宗教研究
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イスラーム存在一性論の構造と知的生命力(<特集>イスラームと宗教研究)
松本 耿郎
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2004 年 78 巻 2 号 p. 347-371

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抄録

イスラームの信仰宣言「アッラーのほかに神はなく。ムハンマドはアッラーの使徒である」はムスリムを宗教的瞑想に誘う。その理由は、二つの命題の論理的関係が文言だけでは不明で、なぜ二つの命題を宣言するのかも明らかでないからである。多くのムスリムの思想家たちがこの問題に取り組み、その知的営為の中から存在一性論という哲学が形成され、この哲学を継承発展させる運動がイスラーム世界全域で展開した。存在一性論はアッラーを唯一の真実在者とし、それ以外の諸存在は仮の、あるいは幻の存在であるとする。そして、唯一の真実在者と幻の存在との関係を考察し、さらにこの真実在者から預言者ムハンマドが派遣される理由を可能な限り理論的に説明しようとする。これは相当なエネルギーを必要とする知的営為である。しかし、存在一性論はその中で使用する基本概念をいずれも重層的意味を持つものに設定して、この学派の枠組みの中での思索がほぼ自己増殖的に発展する装置を創り上げている。それは思想的生命力の自動的維持装置ともみなしうる。存在一性論が中国の思想的土壌のなかでも見事に開花していることもこのことを証明している。

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© 2004 日本宗教学会
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