宗教研究
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特集号: 宗教研究
97 巻, 2 号
特集:戦間期の宗教と宗教研究
選択された号の論文の23件中1~23を表示しています
論文〔特集:戦間期の宗教と宗教研究〕
  • 編集委員会
    2023 年 97 巻 2 号 p. 1-2
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー
  • 江川 純一
    2023 年 97 巻 2 号 p. 3-26
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    ファシズム期におけるペッタッツォーニの活動を分析することで、戦間期の宗教研究を明らかにする。宗教史学を単独で立ち上げた彼は、この学問を定着させるために、大学講座設置と学術誌創刊を望んだ。しかし、カトリックの近代主義者達とともに始めた雑誌は教皇庁から発禁処分を受け、講座設置も容易には実現しない。そのようなペッタッツォーニに手を差し伸べたのがファシスト政権である。ペッタッツォーニは政権によって講座と学術誌を得たことから、新アカデミー、政権への忠誠宣誓、百科事典といったファシズムの文化政策に関わることになる。さらに彼は、宗教史学におけるヴィーコの功績を強調したり、ローマを世界の宗教史の中心として理解することを提案したりするなど、ファシズムに迎合するような文章を発表する。生涯を通じてさまざまな社会運動に参加した彼であったが、ファシズム期はその空白期となっている。彼のこうした態度から、戦間期のイタリアがいかなる時代であったかを窺い知ることができる。

  • カトリシズムかプロテスタンティズムか
    大久保 教宏
    2023 年 97 巻 2 号 p. 27-50
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    一九世紀初頭に多くのラテンアメリカ諸国が独立を果たすが、それ以降、ラテンアメリカの政治家や知識人は、政治や社会に強大な影響力を行使するカトリシズムの扱いをめぐって、長く宗教に関する議論を行ってきた。第一次世界大戦が終結した後、米国発のプロテスタント宣教活動が活発化してラテンアメリカがその主要なターゲットの一つとなったことなど、いくつかの理由が重なり、一九二〇年代になると、ラテンアメリカでの宗教に関する議論は、さまざまな方向に展開していく。米国人プロテスタント宣教師サミュエル・ガイ・インマン主導の下で一九二〇年に創刊されたスペイン語月刊誌『新しい民主主義』は、ラテンアメリカの政治家、知識人が執筆した記事を掲載し、彼らに宗教に関する議論の場を提供した。本稿では、それらの記事を取り上げ、特にカトリシズム、及びプロテスタンティズムに関わる議論に着目し、「霊」や市民宗教などに議論が展開していく経緯を明らかにする。

  • 仏教連合会の組織と活動
    大澤 広嗣
    2023 年 97 巻 2 号 p. 51-74
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    現状における日本仏教の連合組織は、「全日本仏教会」である。同会は自らのルーツを、一九〇〇(明治三三)年に設立された、国家の宗教統制に反対した団体であると説明する。

    しかし実際には、一九一二(明治四五/大正元)年に形成された「仏教各宗派懇話会」が出発点であった。その後、一九一六年に「仏教連合会」へ改称され、仏教界をめぐる世俗的な法制の整備と僧侶の法的待遇の是正を求めて、政府に働きかけた団体である。戦間期の日本仏教宗派は、制度改革を強く主張するため、仏教界が一体となり連合化を図ったのである。そして日中戦争の勃発後は運営基盤の強化のため、一九三八(昭和十三)年に財団法人となり、後には、「大日本仏教連合会」、「大日本仏教会」と改称した。

    仏教連合会は、国家の施策に協力しながらも、時には対立し、異議を唱えるなど、戦間期の仏教界を取り巻いた政教関係を見る上で、重要な示唆を与える団体である。

  • 御大典記念日本宗教大会と日本宗教平和会議の事例
    大谷 栄一
    2023 年 97 巻 2 号 p. 75-99
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    第一次大戦後のヴェルサイユ体制とワシントン体制にもとづく国際協調体制の下、平和を求める戦争違法化の活動が国際的に展開され、世界規模の集団安全保障体制が構築される中、日本の宗教界と宗教学界は御大典記念日本宗教大会(一九二八年)と日本宗教平和会議(一九三一年)を開催した。

    国際連盟の設立と不戦条約の調印・批准を踏まえて、日本の宗教界・宗教学界は宗教間協力によって、この二つのイベントを実施した。戦争を防止絶滅する方法を検討し、国際平和と戦争否認のメッセージを国内外に発信した。ただし、宗教者・宗教学者の間では「戦争と平和」の捉え方はさまざまであり、統一的な見解が導かれたわけではなかった。とはいえ、二つのイベントは戦争の違法性と罪悪性を問いながら、宗教者の立場から戦争放棄を促進する平和への取り組みであった。それはまた、国際的な宗教者平和運動のネットワークにも連なる可能性を有した事業だった。

  • 戦間期を中心に
    岡本 拓司
    2023 年 97 巻 2 号 p. 101-125
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    江戸時代中期には科学と宗教の対立は見られなかったものの、幕末に西洋の文物が大量に流入し始めると、科学の浸透を通じた倫理・道徳等への影響が、西洋から及ぶことへの懸念が生じ始める。明治維新以降、西洋において科学と宗教の分離が進んでいることが理解されるとこの懸念は薄れ、他方では統治と道徳の根拠としての天皇の神聖性が受容を見ることとなる。しかし、ソヴィエト連邦の誕生以降、科学的社会主義の影響が日本に及ぶと、科学と、国家が帯びる宗教性との間に整合性を見出すという思想上の課題が意識されるようになる。この課題は、一九四〇年から一九四三年まで文部大臣を務めた橋田邦彦の、科学に携わる人間の精神性に注目した議論により一定の解決を見るが、英米との科学戦での頽勢を精神性によって補うことはできず、原子爆弾に象徴される英米の科学と物質に対し日本が敗北を喫した反省から、第二次大戦後の国家と社会は、科学技術の振興を目標とするに至る。

  • 戦間期ドイツにおける「自由プロテスタンティズム」と「宗教」
    久保田 浩
    2023 年 97 巻 2 号 p. 127-152
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    戦間期ドイツでは、宗教研究が学説の点でも制度の点でも長足の進展を遂げたが、後にその(偽装)神学的な性格が指摘され、自由主義的なプロテスタンティズムとの関係が問われてきた。本稿では、こうした学説史的な評価から離れ、戦間期の自由主義的なプロテスタンティズムの歴史を叙述することで、当時の宗教研究を生み出した宗教史的文脈を探る。その際、一九世紀後半以降の宗教的自由主義の遺産が戦間期に如何に記憶され、それが如何なる現状認識と将来構想につながったのかを明らかにする。具体的には、狭義の「自由主義神学」でも社会的ミリューとしての「文化プロテスタンティズム」でもなく、君主による教会統治権が消滅した大戦後も継続した正統主義的教会体制の中で「自由に信じること」を思想的にも実践的にも追求してきた「自由プロテスタンティズム」の教会政治的・教養文化的活動を取り上げ、それらが教会内の教会政治的・神学的対立構造、並びに教会外の非キリスト教的諸団体との協力関係の中で果たした調停的役割を指摘する。

  • 反植民地闘争を率いたリビアのスーフィー教団
    塩尻 和子
    2023 年 97 巻 2 号 p. 153-173
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    第一次世界大戦前の一九一一年からリビアはイタリアによって過酷な植民地支配を受け、多くのリビア人が犠牲になった。そのなかで社会参加型の視点をもった神秘主義思想を目指したサヌースィー教団の活動は、戦間期のネオ・スーフィズムの一環であったとみなされる。その活動は砂漠の遊牧民の団結を目標に展開され、ジハードを掲げて武装集団を指揮し、リビアへ侵攻するヨーロッパ列強の撃退を担った。創始者の大サヌースィーによって最初の修道場が建設されて以降、特に第三代教団長の下では、リビア以外のエジプト、スーダンでも外国勢力と戦うことになった。神秘主義教団によるゲリラ戦は負け戦になることが多かったが、第二次世界大戦では連合軍に加わり、小規模ながらこの参戦によって戦後の一九五一年一二月にリビア連合王国の独立を勝ち取った。サヌースィー教団の活動は、西洋列強による植民地政策に抵抗する政治的活動を宗教的に意味づける効果があった。

  • 菅 浩二
    2023 年 97 巻 2 号 p. 175-199
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    米国人宗教学者W・P・ウッダードについては、その主著The Allied Occupation of Japan 1945-1952 and Japanese Religionsへの注目もあり、日本占領期および講和後に関する業績にほぼ関心が集中してきた。

    一方で本稿は、彼が、神道指令の標的「国体カルト」が両大戦間期後半に出現した、と論じていることに注目する。そして主著の草稿の一部である、阿部美哉訳の日本語論考に含まれる、知日派外交官への共感、国体カルト出現に介在したという極端論者の例、そのカルトの告発者に当たる人々の動向、などを検討する。

    その結果、ウッダードが自らの滞日経験に即し、天皇・神道と軍国主義の間の楔として導きだしたのが、国体カルトの禁止という文脈であったと理解される。一方でその成立は、総力戦体制による社会変化の時期にも対応する。向後さらなる資料調査により、この見方を補強しつつ、その意味するところを考察していきたい。

  • 鈴木 正崇
    2023 年 97 巻 2 号 p. 201-226
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    日本では一九二〇年代に、「宗教民族学」という独自の学問領域が成立した。宗教民族学は、未開宗教の研究を出発点に、諸民族の宗教の比較研究に展開し、植民地化の進展の過程で戦争協力に結びついた。「民族」概念は、近代化の進行と共に様々に読み変えられ、イデオロギー性を帯びて、ナショナリズムを高揚させたのである。総力戦体制の下では、「精神」という言葉が、「国民精神」「民族精神」「日本精神」などの複合語を生み出し、「民族」と関連づけられて変化していった。宗教民族学は「民族宗教」をキーワードとして展開したが、独自の意味合いが伴った。宗教学では、「民族宗教」は、世界宗教(創唱宗教)と対比される類型だが、日本の民族宗教には、「固有」という意味が付き纏うことになった。現代の神社神道は「神道は日本固有の民族宗教である」と説明する。本稿は、宗教民族学を巡る戦前と戦後の言説を検討して、学知の連続と非連続の諸相を探る。

  • 永岡 崇
    2023 年 97 巻 2 号 p. 227-249
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    本稿では、大戦間期における新宗教の動向を、身体性に焦点をあわせて検討する。この時期には、幕末維新期から活動を続けてきた教団に加え、新たな形態の教団も多数現れ、全体として新宗教が大きな存在感を示していた。他方で、これらの諸宗教が社会の多数派から批判や蔑視の対象とされていたことも事実である。とくに、彼らによる病気治しの教えや実践は、〝低級〟〝インチキ〟などいった評価を与えられていた。しかし、新宗教による身体へのアプローチは、既成宗教とは異なった形での実践性があり、そこにこそ他には還元できない近代経験の質が含まれているのではないだろうか。そこで、近代社会における新宗教の身体へのアプローチを、「働く身体」と「規律化された身体」の養成という観点から検討し、新宗教の近代を資本主義や国家主義、総力戦体制との関係のなかでとらえなおす。

  • 「多神教」の諸相
    平藤 喜久子
    2023 年 97 巻 2 号 p. 251-274
    発行日: 2023/09/08
    公開日: 2024/02/29
    ジャーナル フリー

    「多神教」という語は、明治期に登場する。多くの神を信じる宗教という字義通りの意味で使用されることもあるが、宗教進化論を背景に一神教と対比され、より進化の程度が低く、遅れた宗教というイメージも持たれた。するととくに神道家を中心に神道を多神教と分類することに異議も唱えられるようになった。

    本稿では、戦間期である一九二七年に発表された泉鏡花の戯曲「多神教」が、こうした多神教コンプレックスを前提とした作品であることを指摘し、その上で戦間期が、多神教のイメージの転換期であることを論じた。その転換とは、多神教を進化論の枠組みから解放し、多神教である神道の発展性を強調するものであった。この言説は、ファシズム期の植民地支配において、多神教国日本が一神教よりも支配において優位であると論じる主張と共鳴することになった。

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