位変化の大きさが異なる13河川の汽水域を対象に下げ潮,干潮,上げ潮,満潮時のサンプルに対してMiFish法による環境DNAメタバーコーディングを実施し,汽水域における最適な採水タイミング及び調査努力量について検討した.一般化線形モデルによる解析では下げ潮より上げ潮時に検出種数が多い傾向がみられた.調査努力量の検討では採水回数に対する種数及び捕獲調査に対する一致率の累積曲線(偶来性の高い海水魚を除く)は4潮汐では飽和しなかったが,増加勾配は2潮汐で最も大きく,2潮汐での採水が費用対効果の高い調査努力量であると考えられる.

  • 平田 真二, 滝澤 将弥, 井口 隆暉, 丸山 啓太, 岡田 経太, 中尾 遼平, 赤松 良久
    2024 年 30 巻 p. 17-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    仔アユの流下実態調査は一般にプランクトンネットを用いた採捕により実施されるが,採捕によるアユ資源への 影響や夜間作業時における安全確保の観点から,環境DNA分析による代替が期待されている.本研究では,卵及び仔アユからの環境DNA放出の有無,及び河川中の環境DNA濃度と仔アユ流下数との相関を野外調査及び実験によって検討し,仔アユ流下量推定における環境DNA分析の有効性を検証することを目的とした.孵化前の卵から環境 DNAは検出されず,卵膜を破いた卵からは高濃度のDNAを検出した.仔アユからは環境DNAが検出され,容器への仔アユ投入数とDNA濃度は高い相関を示した.一方で,現地で観測した仔アユの流下数と環境DNA濃度に相関は見られなかったほか,仔アユ流下密度から推定される孵化卵及び仔アユ由来の環境DNAの占める割合は小さかった.以上より,仔アユ以外の環境DNA発生源により産卵場直下での環境DNA濃度から仔アユ流下量の推定することは困難であることが示唆された.ただし,産卵場と採水地点に十分な距離があり,流下仔アユが放出する環境DNAのみを考慮できる条件であれば,環境DNA濃度と仔アユ流下量が相関する可能性がある.

  • 兵藤 誠, 高橋 真司, 竹門 康弘, 角 哲也, 小林 草平
    2024 年 30 巻 p. 23-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    瀬や淵,たまり,ワンドなどの生息場は,洪水や土砂の移動によって形成され,その規模や頻度に応じて創出,維持,消失する.しかし,生息場に生息する生物の時間的・空間的な変化の特性を経時的に追跡し,定量的に明らかにした研究はほとんどない.本研究では,天竜川16.0k周辺を対象に,生息場の履歴と採取調査による50種の底生動物の関係を分析し,種毎に利用している生息場の分布パターンや洪水の影響を把握した.また,底生動物の空間的・時間的な応答を把握するため,生息場寿命及び生息場齢という新しい概念を用いて,生息場寿命及び生息場齢と生物多様性の関係について考察を行った.その結果,洪水に対する底生動物の応答は,多くの種は通常の生息場から一時的に異なる水理条件の生息場に避難するように利用している可能性があることを示した.また,底生動物の種数は,洪水規模や生息場齢及び生息場齢によって多様な応答を示すことを把握し,洪水撹乱の環境下において,生息場齢が多様な生息場が存在することが底生動物の多様性を維持する上で重要で役割を果たしている可能性があることを示した.

  • 枡本 拓, 原田 泰行, 木伏 宏俊, 関谷 明, 加藤 翔吾
    2024 年 30 巻 p. 29-34
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    宮中取水ダムでは,既設魚道(全面越流タイプ)において顕著な水面変動が発生したため,アイスハーバー型へ改築1)したが,水面変動は抑制されなかった.このためカゴ詰め玉石工の暫定設置を行い,水面変動を抑制させている2),3).しかし,中規模出水後の土砂堆積に伴う復旧作業のメンテナンスや経年劣化が課題となっている.本研究は,水面変動抑制効果を有し,かつメンテナンスが容易となる代替案の設定を行うことを目的とした.

    本検討では,縮尺1/8の模型を用いた水理模型実験により,アイスハーバー型魚道の水面変動特性を把握した上で対策案を設定し,水面変動抑制効果を検証した.具体的には,水面変動が縦波と横波で構成すること,下流に伝搬するに従い横波が卓越すること,最下流プールで水面変動幅が約56cmとなることを明らかにした.また,この特性を踏まえ,縦波を抑制する対策2タイプ,横波を抑制する対策2タイプを設定し,最下流プールで水面変動幅が約3~11cmまで低減する効果が得られることを明らかにした.

  • 宮園 誠二, 宮平 秀明, 辻 冴月, 中尾 遼平, 赤松 良久
    2024 年 30 巻 p. 35-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    外来沈水植物は,水域生態系や人間活動に様々な負の影響を与え得ることが報告されており,河川管理においては外来沈水植物の繁茂抑制および在来沈水植物の保全に努めることが肝要である.そのためには,流域スケールにおいて外来・在来沈水植物の生物量を正確に定量する必要がある.本研究では,環境DNA分析とUAV(Unmanned Aerial Vehicle)を併用し,河川に生育するオオカナダモおよびコカナダモ(外来種),クロモ(在来種)の生物量定量手法を開発することを目的とした.一級河川江の川の土師ダム下流を対象とし,1)各種の環境DNA濃度と踏査による被度との関係を検討した.続いて,2)UAVによる3種の合計群落面積に各種の環境DNA濃度比を乗じることで各種の群落面積を算出し,踏査による各種の被度との相関が1)の結果と比較し増加・減少したか検討した.結果として,2)で算出した各種の群落面積と踏査による被度との関係については,全ての種において1)の環境DNA濃度と踏査による被度との関係よりも強い相関があり,複数種の沈水植物生物量をより正確に反映していることが示された.

  • 西村 昂輝, 陳 鵬安, 竹門 康弘, 角 哲也, 小林 草平
    2024 年 30 巻 p. 41-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    上流からの土砂移動が減少した淀川河口域に好適な干潟を再生するため,シジミの生息場ポテンシャル を高める土砂供給シナリオを検討した.ヤマトシジミの生息が確認されている淀川河口域において,河床粒径,有機物含量,シジミ生息量等の現地調査とシジミ漁師からの聞き取りに基づき,シジミの好適な生息場条件を評価した.複数の土砂供給シナリオに対する淀川大堰下流における地形の応答を評価するため,横断測量データ(河口4-34km)を基にDEMデータを作成し,2次元の流れと河床変動を計算した.好適な 生息場の条件は代表粒径が0.2mm以上,最近の土砂堆積の有無,平均満潮位以下であることが挙げられた.土砂還元の1候補地である天ケ瀬ダム下流からの土砂供給により,河口域の直上である淀川大堰湛水域での土砂の捕捉があるものの,河口域での生息場ポテンシャルの増加(<2%)が期待された.ダムよりも下流の地点から土砂還元すれば河口域への土砂供給量がさらに高まる.また,河口域に土砂の堆積を促す構造物を設置することで,シジミの生息場ポテンシャルが増加する効果も確かめられた.

  • 森本 洋一, 鈴木 敏弘, 槙島 みどり, 中村 圭吾
    2024 年 30 巻 p. 47-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河川水辺の国勢調査の水域調査では,早瀬や淵といった魚類等の生息場に重要な環境要素を調査しているが,その調査方法は調査員の経験に委ねられた定性的なものとなっている.本研究では,セグメント1河川の九頭竜川及び天竜川上流を対象に,水理計算を用いない簡便な方法として,ALBの点群データから「水深」,「水面勾配」,「河床勾配」,「水面の凸凹の度合い」の4つの物理的指標を求め,これらの 指標が水域調査における早瀬や淵の判読に活用可能か検討を行った.検討の結果「水深」「水面勾配」は早瀬や淵の判読に活用可能であることがわかった.さらに,これらの物理的指標から「水深比」と「水面勾配比」を算出し,閾値を設定することにより,比較的精度よく早瀬・淵の判読を実施することができた.

  • 萱場 祐一, 宮脇 成生, 安田 悠乃, 荒木 隆, 阿部 直己
    2024 年 30 巻 p. 53-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    本総説では,河川における種の多様性に着目した植生動態モデルを構築するに当たって必要となる要件と既往研究の特徴と課題を取りまとめ,今後の展望を示した.要件として(1)対象とする人為的インパクト,(2)予測・評価対象,(3)時間スケール,(4)空間スケール,(5)予測結果の評価を選定して内容を記述した.既往研究から,予測・評価対象として多様性評価に必要な群落を選定していないこと,空間スケールを小さく(高い空間解像度)設定している一方で,長期の時間スケールに対応していないこと等を特徴・課題として取り上げた.また,展望として,河道を撹乱領域と非撹乱領域に分け,双方の領域において幅を持たせた期間で出現する可能性の高い群落群を予測することで,種の多様性評価を行うことを提案した.

  • 滝山 路人, 赤松 良久, 福丸 大智, 宮園 誠二, 中尾 遼平
    2024 年 30 巻 p. 59-64
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    近年,急激に進む気候変動や人間活動に伴い,河川環境の悪化が生じており,河川魚類の生息域の変化や減少による淡水域での生物多様性低下が報告されている.河川における魚類多様性の減少を防ぐために,流域における保全対象種や保全・修復する河川区間を特定することが必要とされる.そこで本研究では,近年実用化の進む環境DNA分析および深層学習モデルを用いて流域網羅的な魚類環境DNA濃度を推定するモデルを開発した.現地調査および環境DNA定量メタバーコーディング法による分析から得られた3魚種の環境DNA濃度と環境要因から作成した深層学習モデルは一般的に用いられる一般化線形モデルよりも相対的に予測精度が高かった.また,各魚種について実際の調査結果を反映した魚類分布を流域網羅的に予測可能であることが明らかとなった.

  • 新田 将之, 青木 宗之
    2024 年 30 巻 p. 65-70
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,親水機能に配慮した住民参加型川づくりを実施した都市中小河川・荒川水系黒目川を対象に,観察調査により得たデータから,年齢層別にみた親水利用の特徴と環境要因を分析した.その結果,利用行為,横断面上の位置,環境要因のいずれも,年齢層に応じて異なる傾向が示された.具体的には,利用行為は,年齢層が高年になるほど天端での「通過型」の利用行為が行われ,若年になるほど水中に近い位置での「入水型」や「生物捕獲型」などの利用行為が行われる傾向があった.また環境要因では,幅広い年齢層に「低水路から堤防天端までの垂直高さ」や「堤体の法面勾配」が影響していたことなどから,治水と親水を両立するうえで,スライドダウン方式の河床掘削による河川環境の保全や堤防盛土の抑制など,本事例で採られた整備内容が,多様な年齢層の親水性の保全に寄与していたと評価された.

  • 井原 高志, 齋藤 剛, 大塚 海斗, 山本 秀平, 森 遼太郎, 鬼倉 徳雄
    2024 年 30 巻 p. 71-76
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    宮崎県耳川水系では,2005年台風14号による未曾有の災害を契機に,河川管理者である宮崎県が,耳川水系総合土砂管理計画を2011年10月に策定した.耳川水系内にダムと発電所を有する九州電力㈱は,耳川水系総合土砂管理計画の中核的な事業として,ダム通砂(上流からダムに流れ込む土砂をダム下流に通過させる試み)を実施している.ダム通砂は,ダム下流の河床材料の粒度組成が変化し,生物の生息場の変化につながることが想定される.通砂の影響や効果を把握することは,今後の総合土砂管理を検討する上で有益となる.本研究では,環境改善が期待されるアユ産卵環境に着目し,現地調査データから産卵ポテンシャル予測モデルを構築し,物理環境条件からそのポテンシャルを推定し,ダム通砂によるアユ産卵環境への影響や効果を推定した.その結果,ダムに近い上流側からアユ産卵環境の改善が進んでいると推定された.

  • 鬼束 幸樹, 水廣 歩, 飯隈 公大, 渡邊 杏咲
    2024 年 30 巻 p. 77-82
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河川に魚が生息するには,魚の持続速度以下の流速を有する休憩場所の確保が必要である.水制の設置や植生の保全などが休憩場所確保の有効な手段で,それらの密度と魚の休憩特性との関係が解明されつつある.しかし,検討対象のほとんどが非水没状態であり,水没状態の知見はほとんど得られていない.本研究では開水路側岸に設置した模擬植生の水没率および密度を変化させ, 非水没あるいは水没状態の植生がオイカワの休憩特性に及ぼす影響の解明を試みた.その結果,水没率および植生密度の増 加に伴いオイカワの持続速度以下の領域が植生域内で拡大するため,植生域内へのオイカワの進入率が増加し,植生域内の滞在時間および個体数が増加することが解明された.また,植生域で休憩するほぼ全てのオイカワが植生天端以下を遊泳することも明らかとなった.したがって,非水没状態だけでなく水没状態の植生や水制を河川側岸付近に設置すると,魚の休憩場所を提供できることが定量的に示された.

  • 田端 幸輔, 武川 晋也, 瀬﨑 智之
    2024 年 30 巻 p. 83-88
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    数値解析技術の進展により,平面二次元解析,あるいは準三次元や三次元解析といったより高度な手法が,河道計画や河道設計の一部に適用され始めている.河川事業における様々な意思決定の場面において,平面二次元解析あるいは更に高度なモデルを有力なツールとして積極的に活用するには,解析手法の使途,照査方法,一定の精度を確保するための条件設定の考え方について,整理しておく必要がある.本稿では,適用事例が多い平面二次元解析モデルを対象に,モデルの性能についてレビューを行い,パラメータや条件設定の留意点を示す.また,直轄事業における平面二次元解析モデルの活用の実態を分析し,河道計画,河道設計の判断材料を提供するためのモデルの使途や適用方法の標準化を目指す上での論点を整理した.

  • 飯村 耕介, 高橋 瑞貴, 寺崎 裕人, 池田 裕一
    2024 年 30 巻 p. 89-94
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    令和元年東日本台風により栃木県内の中小河川では13河川27か所において決壊が発生し,特に蛇行の大きな河川では決壊により氾濫した流れが堤内地から河道側に戻る地点やその対岸の堤防で連鎖的に決壊が生じているような様子も確認された.このように戻り流れが生じる地点の対岸流況に対して開口部幅や蛇行河道幅が与える影響を明らかにするために模型実験および数値解析を実施した.下流側開口部幅が狭いほど,開口部から早い流速で蛇行河道へと戻る流れが生じ,大きく曲がりながら開口部側に流れが向かうものの,対岸側にも流速の速い領域が広がること,また蛇行河道が狭いほど氾濫原へと流れる流量が増し,その流れが開口部へと集中し,開口部の対岸側に広く高流速域が形成される様子が確認できた.一方で,蛇行河道内では流量が低下するが,水深が大きくなり,河道内流速は小さくなった.

  • 佐藤 海輝, 後藤 岳久, 酒井 公生, 岡田 一平, 福岡 捷二
    2024 年 30 巻 p. 95-100
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    五十嵐川では平成16年7月新潟・福島豪雨によって,内岸側の堤防が決壊し,平成23年7月新潟・福島豪雨では内岸高水敷・低水護岸が洗掘被害を受けた.従来,河道の内岸側の被害はあまり着目されてこなかったが,近年の研究で低水路が蛇行している複断面河道では,洪水時に水位が高くなると最大流速が外岸側から内岸側へ移動し,二次流が逆転する流れが生じることが示され,このことが蛇行部内岸側の被災原因となっていることが報告されている.この知見を踏まえて五十嵐川で過去に内岸側で発生した河道被害と複断面的蛇行流れの発生との関係を調べることは,今後の河道と堤防設計を行う上で極めて重要である.

    本論文では,平成16年7月新潟・福島豪雨での破堤と平成23年7月新潟・福島豪雨での内岸側高水敷の洗掘被害について,準三次元洪水流・河床変動解析を行い,複断面的蛇行流れがそれらの被災原因となり得るか考察する.

  • 太田 一行, 小林 大祐, 佐藤 隆宏
    2024 年 30 巻 p. 101-106
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    ダム堆砂の進んだ水力発電地点では取水口への土砂流入によって発電の運用・保守に多大な支障が生じており,取水口土砂流入の軽減が必要とされている.本研究では,米国の火力・原子力発電所で事例のある没水ベーン工に着目し,ベーン工による水力発電用取水口の土砂流入量軽減について実験的に検討した.水力発電用取水口を想定した水深・取水口幅比を実験条件に設定した実験を行った.出水時に頻繁に発生すると考えられる水理条件では,取水口への流入土砂量がベーン工で大幅に軽減する実験結果が得られた.また,既往事例で使用されることの多い矩形のベーンに対して,翼型のベーンがより効果的であることが分かった.さらに,水力発電用取水口の水深・取水口幅比の場合,ベーンの個数を米国の火力・原子力の既往事例で設置された個数から大幅に削減できることが示唆された.

  • 藤原 太輝, 栄 翔太, 渡部 守義, 神田 佳一
    2024 年 30 巻 p. 107-112
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    兵庫県を流れる加古川とその左支川美嚢川との合流点近傍では,下流の加古川大堰による湛水や上流河道の弯曲の影響を受け,合流部右岸の砂州の固定・肥大化,澪筋の左岸への偏向が進行し,治水・河川環境上の多くの課題が生じていた.このため,合流部直上流にコンクリートブロックによる不透過水制工が設置された.その後,出水により右岸側の砂州は消失したが,水制背面から美嚢川合流部前面にかけて新たな砂州が生じるなど,その効果は十分に発揮されていない.本研究では,模型実験及び数値解析により加古川と美嚢川合流部周辺の河川地形の形成要因を明らかにするとともに,透過型の杭列水制を用いた河川合流部の合理的な管理手法の有用性について検討した.

  • 北野 陽資, 原田 守啓
    2024 年 30 巻 p. 113-118
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    平面二次元河床変動計算が普及し,河道の計画設計に用いられる場面は少なくないが,幅広い粒径の河床材料からなる砂州掘削後の河床変動について検証した事例はほとんど報告されていない.本研究は石礫床からなる砂州河道における河道掘削の計画設計時において,掘削後の河床変動を検討するための平面二次元河床変動計算モデルの運用方法について,木曽川水系長良川扇状地区間における掘削地2サイトの掘削後2出水期のモニタリングと再現計算を通じて,より一般化された手順を提案することを目的に検討を行った.外力として与える流量波形の閾値を吟味した後,6通りの河床材料の設定により,2出水期の再現計算を試みた結果,計算される地形変化の方向性は同様であるが,地形変化の速度が大きく異なり,準表層粒度分布を交換層及び堆積層に与える方法,準表層の代表粒径を均一粒径として与える方法が比較的現地の状況を再現した.準表層粒度分布の与え方や,予測時の外力の設定方法については課題が残った.

  • 清家 拓哉, 渡邊 康玄, 平良 知己
    2024 年 30 巻 p. 119-124
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    北海道東部に位置する常呂川水系無加川上流域では,2016年8月出水時に表層砂礫が一掃され,下層に存在していた侵食抵抗の小さい軟岩(火山灰層)が広範囲にわたり露出して急激な河床低下が生じ,橋梁の架け替えに至った.一方,岩盤露出区間より上流側は主に砂礫床であり,土砂供給の要因である河岸侵食が散見された.最上流には砂防ダムが存在するが,満砂状態となっており,その直下流では河床低下は生じていない.また,下流域では河床低下対策が実施されており,近年土砂堆積が進んでいる.以上から,最上流域には下流へ供給される砂礫が十分存在し,下流域では砂礫が堆積する一方で,堆積せず露岩拡大が生じている区間が存在する.地質状況より,無加川と並行して流れ,河床低下の生じていない常呂川上流域には安山岩,無加川上流域には一般的に強度の劣る凝灰岩が主に分布し,土砂生産源の質が異なる.本研究では,河床材料の質の違いによる土砂輸送の実態を明らかにし,適切な土砂管理のためには,上流から供給される礫の強度の把握も重要な事項であることを示した.

  • 中村 亮太, 小林 草平, 角 哲也
    2024 年 30 巻 p. 125-130
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    治水専用ダムの中で河床部に放流設備を有するダムを流水型ダムと呼んでいる.流水型ダムはその構造や運用面の特徴から土砂管理上の利点を有するものの,西之谷ダムのように貯水池幅が大きく,洪水吐規模が小さいダムは堆砂しやすい傾向にある.西之谷ダム貯水池における堆砂や貯水池地形の経年的な変化について整理し,貯水池土砂管理の手法について考察するために,洪水前後の貯水池地形の変化をモニタリングした.西之谷ダムでは出水によって一様な堆砂が生じるものの,堆砂による地形変化がそれ以降発生した中小規模出水による堆砂進行を抑制している.そのため,堆砂量が計画堆砂量未満である場合は,堆砂掘削をしない方が好ましい.また,数値実験により導流堤造成とクリーク掘削が堆積した土砂の侵食に与える効果を検証したところ,西之谷ダムでは,それらによる効果は十分ではなかった.

  • 陳 翔, 曽田 英揮
    2024 年 30 巻 p. 131-136
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
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    ダム堤体の漏水量(浸透量)計測は,ダムの安全管理における最も重要な監視項目の1つであり,計測 値の時系列傾向を定期的に評価することでダムの長期的な安全性を確認している.昨今の大地震の頻発状況に鑑み,異常発生時の速やかな堤体安全性確認のための手法が求められており,今回の漏水量(浸透量)の常時監視結果に基づく異常の検知手法を提案するものである.

    本検討では,フィルダムの漏水量(浸透量)を対象に,計測値をある確率分布にあてはめ,さらにハイブリッドフィルタを用いることで浸透量計測値の過去の時系列傾向から逸脱した挙動を速やかに検知する手法を検討した.検討した結果,ハイブリッドフィルタの推定精度および有用性が確認できた.浸透量の実測データに対して倍率(𝜆2)を用いることで異常な挙動の早期検知が可能となった.

  • 橋口 茂, 岩永 正幸, 下釜 悠輔, 山田 裕志, 多田 彰秀
    2024 年 30 巻 p. 137-142
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    長崎豪雨災害を契機に計画された長崎水害緊急ダム建設事業の経過とこれまでの事業による治水効果を報告するとともに,浦上ダム再生に係る実施方法の課題と対策について述べ,考察を試みた.検討を通じて,浦上ダムのように利水容量の振り替えが困難な場合には,ダムの貯水位を維持した状態での実施方法を含めて,水質予測等を踏まえた比較設計が必要となるとともに,水位を下げずに再生を進める場合にはコスト増となる可能性が確認された.成果として,浦上ダム再生の実施方法については,事業条件の変化に対応した検討プロセスやDXを駆使した地元調整の取組みを示すことで,本事業全体の完了への道筋が見えてきており,各地で頻発する豪雨災害に備えた中小規模のダム再生の事業化の一助になればと考える.

  • 岡本 悠希, 小柴 孝太, 田中 智大, 角 哲也
    2024 年 30 巻 p. 143-148
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    大規模洪水の被害軽減や水力発電の有効活用を実現するため,降雨予測を利用しながら,予測が外れた際の損失を小さくしてダム操作を高度化することが期待されている.本研究では,リアルタイムの情報であるアンサンブル降雨予測を利用して,洪水が発生するまでに複数回にわたって事前放流と洪水調節操作の最適化を行い,治水・利水双方にメリットがあるダム操作手法について検討した.全てのアンサンブルメンバーに対してダムの最大放流量を最小化する最適化計算を行ったところ,流入量の予測精度が高いメンバーが,ダムの最大放流量を大きく低減するとともに,減電の原因となる発電所の無効放流も低減した.また,洪水調節操作の最適化に事前放流を組み合わせることで,ダムの最大放流量と発電所の無効放流量がさらに低減され,治水・利水双方にメリットがあるダム操作を行うことができた.

  • 田村 和則, 木戸 研太郎, 道広 有理, 角 哲也
    2024 年 30 巻 p. 149-154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    近年,頻発する豪雨等の気象現象に対応するために,長時間アンサンブル降雨予測(以下「アンサンブル予測」)を活用したダムの防災操作に係る議論が高まっている1)~2)

    本検討ではこれら議論の一環として,アンサンブル予測を用いた新たなダム運用のルールを策定することにより,発電量の増加や管理運用に係るメリットを創出することが可能であるかの検討を行った.具体的には,アンサンブル予測を用いた貯水位運用を実施することで,貯水位をこれまでより高く維持しつつ,長期的な雨が予測されたタイミングで,出水前には洪水貯留準備水位(以下「制限水位」)以下に水位低下する操作ルールの条件を守ることが可能であること,さらに,水位維持により得られた水量を発電放流で水位低下させることで発電量を増加できる可能性を示した.これらの操作は,アンサンブル予測を用いることで,ダムの水位低下に係る放流に係る操作の負担軽減と,ダム下流における利用者の安全確保向上にも繋がるものであり,社会実装として実現可能なものと考えられる.

  • 佐古 俊介, 高橋 耀介, 上野 俊幸
    2024 年 30 巻 p. 155-160
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    A川の河川堤防では,堤体と基礎地盤の浸潤線の観測が「河川堤防モニタリング技術ガイドライン(案)」(国土交通省事務連絡 平成16年3月)1)に基づき,2015年より現在までの7年以上の長期にわたり行われている.わが国においてはこの様な大規模な堤防に対する長期の観測事例は少なく,さらに,その間令和元年東日本台風による洪水を経験していることから,堤防の浸透状況を分析するにあたって極めて貴重なデータであると言える.本研究は,B地先断面を対象に,堤体3箇所と基礎地盤3箇所の計6箇所で水位観測を行い,飽和不飽和浸透流解析により降雨や洪水の浸透特性について考察を行った.また,その結果から,堤体内水位の反応は降雨に起因すると考えられたことから,事前降雨量と本降雨量の違いが与える堤体への浸透現象について分析を行ったものである.

    結果,堤防の浸透に対する安全性に影響する堤体内水位の上昇に,本降雨が与える影響が大きいことが推定された.

  • 松本 健作, 居波 智也
    2024 年 30 巻 p. 161-166
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    令和5年6月台風第2号に伴う豪雨により,静岡県太田川水系敷地川において決壊を伴う洪水氾濫が発生した.当該決壊箇所は,令和4年9月に発生した台風第15号に伴う出水時に破堤した区間と同一であり,令和5年の決壊時においては,前年の破堤に対する応急復旧としての大型土嚢積み状態となっていた.令和5年の大型土嚢積決壊の様子は,前年の破堤対策時に設置した監視用カメラの映像で撮影されており,これと決壊部近傍の降雨及び河川水位の観測データから決壊過程を考察した.河川水位の観測結果から,令和 5年出水では水位ピークが2度発生しており,1度目のピーク時には大型土嚢積区間からの越水は生じていないものの土嚢の一部に沈下が見られ,ピーク後の河川水位の低下に追随するように土嚢の一部において沈下が進行し,その後の2度目のピークにおいて多数の土嚢流失と,その後の後背地盛土の侵食により決壊が生じたものと考えられる.応急復旧の土嚢積み状態で出水に見舞われるケースは今後も出来する可能性が高く,その対策の検討は喫緊の課題であると考えられる.

  • 河野 努, 三好 朋宏, 福島 雅紀, 瀬﨑 智之
    2024 年 30 巻 p. 167-172
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    越水した場合でも決壊しにくく,堤防が決壊するまでの時間を少しでも長くするなどの減災効果を発揮する粘り強い河川堤防の技術開発が進められている.その構造のひとつである二重式鋼矢板構造のコアを設置した堤防を対象に,実大スケールの水理模型実験を行った.その結果,越水によって,川裏側地盤の洗掘の進行や,堤防内の間隙水圧の上昇が生じることで,コア部が傾倒していく破壊プロセスが観察された.その過程において,矢板壁の変位の増加等により生じた,川裏側矢板壁とコア部盛土との間の間隙の発生を期に,コア部の傾倒が大きく進行し始めることを確認した.

  • 島田 友典, 山本 太郎, 白川 康平, 神原 柚乃, 前田 俊一, 大串 弘哉, 髙橋 賢司, 猪子 長
    2024 年 30 巻 p. 173-178
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河道等の整備が進んでいる今日でも全国各地で破堤による被害が多発しており,気候変動の影響により洪水被害がさらに頻発化・激甚化することが懸念されている.このような状況を踏まえ,国土交通省は河川の流域のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う治水対策である「流域治水」を進めていくこととした.氾濫域の水害リスク評価のために重要となる氾濫流量を精度良く推定するには,破堤口幅の見積もりが重要となる.現在,破堤口幅は過去の破堤事例をもとに川幅と関連付けた経験式から設定されているが,近年の多発する破堤災害で観察された破堤口幅が経験式と大きく異なる事例も散見される.本報告では破堤口幅に影響を与える支配的要素を明らかにすることを目的に,越水破堤事例および破堤実験をもとに,破堤口幅のほか,河道や堤体,水理学的指標を収集し整理を行った.これより川幅のみで破堤口幅を評価することが難しいこと,また破堤口幅には特に水理学的な指標が影響を与えることを示した.

  • 根本 嵩也, 小林 薫, 松元 和伸, 武田 茂樹, 孫 冉
    2024 年 30 巻 p. 179-184
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    線状降水帯に伴う豪雨災害が激甚化・頻発化しており,水災害の増加が懸念されている.破堤の86%は越水が主要因と報告されており,越水しても破堤までの時間を少しでも長くする「粘り強い河川堤防」が求められている.国土交通省は,前記の技術開発目標として,越流水深0.3 m,越流時間3時間を提示している.また,これまでの破堤事例から越流流速3 m/s未満の場合は破堤しないことも報告されている.以上より,本論文では越流水深0.3 m,越流時間3時間に加えて,越流流速3 m/s超の越流水に対し,実規模大の越水実験において,水路内に敷設した2タイプの破砕貝殻層の侵食抑制効果を検証した.その結果,シェルネット型の破砕貝殻層は前記3条件の越流水に対して侵食抑制効果を発揮することを明らかにした.

  • 諏訪 義雄
    2024 年 30 巻 p. 185-190
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    堤防浸透対策技術変遷から基準・マニュアルの全国展開に至る脈絡を整理した.各現場の浸透変状現象解釈に基づく対応から,演繹外挿で対策が加速した一方,結果的に現場の実現象や観測データとの突合軽視となった.関係技術者の認識の共通点と相違点,現場浸透破堤説明のポイントを整理・考察した.今後の浸透破堤対策技術開発の肝として次の3点を提示した.①漏水変状発生数減少事実への諸対策積上げ貢献を実データで力学的に説明.②浸透破堤の象徴・安八破堤の現象説明.累積降雨800mm超・4波目減水期に間隙水圧が増加する説明が肝.③パイピング破堤評価技術にも現場体感・目撃事実の説明力が必要.

  • 小笠原 明信, 口澤 寿, 横山 憂也, 三佐川 剛昌, 菅野 法之, 川尻 峻三
    2024 年 30 巻 p. 191-196
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    近年,激甚化する気象現象による大雨によって,堤防からの越水に伴う堤防決壊による洪水氾濫で甚大な被害が全国各地において発生している.このような被災後の対策工の検討においては,河川堤防の土質特性を広範囲に把握することが重要となる.また河川堤防に限らず,被災を受けていない土構造物の健全性を評価するうえで,ボーリング調査は必要不可欠であるが,ICTや非破壊物理探査を有効利用することで,従来よりも効率的・効果的にボーリング調査実施箇所の選定が可能になると考えられる.そこで本稿では,変状の見られる河川護岸の現況把握に対して3次元管理システムおよび表面波探査を実施した事例について,その結果を報告する.調査結果より,河川護岸の変状が見られる裏込め地盤内ではS波速度の低速度領域が分布していたことや,点群データによる地山の変位が確認されないことから,裏込め地盤の吸出しによって護岸の変状が発生したと考えられた.以上のことから,点群データ技術に既往の地盤調査技術を加味することで,より迅速かつ合理的に対象構造物の状況把握が可能であることがわかった.

  • 神原 柚乃, 島田 友典, 前田 俊一, 大串 弘哉, 髙橋 賢司, 猪子 長
    2024 年 30 巻 p. 197-202
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    近年,集中豪雨の増加に伴い堤防決壊による洪水被害が多数発生しており,堤防決壊時の被害予測および被害軽減技術の確立が求められている.そのため,越水時の堤防決壊に関する研究が様々な手法で進められているが,土質材料の違いが破堤口の拡幅現象に与える影響は十分に明らかになっていない.そこで,本研究では堤体と基盤の土質材料を変えて水理模型実験を行い,それぞれの土質材料における破堤口の拡幅過程を明らかにした.砂礫堤防の実験と比較したところ,粘性土堤防は越水から破堤口の拡幅開始までの時間は長くなるが,破堤口の拡幅速度は大きくなる結果を得た.

  • 藤城 裕也, 山本 浩二, 川岸 靖, 川池 健司
    2024 年 30 巻 p. 203-208
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    過去の河川堤防決壊事例では,越水が要因となるものが大半を占め,令和元年台風19号に伴う洪水でも,越水が主要因となるものは全国の堤防決壊142箇所の86%を占めた.今後も気候変動による洪水被害がさらに頻発化・激甚化するものと考えられており,堤防から越水した場合であっても堤防が決壊するまでの時間を少しでも引き延ばす「粘り強い河川堤防」を整備し,被害を軽減することが求められているが、技術的に越水した場合の効果に幅や不確実性がある.この「粘り強い河川堤防」に必要な技術的検討を行うことを目的に令和4年「河川堤防の強化に関する技術検討会」が設置され,「粘り強い河川堤防」の越水に対する性能を評価するための技術開発上の目安として「越流水深30cmの外力に対して,越流時間3時間の間は越水に対する性能を維持する構造とすること」が設定された.本報告では,大規模堤防模型実験水路において透気防水シートを裏法面に敷設し,裏法面およびドレーン工の境界部分等の越水に対する耐侵食性能について検証した.

  • 石原 雅規, 高橋 耀介, 味方 圭哉, 佐古 俊介
    2024 年 30 巻 p. 209-214
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河川堤防(土堤)の維持管理段階で発見される変状には様々なものがあり,決壊に繋がりやすいものとそうでないものがある.決壊に繋がりやすく,堤防の弱部を表すような変状に対して,強化復旧を検討することにより,効率的に安全性の向上,不確実性の低減が可能になると考えられる.

    そこで本報告では,河川堤防で見つかった変状が,浸透に対する決壊に繋がりやすいかどうか(浸透に対する弱部かどうか)を分別するために有用なFT図やET図の作成方法を提案した.具体には,FT図に,河川堤防の点検の12変状種別をできる限り取り込むこと,素因及び誘因を論理記号を介して取り込むこと等である.また,ET図は,FT図のうち特定のプロセスに絞り込むことで容易に作成でき,点検で見つかった変状の分別に対して実用性が高いことを示した.

  • 大桑 有美, 前田 健一
    2024 年 30 巻 p. 215-220
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    透水性基礎地盤に河川水が浸透し,漏水,噴砂の発生からパイピングに進展し,河川堤防が被災する危険性の高い箇所を抽出するために,支配因子や評価指標,それらの閾値を明らかにすることは重要である.そこで,本研究では,2016~2018年,2022年の出水により噴砂と陥没が繰り返し発生した宮崎県北川の事例調査結果に基づき,漏水,噴砂及び陥没の動態とそれらの関連性を模型実験と浸透流解析を用いて考察した.模型実験より,現地で観察された実堤防の堤内地の損傷の様子を再現した結果,基礎地盤の土質構成が漏水,噴砂や陥没の発生過程に影響することが分かった.また堤内地の変状や損傷は,噴砂現象の照査基準の1つであるG/Wの想定とは異なっており,従来の浸透流解析では表現しきれない条件があること が分かった.実現象の変状を単純化し考慮した試みを行い,その影響度を定量的に評価している.今後,実現象を評価する際には,基礎地盤の土質構成と地盤損傷の過程を把握することが重要である.

  • 堀 謙吾, 國領 ひろし, 二瓶 泰雄
    2024 年 30 巻 p. 221-226
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    本研究は,越水に対して「粘り強い河川堤防」の技術開発を目的に,表面被覆型のかご系構造物を裏法肩から裏法面および裏法尻に配置した実物大の堤防模型を大規模堤防模型実験水路に構築し,越流実験から耐越水性を検討したものである.実験の結果,目標性能の目安となる越流水深30cmおよび越流時間3時間にて堤防高さを維持し,且つ堤体土も侵食されず耐越水性を発揮した.かご系構造物が耐越水性を発揮するメカニズムの1つに,かご層内での流速低減効果があげられる.かご系構造物下の吸出し防止シートの透水性を精度良く見積もる課題は残るものの,かごの底面流速から力のつり合い式を用いて堤体地盤における砂粒子の移動が検討可能であることを確認した.

  • 小林 薫, 神澤 実優, 多田 音葉, 大埜 明日香, 松元 和伸, 森井 俊広
    2024 年 30 巻 p. 227-232
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    記録的な短時間強雨時の越水に伴う堤防決壊が頻発化等する中,粘り強い堤防が求められている.筆者らは,堤防裏法面に破砕貝殻層を敷設しキャピラリーバリア(CB)土層を構築することで,堤防裏法面への雨水浸透抑制と,越水時の裏法面侵食抑制が可能な貝殻を用いたCB堤防(以下,貝殻型CB堤防と記す)を提案してきた.本研究は,貝殻型CB堤防を屋外に構築し,雨量計と堤体内の複数の土壌水分センサによる雨水浸透挙動の計測(期間内に2回行った越水(天端からの放流水)時の侵食抑制効果確認実験を含む)を約1年9か月間継続した.その結果,実規模大レベルで堤防裏法面に埋設した破砕貝殻層の越水時侵食抑制効果と共に,侵食した覆土層の修復に伴う雨水浸透抑制機能が回復することを実験的に示した.

  • 川尻 峻三, 鬼丸 颯人, 山下 航暉, 重枝 未玲, 廣岡 明彦
    2024 年 30 巻 p. 233-238
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,表面被覆型の堤防強化における被覆コンクリート背面の不織布の有無が高水位作用時の堤体変状プロセスに与える影響について,遠心模型実験を用いて基礎的な検討を行った.不織布有りのケースでは,川裏法尻付近から河川水が噴出し,法留工の傾斜とコンクリートブロックの滑動は確認できたものの,明確な堤体の侵食は確認できなかった.一方で,不織布無しのケースでは堤内地盤へ転倒した法留工とコンクリートブロックの間に発生した隙間から大量の濁水が噴出するとともに,コンクリートブロック背面の堤体が侵食された.また,本実験結果は過去に実施された海岸堤防に対する実大越流実験結果と整合しており,本遠心模型実験においても実堤防で発生する主要な現象は再現できていることを確認した.

  • 鬼丸 颯人, 川尻 峻三, 重枝 未玲, 前田 健一, 廣岡 明彦
    2024 年 30 巻 p. 239-244
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    洪水規模の拡大によって計画高水位を超過した越水による堤防決壊が毎年のように発生し,近年では越水に対して粘り強さを発揮できる堤防強化工法の検討が進んでいる.効果的な堤防強化工法の立案のためには,堤体土質が浸食プロセスに及ぼす影響等の不明な点を明らかにする必要がある.本研究では,粒度特性を変化させた堤体材料を用いて模型堤防を作製し,縮尺模型に任意の重力加速度を載荷することで実地盤の応力状態を再現できる遠心載荷実験中に越水実験を行った.その結果,越水時の堤体浸食速度は無次元限界掃流力と見かけの粘着力と関連していることがわかった.このことから越水に対する土堤の粘り強さの評価には,従来の水理学的パラメータに加えて,地盤工学的なパラメータの勘案が有用である.

  • 松尾 峰樹, 三好 朋宏, 平出 亮輔
    2024 年 30 巻 p. 245-250
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    護岸前面の局所洗掘防止等に使用される根固めブロックは,複数個のブロックを組み合わせて群体にして配置することが一般的であり,根固めブロックの所要重量を算出するために,群体としての効果を考慮した特性値を用いて照査する方法が現行基準に示されている.しかし当該特性値は,根固めブロックの形状,配置形態等に応じて,水理模型実験等により求めることが望ましいとされており,群体としての効果を発揮するメカニズムについては十分に整理されていない.

    そこで本研究では,複数の形状のブロック模型を使って水理模型実験等を行い,ブロックの移動限界流速の計測や移動時の挙動の観察を行った.その結果,上流端付近は安全率が低く不安定な状態にあり,この状態において抗力と横断方向の力の合力が作用することにより横回転が生じることが確認された.また群体効果として,延長方向の配置個数が増えるにつれて群体としての安全率が増加すること,後方に隣接するブロックとの接点幅が広いほど不安定な上流端付近のブロックの移動抑制効果が高くなることが確認された.

  • 竹崎 奏詠, 小関 博司, 猪股 広典, 工藤 俊
    2024 年 30 巻 p. 251-256
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    洪水発生時において,河川に架かる橋梁橋脚が洗掘を受けて変状する被災事例が毎年のように報告されている.本報告では,既往最大規模を大きく下回る中規模出水中の洗掘で被災した低水路内に位置する橋脚を対象に,実測の河床データの分析と平面二次元河床変動計算を通じて被災橋梁周辺の流況および河床変動特性を評価した.その結果,出水前後に実施された河床高測量結果を通して,従来から認識されている橋脚上流側の局所洗掘によって生じる洗掘孔の広さに比べ,被災橋梁架設位置直下における低水路の広い範囲で河床低下が生じたことを明らかとし,平面二次元河床変動計算によっても上記の河床低下を概ね表現することができることを示した.また,計算結果を基に,上記の河床低下が生じた理由について,当該橋梁の河積阻害率が比較的高いことで,橋梁の上流側で堰上げが生じ水面勾配が急になり,橋脚間の高速流に起因するcontraction scour(橋脚間洗掘)が進行した可能性を示した.

  • 大本 照憲, 張 浩, 伊藤 雅哉, 三宅 利
    2024 年 30 巻 p. 257-262
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    橋脚の局所洗掘に関する対策工には,大きく分けて河床洗掘の防御のための保護工(riprap armoring countermeasure)および橋脚前面の流れを変える対策で強い下降流を伴う馬蹄形渦の制御(flow altering countermeasure)が挙げられる.本研究では,後者に着目し,橋脚の直上流に流速低減効果および流向制 御効果を持たせ環境負荷の小さいベーン工を設置することで馬蹄形渦の制御および橋脚の洗掘孔を抑制することを検討した.実験結果から,(1)橋脚周りの局所洗掘孔は無補強のケースに較べて,橋脚直径Dに対するベーン工の間隔が1/2Dで洗掘深および洗掘孔体積が最も小さく,1/3Dおよび2/3Dは同程度の傾向があった.橋脚周りの最大洗掘深は,無補強に較べて最大で約23%程度,洗掘孔体積は17%にまで抑制され,ことが認められた.(2) ベーン工が3対までは,橋脚周りの洗掘孔とベーン先端部の洗掘孔が一体化しているが,4対以上(橋脚直径の4倍以上)では,橋脚と導流工先端部の洗掘孔は独立した存在になり,群杭の場合と同様の傾向を示した.

  • 竹村 吉晴, 福岡 捷二, 福島 雅紀
    2024 年 30 巻 p. 263-268
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    大河津分水路では,流下能力の不足する河口部の拡幅と第二床固の改築が進められている.これらの工事が実施される河口部では河床に軟岩が露出しており,現況の第二床固下流では軟岩河床の侵食により,河床が著しく低下し,各種の対策が繰り替えされてきた経緯がある.著者らは,これまでの検討から第二床固下流区間の軟岩河床は,7m/s以下の底面流速では著しい侵食は生じないことを知見として得ている.この知見と非静水圧準三次元解析に基づいて,令和6年から令和10年までの新第二床固の段階施工計画の改善について検討が進められている.本論文は,その検討過程の詳細を提示することにより,河川横断構造物の設計及び段階施工計画の検討に対する数値解析技術の有効性を示す.

  • 大本 照憲, 宇根 拓孝, 坂田 洋一, 林田 祐一
    2024 年 30 巻 p. 269-274
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河川横断構造物である固定堰は,治水および環境面で多くの課題を有することから漸次,全面可動堰に改築されるケースが多い.また,平成28年熊本地震では山腹崩壊に伴い約100万m3の土砂が白川に流入にした結果,白川水系の堰上流では顕著な河床上昇を引き起こし,流下能力を低減させている.

    本研究では,馬場楠堰改修における部分可動堰の開口部の位置および大きさが水位,流況に与える影響について検討した.比較対象の堰は,現況の全面固定堰,河道中央の開口幅30m,開口幅40m,開口幅 60mおよび開口幅60mの内,湾曲部内岸側の開口部を閉じた澪筋部に当たる左岸寄開口幅30mの5種類,流量は確率年10年相当規模の洪水流量1,500m3/sおよび確率年30年相当規模の洪水流量2,000m3/sの2種類である.実験結果から開口部の大きさおよび位置については開口幅60mとほぼ同様の効果が左岸寄開口幅30mにおいて認められた.また,開口幅60mにおいては,右岸側開口部で堰周辺に大量の土砂が堆積し堰操作が不可能になることから,左岸寄開口幅30mの方に合理性があることが認められた.

  • 松下 晃生, 井上 敏也, 南 まさし, 吉武 央気, 松田 浩一, 旭 一岳, 宮本 仁志
    2024 年 30 巻 p. 275-280
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,植生の侵入・成長・流失を簡易に考慮した平面二次元河床変動モデル(以降,既往モデル)から,成長関数の導入及び複数種の植生消長条件を考慮可能なモデル(以降,改良モデル)へと改良を行った.モデル改良の結果,植生種の判定区分精度が大きく向上し,植生抵抗が適切に表現されたことで,洪水時の水位の再現性が10cm程度向上した.流下能力の維持・向上を目的とした河道管理に対しては,植生消長を正しく考慮したモデルが有用であり,改良モデルは,数年程度の計算に対して,複数種の植生を簡易に実用的な範囲で植生消長を考慮した計算を行うことができる.

  • 唐沢 和輝, 大槻 順朗, 厳島 怜, 佐藤 辰郎, 北條 浩
    2024 年 30 巻 p. 281-286
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    礫列は勾配1/100~1/20程度の扇状地上流にあたる急流河川に見られる河床形態である.この勾配帯では近年急速な河道掘削による人為改変が進行している.また,流域の特徴に対応して河道の様相が異なっており,潜在的な河川環境に寄り添う河道掘削工法の提案のためには,礫列の形成に対する人為改変の影響の程度と河川ごとに呈される特徴を考慮する必要がある.本研究では,急流扇状地河川における礫列への掘削の影響と流域ごとの特徴(個別性)を明らかにすることを目的とした.礫列とその形成を促進する可能性がある直径1m以上の巨石を異なる河川で観測し,環境要因を表すパラメータとの関係性を統計的に分析した.その結果,巨石の密度と礫列密度に正の相関が見られ河川ごとに傾向が異なること,河道掘削による巨石密度の低下が顕著であること,礫列に及ぼす要因は人為改変がない場合流域スケールの要因に強く影響を受ける一方,人為改変がある場合はより小さなスケールの要因が卓越することが分かった.これらより,巨石の移動・除去を抑制することが急流河川の潜在的環境形成に重要であることが示唆された.

  • 傳甫 潤也, 井上 卓也, 平松 裕基, 川村 里実, 千葉 学, 下舘 巧
    2024 年 30 巻 p. 287-292
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/27
    ジャーナル フリー

    河岸侵食は,中規模河床波と密接な関係にあり,素因となる地形,進行要因となる洪水流の影響が重要となる.本論では,被災実績を有する道内の複数河川において,侵食実績と比高水深比(地形指標),積算U*(洪水指標)との関係や,危険に至る目安について検討した.その結果,河岸侵食との関係は,比高水深比と相関関係が高く,1.0以上で危険度が増加する傾向にあった.積算U*は他の洪水指標より相関関係が高く指標として適しており,10000s・m/s以上で危険度が増加する傾向にあった.こうした目安値を用いたスクリーニングにより,危険箇所の事前抽出と対応に繋がることが期待される.

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