2024 年 33 巻 3 号 p. 77-83
アーバスキュラー菌根 (AM) 菌は陸上植物の約7割と根において共生できる糸状菌であり,相利共生により植物に対して土壌中のリン酸を供給する.そのため,AM菌接種により貧リン酸条件でも効率的なリン酸の利用と植物生育の改善が期待できる.先行研究において,リンドウ科植物のセコイリドイド配糖体にAM菌の菌糸分岐促進能が備わっており,その処理によりAM菌の感染が促進されることを明らかにしている.本研究では,リンドウ科植物由来のセコイリドイド配糖体の機能を利用した農業資材開発を目的に,低コスト化のためにリンドウ科の生薬から調製した抽出液が化学的純品を代替できるかについて検討した.リンドウ科の生薬リュウタンの熱水抽出液を調製し,HPLCを用いて測定したセコイリドイド配糖体含有量をもとに,以後の試験を行った.AM菌を用いたバイオアッセイの結果,生薬抽出液には化学的純品に相当する菌糸分岐促進能が認められた.また,生薬抽出液を処理することで,チャイブとトマトにおいてAM菌の感染が有意に高まった.一方で,トマトにおける共生のマーカー遺伝子の発現解析では,生薬抽出液の処理による変化は認められなかった.植物の生育に対する影響が認められなかったことも合わせて考えると,リンドウ科植物由来のセコイリドイド配糖体が備えるAM菌の菌糸分岐促進能を発揮させる目的で,生薬を基源とする抽出液が利用可能であると考えられる.