2025 年 31 巻 p. 415-420
近年,日本国内の地上雨量観測所数は,特に高標高域を中心に減少傾向にある.地上雨量データは今もレーダ雨量計の補正のためにリファレンスとして活用される一方,政府等の限られた予算を考えると,地上雨量計の設置数を維持することは将来的に困難と予想される.本研究では令和元年東日本台風を対象に,地上雨量計を乱数的に間引くことで得られる大量アンサンブル流域雨量を用いたアンサンブル流出解析を行った.その結果,間引き割合が85%を超えるとピーク流量誤差割合が急激に悪化することを明らかにした.また,流域外であっても周辺に観測所が存在する場合はピーク流量のバラつきを抑える効果があることを示した.さらに洪水波形の再現のために重要な地点を算出した結果,15地点が抽出され,その多くが群馬南東部に集中した.これら15地点を使用して再度流出計算を行った結果,ピーク流量誤差割合が0.31%となり,高い再現精度が得られた.加えて,洪水波形の適切な表現のために最低限必要な観測密度を調べたところ4.1地点/100km2以上であることがわかった.