宗教研究
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論文
  • 身体、女性、霊のことば
    渡辺 優
    2023 年 97 巻 3 号 p. 1-25
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    現代宗教研究において「神秘主義」の語は「身体」という語と入れ替わるように閑却されているといわれる。しかし、今日的な身体論の展開を踏まえてみるとき、神秘主義という問題系はむしろ新たな魅力をもって現れてくる。本稿は、M・ド・セルトーの未完の神秘主義論「身体の詩学」を継承し、「身体」に加え「女性」そして「霊」という三つの鍵概念を糸口としてさらに展開することで、新たな研究の地平を拓くことをねらう。西欧の神秘家ないし霊性家たち、とりわけアウグスティヌス、アビラのテレサ、十字架のヨハネ、スュランのテクストを読み、そこに響く固有の「ことば」を掬い上げる。合わせて、そうしたことばが西洋近代という時代の中でいかなる変化を被ったかを検討する。近代的な知の枠組みでは聞き取りにくくなった「霊の呻き」を、別様の知を証すことばとして聴こうとする本稿の試みは、今日の宗教研究において「霊」を学知の主題として問うことの実り多き可能性を示唆するものでもある。

  • 兵法書と『簠簋内伝』にみる暦占の論理
    馬場 真理子
    2023 年 97 巻 3 号 p. 27-52
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    中世から近世にかけて、陰陽道の知識は社会に広く拡散していった。特に暦の知識は、貴族社会の外で独自の展開を遂げた。その代表例として注目されてきたのが、中世の暦占書『簠簋内伝』である。本稿では兵法書における暦占の解説を分析することで『簠簋内伝』を相対化するとともに、『簠簋内伝』が近世社会で大きな影響力を持ち得た理由を問い直し、近世的暦占の在り方を論じた。中世後期から近世初期の兵法書の中では、戦に関わる故事を暦占の根拠とする独自の論理が形成されていた。暦占をめぐっては、近世初期までに著述の目的や文脈に応じて様々な論理が生まれており、『簠簋内伝』はそのうちの一つに過ぎなかった。にもかかわらず『簠簋内伝』が突出した影響力を持ち得た理由の一つとして、同書が暦占に本来付随する陰陽五行説の難解なコンテクストを剥ぎ取り、誰にでも理解しうる知識に作り替えたことが指摘できる。『簠簋内伝』にそのような役割が求められたことは、近世の暦占がそれのみで完結した実践的知識として期待されたことを示している。

  • 近代アメリカの高等教育の世俗化に関する再考
    木村 智
    2023 年 97 巻 3 号 p. 53-77
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    一七世紀のピューリタン正統主義に起源をもつハーバード大学では、毎朝の礼拝を含む宗教的修養が建学以来の学生生活の根幹だった。しかし一八八六年、礼拝出席が義務から任意に変更される。本稿の目的はこの礼拝改革の分析を通して近代アメリカの高等教育の世俗化のプロセスを考察することである。一見すると同改革は社会構造の分化という近代一般の潮流と重なる。つまり前近代的な宗教と高等教育の一体性が崩れ、学術が専門化・自律化する中で、大学での宗教の役割が低下したと考えられる。しかし任意化後の礼拝の実態を精査していくと、これが単なる世俗化ではなかったことが明らかとなる。本稿は大学牧師F・G・ピーボディの約二〇〇篇の礼拝説教を分析し、そこに宗教と学術の有機的繋がりを保とうとする企てを見出す。彼が恐れたのは宗教と高等教育の過度な分化の結果、若者が学究という閉鎖的領域に撤退し偏狭な人間と化すことだった。そこで彼は宗教を生活の全領域に関わる動的な「力」として提示し、社会構造の分化後の世界でなお個人が自らの諸活動に宗教的一貫性を保持できる可能性を示そうとする。

  • 髙瀬 航平
    2023 年 97 巻 3 号 p. 79-104
    発行日: 2023/12/30
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    本稿は、一八九九年の改正条約実施以降、どのような政治過程を経た結果、海外のキリスト教宣教団体の事業や組織が日本法上に位置づけられたのかを考察する。とくに同団体の多くが、民法第三四条に基づく宗教に関する社団法人を組織した事実に注目する。先行研究では、当初日本政府は、キリスト教に関係する民法法人の設立の許可に消極的であったが、米国宣教団体が米国政府と協力して宗教の自由を求めた結果、それを許可したと論じられてきた。これに対し本稿は、最初に許可されたバプテスト伝道社団法人の設立や、その前に計画されていた東京中学院(現関東学院)の財団法人化を巡る、日本政府、米国政府、米国バプテスト宣教連合の間の交渉とその影響を検討する。日米間の交渉の焦点は、キリスト教に関係する民法法人の設立が許可されるかではなく、同法人を設立し管理する権利が外国宗教法人に認められるかにあった。交渉では、米国宣教団体と米国政府が協力して日本政府を譲歩させたのではなく、米国政府が日本政府の方針を支持した結果、米国宣教団体は同権利を得られなかった。

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