2024 年 33 巻 3 号 p. 84-92
熱帯多雨林の年間の総一次生産量は陸地合計の約1/3に達する.さらに,葉の光合成による同化産物の約1/3が細根生産に配分されるとも試算されている.細根の成長,枯死分解は熱帯多雨林の炭素循環に大きな役割を果たすが,細根の成長,枯死分解は比較的短い期間に同時に起こることから,その年間を通した観測およびそれらに影響する要因を解明することは難しい.本稿では,非破壊的に連続して根の動態を観測できるスキャナー法を用いて,マレーシア,ボルネオ島のランビル・ヒルズ国立公園の熱帯多雨林において細根の成長および枯死分解を経時的に調査し,その季節性,場所ごとの違いや根直径の特徴に関する研究事例を紹介する.ランビル・ヒルズ国立公園の森林内5か所で撮影したスキャナー画像をもとに,画像解析ソフトを用いて根を抽出し,根直径ごとの根長を測定した.その結果,月平均の細根成長量と枯死分解量に明確な季節性は認められなかった.また,場所ごとの細根成長量と枯死分解量が多い月について,気象要因との相関関係はほとんど認められなかった.さらに,直径0.5 mm以下の細い根が成長量と枯死分解量の8割以上を占めた.これらのことは熱帯多雨林に明確な季節性がないことや,樹種の多様性が高いことが影響していると考えられた.本稿では,さらにスキャナー法を用いた細根動態の研究の課題や展望についても提示した.